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成長する王女
一年の部 準決勝 第一試合
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次の日、マリー達は昨日と同じように第一闘技場に集まっていた。今日の観客は昨日よりも増えていた。
「今日は多いね。一年生以外にもいそう」
マリーは、昨日と同じようにアル達と固まって、席に着いていた。
「そうだな。例年、各学年の準決勝、決勝は多くの人が入ると聞いている。学院外の人も来る事が出来るから、これからもっと増えるかもしれないぞ」
アルの話に、マリー、コハク、リリーが感心したように頷いた。同じように王城に住んでいるリリーは、一度もこの大会を見学した事がないので、知らなかったのだ。
「そうなんだよね。少し緊張するかも……」
セレナは、少し青い顔になっていた。その背中をアイリがさすっている。
「最初にあたるのは、誰と誰なんだろうね?」
「そうだな。少し楽しみだ」
リンとアルは、緊張どころか逆にわくわくしているようだった。マリー達が、そんな事を話していると、
「おっ、ここにいたのか」
マリー達が声のした方を向くと、そこにいたのは昨日、マリーと戦ったガルシアだった。
「ガルシアくん、どうしたの?」
「ああ、一応、応援しておこうと思ってな」
「そうなの? ありがとう」
「おう、頑張れよ」
それだけ言うと、ガルシアはその場を去って行った。昨日の敵は今日の友という感じだろう。
「ここの周り空いてるんだから、座れば良かったのに」
マリー達が並んで座っている席には、何席か空いている場所があった。しかし、ガルシアは、そこに座らず、そこからかなり離れた場所に向かっていた。
「気を遣ったのかな? 見た目の割りに、気配り上手だね」
「見た目の割りには、余計なんじゃ……」
セレナをアイリが注意する。実際、顔つきだけなら学生では無く裏家業の人間と思われても仕方ないのかもしれない。
「マリーさんは、人を惹きつける何かがあるのかもしれませんわね」
「それはないと思うけど……」
マリーがやんわりと否定したと同時に、闘技場の審判席に先生がやってくる。今日の審判は、カレナだった。
『では、魔武闘大会一年の部、準決勝第一試合を始めます。呼ばれた生徒は、闘技場まで降りてきてください。Sクラス、セレナ・クリストン、同じくSクラス、アルゲート・ディラ・カストル』
名前を呼ばれた瞬間、セレナはビクッと震えた。かなり緊張していたらしい。そして、その後にアルの名前が出てくると、今度は絶望の表情になった。
「セレナ、頑張って!」
アイリがセレナの背中を押す。それまで不安顔だったセレナは、それだけで少し気分が紛れたらしい。緊張はしているものの、身体は少しリラックスしていた。
「アルくんも頑張って」
「ああ」
アルとセレナは揃って闘技場内に降りて行く。そして、互いに向き合って所定の位置に付く。
『準備は良いですね? それでは、始め!』
アルとセレナは、互いに駆け出す。お互いの武器は剣。必然的に接近戦となる。だが、一つだけ違う事があるとすれば、剣の種類だ。アルが片手直剣なのに対して、セレナは細剣だ。まともに打ち合えば、負けてしまうのはセレナの方だろう。下手をすれば、細剣の方が折れてしまう。
「はぁぁぁぁぁ!」
セレナの刺突を、アルは払いのけるように弾く。その流れで、袈裟懸けに斬ろうとした。それに対してセレナは、風を纏って、素早く飛び退く。
「やぁ!」
セレナは、風を纏い、瞬発力を一時的に上げる事で、高速の突きを繰り出す。アルは、その突きを、剣の側面に当てるようにして、受け流す。その結果、セレナの体勢がわずかに崩れる。その隙を見逃さずに、剣を斬り上げた。
「……!!」
セレナは、纏っていた風をアルの剣の軌道に合わせて、密度を濃くさせる。
「ちっ!」
アルの剣は、セレナの風を斬り裂こうとするが、表面を撫でるだけしか出来なかった。セレナは、そのまま大きく飛び退いて距離を取る。
今度は二人とも距離を詰めず、互いに構えたまま止まる。互いに相手の出方を窺っているのだ。
