捨てられた王女は魔道具職人を目指す

月輪林檎

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マリーの進む道

退院と再会

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 三週間にも及んだ入院生活を終え、マリーの退院の日がやってきた。病室に迎えに来てくれたコハクが持ってきた車椅子に座ったマリーは、サイラに近づく。

「先輩の目を作ったら、また来ますね」
「うん。でも、普通にいつでも来て良いよ。この間まで賑やかだったから、ちょっと寂しいし」
「はい! じゃあ、また」
「うん。またね」

 コハクに押されて、マリーは病院の入口に着いた。そこで、マリーの義足を受け取る。それは、一緒に迎えに来たリリーが受け取った。

「わっ……結構重いですわ」
「まぁ、金属の塊だしね。それでも、軽量化を掛けているから、マシな方だよ」
「そうなんですわね……」

 リリーは、マリーの脚を大事そうに抱えていた。

「そこまで大事に扱わなくても大丈夫だよ。それは、もう使わないし」
「そうなんですの?」
「うん。どちらかと言うと、使えないが正しいけど。ボロボロのボロだから」
「ちょっと、勿体ないですわね」
「じゃあ、リリーにあげようか?」
「良いんですの!? 貰いますわ!」

 なんちゃってと付け足そうとしたマリーを遮って、リリーは嬉しそうにマリーの元義足を抱きしめた。マリーは、ここでそんな事を言えば、リリーを落胆させてしまうと思い、回収は諦めた。

(金属の脚なんて貰ってどうするんだろう?)

 リリーからすれば、大好きな姉の身体の一部を貰えたという喜びがあったが、当の本人であるマリーには理解出来なかった。
 そんなやり取りをしつつ、病院から出ると、アル、リン、セレナ、アイリが待っていた。

「なんだ。皆、来てくれたんだ」
「せっかくの退院日だからな。何か欲しいものはあるか?」
「えっと、魔鉄とミスリルと魔力油と魔鉱石と魔ゴムかな」
「はぁ……まぁ、良い。だが、仕入れるとなると、メアリーゼ触媒店ではなくなるぞ」
「あっ!! くっ……諦めよう……」

 マリーとしては、触媒や素材などは、ネルロの店で揃えたいと考えていた。それだけ、ネルロの店の品揃えと品質が良いものだからだった。

「それじゃあ、しばらくは車椅子で生活かぁ。ねぇ、コハク。この車椅子って改造して平気?」
「まぁ、マリーの物として買ったから良いけど」
「よし! 取り敢えず、自分で動かせるようにしよっと。コハクに頼りっきりって訳にもいかないし」
「別に気にしないで良いのに」

 マリーの部屋は二階にあるので、上り下りが大変になる。それを毎回コハクに頼むのは悪いと感じ、自分で動かせるように改造しようと決めたのだった。

「剣舞と同じ感じにすれば、少しだけ浮くことだって出来なくはないだろうから。そっちの方が早いと思うし。あっ、そうだ。アルくん、私の剣を集めてくれたんだって? ありがとう!」
「ああ。だが、正直使い物になるかは分からないぞ? そのくらい壊れていたからな」
「まぁ、そこは仕方ないって割り切ってるから大丈夫。使えそうだったら、もう一回融かせば良いし」
「そうか。まぁ、マリーが喜んでくれたなら、それで良い」
「うん! 本当にありがとう」

 そんな二人のやり取りが終わるのと同時に、アイリが手を叩く。

「それじゃあ、マリーちゃんの退院祝いに、皆でご飯に行こ。実は、セレナと二人で良いところ予約しておいたんだ」
「マリーも、普段通りに食べられはするんでしょ?」
「うん。食事は問題無いよ」
「よし! それじゃあ行こう!」

 セレナの先導で店へと向かう。マリー達は、久しぶりの平和な時間を大いに楽しんだ。そうして、食事も終えたところで、マリーとコハクは家に帰っていく。

「はぁ~……やっと家だよ」
「もう二ヶ月近く帰ってなかったしね。マリーからしたら、懐かしいって感じか」
「本当にね。あ~あ、ネルロさんが帰ってたら、魔道具作るのになぁ~……」
「余ってる材料で、何か作れば?」
「ほとんど戦場に持ち出したから、余ってる材料なんてないもん」
「まぁ、偶には良いんじゃない? 魔道具から離れて、ただ悠々と暮らすのもさ」
「悠々とねぇ。リリーから、あの話って聞いた?」