先に攻勢に出たのは、アルの方だった。剣に火属性の魔力を通して、火属性を纏わせる。
「はあっ!」
アルの大きな薙ぎ払いを、セレナは素早く屈む事で避ける。アルの剣が通り過ぎたタイミングで、身体をバネのように跳ねさせて、アルに向かって細剣を突き出す。もちろん、風の後押しも付け加える。
アルの心臓に向かって突き出された細剣は、本当にギリギリのところで身体を捻ったアルに避けられる。当てる事は出来なかったが、掠る事は出来た。しかし、それでは、大したダメージを与える事は出来ない。
セレナは、風を纏ったまま動き続ける。そして、風を操り自分の音を消した。一切の足音や衣擦れの音を消して動くため、アルとしてもやりづらくて仕方が無い。風を纏ったままのセレナは、異常な速度を保ち、ヒットアンドアウェイを繰り返している。
(ある程度の軌道が読めるコハクの縮地よりも厄介だな……さらに言えば、音が消えているのもやりにくい要因の一つか……)
アルは、自分の目と感覚だけを信じて、セレナの攻撃を防いでいる。
(この調子なら倒せるかもしれない。でも、油断はできない。隙を狙って貫通を使う事が出来れば……)
(防戦だけではだめだな。このままでは、大技でやられてしまう。なら……)
アルの剣に、火属性の魔力が異常なまでに集まる。
「やばっ!」
アルは、剣を地面に勢いよく突き刺す。アルを中心に、高温の熱波が闘技場内に広がっていく。セレナは、身体に何重にもした風を纏い、何とか熱波を防ぐ。
「エグい事するなぁ……」
「相手が相手だ。仕方ないだろう」
いつの間にか、セレナの背後に移動していたアルが、剣を振り下ろす。纏っていた風は、先程の熱波で削られてしまっていた。そのため、先程と同じように、風の密度を上げて防ぐ事は出来ない。絶体絶命と思われたが、セレは、自分に風をぶつけて吹き飛んでいった。前にもやった緊急回避だ。
「うぐっ……」
地面を転がり、アルから距離を取った。アルの攻撃は空振りに終わる。
「やるな」
「それほどでも……」
アルとセレナは互いに睨み合う。セレナは少し焦っていた。
(そろそろ決着を付けないと……いつも以上に魔力を使いすぎた)
アルとの戦いは常に全力を出さないと、勝てる見込みがなかった。そのため、アイリと戦ったときよりも魔力の消耗が激しかったのだ。早く決着を付けなくては、魔力切れでセレナの負けが決まってしまう。
(一気に接近して、あれを撃つ事が出来れば……)
セレナは、身体に濃密な風を纏っていく。
「あれは……」
アルの警戒が強くなる。油断せずに、剣を構える。
セレナの身体は、濃密な風によって巻き上げられた砂埃によって隠されてしまった。
「…………」
アルは、いつでも動けるようにしている。
セレナは、砂埃の中で集中していた。今までに無いくらいの風の量を操っている。限界以上の事をしているため、許容限界を超えたセレナの目や鼻から血が出てくる。
「ぐっ……」
そんな闘技場の様子を心配そうに見ているアイリ。
「セレナ……」
セレナには、アイリの様子など知る事は出来ない。その余裕すらない。しかし、その想いは届いた。
「アイリ……」
許容限界を超えたセレナは、押し寄せる頭痛を無視する。そして、風を操り、自分と剣に纏わせる。
「やああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
異常な速度で駆けだしたセレナは、アルの眼にも捉えきれなかった。
「『貫通・暴嵐』!」
アイリの時以上の密度となった風の一撃が、アルを襲う。
「はぁあああああああああ!!」
アルは、避ける事なくカウンターを仕掛ける。剣には、既に火属性の魔力が先程以上に通っている。つまり、前の時と同じく、互いの一撃のぶつかり合いとなった。違うのは属性だけだ。
ほとんど魔剣術とほぼ変わりない威力になっていたアルの一撃と、自身が出せる限界以上の力を引き出したセレナの一撃。二人の攻撃は、奇しくも拮抗する威力だった。
「うぐぐぐぐ……」
「くっ……」
両者の剣と剣は触れあってすらいない。互いの魔力と魔力がぶつかり合い、大きな衝撃波を生む。それは、不思議にも、本人達には感じないものだった。だが、衝撃波は、関係のない観客席へと襲い掛かる。
「『神域《サンクチュアリィ》』!!」
審判であったカレナが闘技場に結界を張る。それは、外側からの攻撃を防ぐものではない。その逆、内側の攻撃を防ぐものだった。衝撃波は、観客席を襲う前に神域にぶつかり消失する。観客席からは歓声が失せ、唖然としていた。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
拮抗は続く。闘技場内の地面が捲り上がっていき、ぶつかり合った魔力が、また衝撃波を生む。辺り一帯の空が曇りだした。大きな魔力と魔力のぶつかり合いは、周りの自然にまで影響を及ぼすのだ。
カレナの神域は、衝撃波を防ぐ事は出来ても、魔力による自然への影響を抑える事は出来ない。
「これって、大丈夫なの!?」
観客席にいるコハクが、少し焦りながらそう叫ぶ。
「こんなの初めて見ましたわ……」
リリーは唖然としている。
「セレナ……」
アイリは、涙目になりながら、セレナを見ていた。
「…………」
マリーは、真剣な表情で闘技場内を見ていた。しかし、その眼には、少しの不安が浮かんでいた。
「これは……」
審判であるカレナは、試合を止めるかどうかを迷っていた。しかし、その前に状況が動いた。
拮抗していたアルとセレナの一撃に、傾きが出来たのだ。
先に限界を迎えたのは、セレナの方だった。やはり、限界を超えた力を、長く出し続ける事は出来なかったのだ。
「うっ……!」
セレナの一撃に打ち勝ったアルの一撃が、セレナを襲った。身体的にも限界を迎えていたセレナは、その一撃で気絶した。さすがに、アルも消耗してしまったのか、膝を付いた。
『勝者、アルゲート・ディラ・カストル! 医療班は急いでください!』
闘技場内に、担架を持った医療班が入ってくる。医療班は、セレナを担架に乗せると、揺らさないように気を付けながら、運んでいった。アルも自分の脚で歩いて、一緒に医務室に向かった。
『闘技場を修繕しますので、少しの間お待ちください』
セレナのアナウンスとともに、闘技場内に複数のスタッフが入ってくる。そして、土魔法を使ってボロボロになった闘技場を修繕していく。
あまりの戦いに、観客達は試合終了後も呆然としたままだった。
「今日は多いね。一年生以外にもいそう」
マリーは、昨日と同じようにアル達と固まって、席に着いていた。
「そうだな。例年、各学年の準決勝、決勝は多くの人が入ると聞いている。学院外の人も来る事が出来るから、これからもっと増えるかもしれないぞ」
アルの話に、マリー、コハク、リリーが感心したように頷いた。同じように王城に住んでいるリリーは、一度もこの大会を見学した事がないので、知らなかったのだ。
「そうなんだよね。少し緊張するかも……」
セレナは、少し青い顔になっていた。その背中をアイリがさすっている。
「最初にあたるのは、誰と誰なんだろうね?」
「そうだな。少し楽しみだ」
リンとアルは、緊張どころか逆にわくわくしているようだった。マリー達が、そんな事を話していると、
「おっ、ここにいたのか」
マリー達が声のした方を向くと、そこにいたのは昨日、マリーと戦ったガルシアだった。
「ガルシアくん、どうしたの?」
「ああ、一応、応援しておこうと思ってな」
「そうなの? ありがとう」
「おう、頑張れよ」
それだけ言うと、ガルシアはその場を去って行った。昨日の敵は今日の友という感じだろう。
「ここの周り空いてるんだから、座れば良かったのに」
マリー達が並んで座っている席には、何席か空いている場所があった。しかし、ガルシアは、そこに座らず、そこからかなり離れた場所に向かっていた。
「気を遣ったのかな? 見た目の割りに、気配り上手だね」
「見た目の割りには、余計なんじゃ……」
セレナをアイリが注意する。実際、顔つきだけなら学生では無く裏家業の人間と思われても仕方ないのかもしれない。
「マリーさんは、人を惹きつける何かがあるのかもしれませんわね」
「それはないと思うけど……」
マリーがやんわりと否定したと同時に、闘技場の審判席に先生がやってくる。今日の審判は、カレナだった。
『では、魔武闘大会一年の部、準決勝第一試合を始めます。呼ばれた生徒は、闘技場まで降りてきてください。Sクラス、セレナ・クリストン、同じくSクラス、アルゲート・ディラ・カストル』
名前を呼ばれた瞬間、セレナはビクッと震えた。かなり緊張していたらしい。そして、その後にアルの名前が出てくると、今度は絶望の表情になった。
「セレナ、頑張って!」
アイリがセレナの背中を押す。それまで不安顔だったセレナは、それだけで少し気分が紛れたらしい。緊張はしているものの、身体は少しリラックスしていた。
「アルくんも頑張って」
「ああ」
アルとセレナは揃って闘技場内に降りて行く。そして、互いに向き合って所定の位置に付く。
『準備は良いですね? それでは、始め!』
アルとセレナは、互いに駆け出す。お互いの武器は剣。必然的に接近戦となる。だが、一つだけ違う事があるとすれば、剣の種類だ。アルが片手直剣なのに対して、セレナは細剣だ。まともに打ち合えば、負けてしまうのはセレナの方だろう。下手をすれば、細剣の方が折れてしまう。
「はぁぁぁぁぁ!」
セレナの刺突を、アルは払いのけるように弾く。その流れで、袈裟懸けに斬ろうとした。それに対してセレナは、風を纏って、素早く飛び退く。
「やぁ!」
セレナは、風を纏い、瞬発力を一時的に上げる事で、高速の突きを繰り出す。アルは、その突きを、剣の側面に当てるようにして、受け流す。その結果、セレナの体勢がわずかに崩れる。その隙を見逃さずに、剣を斬り上げた。
「……!!」
セレナは、纏っていた風をアルの剣の軌道に合わせて、密度を濃くさせる。
「ちっ!」
アルの剣は、セレナの風を斬り裂こうとするが、表面を撫でるだけしか出来なかった。セレナは、そのまま大きく飛び退いて距離を取る。
今度は二人とも距離を詰めず、互いに構えたまま止まる。互いに相手の出方を窺っているのだ。
先に攻勢に出たのは、アルの方だった。剣に火属性の魔力を通して、火属性を纏わせる。
「はあっ!」
アルの大きな薙ぎ払いを、セレナは素早く屈む事で避ける。アルの剣が通り過ぎたタイミングで、身体をバネのように跳ねさせて、アルに向かって細剣を突き出す。もちろん、風の後押しも付け加える。
アルの心臓に向かって突き出された細剣は、本当にギリギリのところで身体を捻ったアルに避けられる。当てる事は出来なかったが、掠る事は出来た。しかし、それでは、大したダメージを与える事は出来ない。
セレナは、風を纏ったまま動き続ける。そして、風を操り自分の音を消した。一切の足音や衣擦れの音を消して動くため、アルとしてもやりづらくて仕方が無い。風を纏ったままのセレナは、異常な速度を保ち、ヒットアンドアウェイを繰り返している。
(ある程度の軌道が読めるコハクの縮地よりも厄介だな……さらに言えば、音が消えているのもやりにくい要因の一つか……)
アルは、自分の目と感覚だけを信じて、セレナの攻撃を防いでいる。
(この調子なら倒せるかもしれない。でも、油断はできない。隙を狙って貫通を使う事が出来れば……)
(防戦だけではだめだな。このままでは、大技でやられてしまう。なら……)
アルの剣に、火属性の魔力が異常なまでに集まる。
「やばっ!」
アルは、剣を地面に勢いよく突き刺す。アルを中心に、高温の熱波が闘技場内に広がっていく。セレナは、身体に何重にもした風を纏い、何とか熱波を防ぐ。
「エグい事するなぁ……」
「相手が相手だ。仕方ないだろう」
いつの間にか、セレナの背後に移動していたアルが、剣を振り下ろす。纏っていた風は、先程の熱波で削られてしまっていた。そのため、先程と同じように、風の密度を上げて防ぐ事は出来ない。絶体絶命と思われたが、セレは、自分に風をぶつけて吹き飛んでいった。前にもやった緊急回避だ。
「うぐっ……」
地面を転がり、アルから距離を取った。アルの攻撃は空振りに終わる。
「やるな」
「それほどでも……」
アルとセレナは互いに睨み合う。セレナは少し焦っていた。
(そろそろ決着を付けないと……いつも以上に魔力を使いすぎた)
アルとの戦いは常に全力を出さないと、勝てる見込みがなかった。そのため、アイリと戦ったときよりも魔力の消耗が激しかったのだ。早く決着を付けなくては、魔力切れでセレナの負けが決まってしまう。
(一気に接近して、あれを撃つ事が出来れば……)
セレナは、身体に濃密な風を纏っていく。
「あれは……」
アルの警戒が強くなる。油断せずに、剣を構える。
セレナの身体は、濃密な風によって巻き上げられた砂埃によって隠されてしまった。
「…………」
アルは、いつでも動けるようにしている。
セレナは、砂埃の中で集中していた。今までに無いくらいの風の量を操っている。限界以上の事をしているため、許容限界を超えたセレナの目や鼻から血が出てくる。
「ぐっ……」
そんな闘技場の様子を心配そうに見ているアイリ。
「セレナ……」
セレナには、アイリの様子など知る事は出来ない。その余裕すらない。しかし、その想いは届いた。
「アイリ……」
許容限界を超えたセレナは、押し寄せる頭痛を無視する。そして、風を操り、自分と剣に纏わせる。
「やああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
異常な速度で駆けだしたセレナは、アルの眼にも捉えきれなかった。
「『貫通・暴嵐』!」
アイリの時以上の密度となった風の一撃が、アルを襲う。
「はぁあああああああああ!!」
アルは、避ける事なくカウンターを仕掛ける。剣には、既に火属性の魔力が先程以上に通っている。つまり、前の時と同じく、互いの一撃のぶつかり合いとなった。違うのは属性だけだ。
ほとんど魔剣術とほぼ変わりない威力になっていたアルの一撃と、自身が出せる限界以上の力を引き出したセレナの一撃。二人の攻撃は、奇しくも拮抗する威力だった。
「うぐぐぐぐ……」
「くっ……」
両者の剣と剣は触れあってすらいない。互いの魔力と魔力がぶつかり合い、大きな衝撃波を生む。それは、不思議にも、本人達には感じないものだった。だが、衝撃波は、関係のない観客席へと襲い掛かる。
「『神域《サンクチュアリィ》』!!」
審判であったカレナが闘技場に結界を張る。それは、外側からの攻撃を防ぐものではない。その逆、内側の攻撃を防ぐものだった。衝撃波は、観客席を襲う前に神域にぶつかり消失する。観客席からは歓声が失せ、唖然としていた。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
拮抗は続く。闘技場内の地面が捲り上がっていき、ぶつかり合った魔力が、また衝撃波を生む。辺り一帯の空が曇りだした。大きな魔力と魔力のぶつかり合いは、周りの自然にまで影響を及ぼすのだ。
カレナの神域は、衝撃波を防ぐ事は出来ても、魔力による自然への影響を抑える事は出来ない。
「これって、大丈夫なの!?」
観客席にいるコハクが、少し焦りながらそう叫ぶ。
「こんなの初めて見ましたわ……」
リリーは唖然としている。
「セレナ……」
アイリは、涙目になりながら、セレナを見ていた。
「…………」
マリーは、真剣な表情で闘技場内を見ていた。しかし、その眼には、少しの不安が浮かんでいた。
「これは……」
審判であるカレナは、試合を止めるかどうかを迷っていた。しかし、その前に状況が動いた。
拮抗していたアルとセレナの一撃に、傾きが出来たのだ。
先に限界を迎えたのは、セレナの方だった。やはり、限界を超えた力を、長く出し続ける事は出来なかったのだ。
「うっ……!」
セレナの一撃に打ち勝ったアルの一撃が、セレナを襲った。身体的にも限界を迎えていたセレナは、その一撃で気絶した。さすがに、アルも消耗してしまったのか、膝を付いた。
『勝者、アルゲート・ディラ・カストル! 医療班は急いでください!』
闘技場内に、担架を持った医療班が入ってくる。医療班は、セレナを担架に乗せると、揺らさないように気を付けながら、運んでいった。アルも自分の脚で歩いて、一緒に医務室に向かった。
『闘技場を修繕しますので、少しの間お待ちください』
セレナのアナウンスとともに、闘技場内に複数のスタッフが入ってくる。そして、土魔法を使ってボロボロになった闘技場を修繕していく。
あまりの戦いに、観客達は試合終了後も呆然としたままだった。
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