 マリーからそう訊かれて、コハクは少し眉を寄せる。

「あの話? 何かあったかな……あっ、もしかして、王妃様のやつ?」
「そう。リリーは、前みたいにはならないって言ってたけど、どうなるかなって」
「まぁ、マリーは心配になってもおかしくないか。でも、あの人は、もうマリーに手を出さないんでしょ?」
「まぁ、国王の直属って言ってたからね。王妃に従う必要はないだろうし。今頃何してるのかすら分からないよ。下手すると、今も私を見守ってるんじゃない?」

 王都に戻った後は、自由にして良いと言っているので、

「うぇ~……凄い忠誠心……って言うのかな?」
「私に忠誠心を抱かれてもねぇ。私、血を引いてるってだけだし」
「それだけでも、十分に思えるけどね。取り敢えず、家に帰ったら、お風呂に入ろうか」
「コハク洗って~」
「一緒には入るけど、洗うのは自分で出来るでしょ」
「えぇ~……ミリス先輩は洗ってくれたのになぁ~」
「先輩に甘えすぎでしょ。私は、甘やかしませ~ん」
「ケチ」
「私に甘えが通用するって思う方がおかしいと思うけど。何年付き合いだと思ってるのさ」
「は~あ……脚がなくて困ってるのになぁ」

 マリーはそう言いながら、チラチラと後ろにいるコハクを見る。コハクは、そんな風に見てくるマリーの頬を摘まんで、横に引っ張る。

「本当に困ってる人が、そんなあざとい事すると思う?」
「おもふ!」
「馬鹿」

 コハクは、マリーの頭に手刀を落としつつ、家の中に押していった。結局、コハクがマリーを洗うという事はなく、ぶーたれながら自分で洗った。

────────────────────────

 それから二週間後。ぐっすりと眠っているマリーの部屋にコハクが飛び込んできた。

「マリー!」
「ふぇあっ!?」

 コハクの大声に驚いたマリーは、飛び起きる。

「はぁ……? コハク……? 何?」
「これ!」

 コハクは、マリーの目の前に一枚の紙を突きつける。マリーは、その紙を受け取って、中身を見る。

「……」

 読み進めていくと、マリーの眼が段々と開いていき、完全に目を覚ました。

「コハク! 着替えを手伝って!」
「分かってる」

 マリーが言葉にする前に、コハクはマリーの服を用意していた。マリーは上を着替えて、コハクが下を着替えさせる。
 そうして外着に着替えた後、顔を洗ってから、車椅子に乗って街の出入口へと向かった。既にマリーが魔法陣を刻んでいるので、マリーが自分で動かす事が出来る。だが、それを外で見せてしまうと、否が応でも目立ってしまう。なので、外ではコハクに押して貰っていた。
 本来であれば、こういう場面でソフィに任せるべきなのだが、義足と同じく材料の関係で、今は全機能をオフにされている。
 街の出入口には多くの人がいた。そのほとんどが、鎧を着ていた。そう。ここにいるのは、全員戦争に行っていた兵士達だった。
 マリーが先程読んだ紙に書いてあったのは、戦争に行っていた人達が戻ってくるというもの。攻めてきた魔族を全滅させ、ようやく帰還出来るようになったのだ。

「お母さん……」

 マリーは、必死にカーリーの姿を探す。だが、人の数が多すぎるため、容易に見つける事が出来ない。本当に帰ってきているのか、マリーが心配になっていると、

「全くなんだい! 碌に進めやしないよ! こんなところに固まってないで、さっさと家に帰ったらどうだい!」
「まぁまぁ、皆さん、お疲れでしょうし、仕方ないと思いますよ」
「私は、カーリーさんと同意見……身体が怠い人もいるんだから、早く進んで欲しいわ」
「だから、造血薬を飲めば良いって言ってるのに」
「私としては、あれを飲める人がいる事が信じられないわ。生臭いのレベルを超えてるわよ。何で、あんな飲み薬を作ったのか理解出来ないわ……」
「必要な人がいるからでしょ。全く……」

 そんな三人の声が聞こえてきた。マリー達は、すぐに声の聞こえた方に向かう。すると、二人の見知った三人の後ろ姿が見えてきた。

「お母さん!」

 マリーが叫ぶと、カーリーはすぐに振り向いた。そして、すぐにマリー達の元までやってくる。

「マリー……本当に、脚をやられたんだね」
「あ、うん。もう医者にも診てもらったから、大丈夫だよ」

 マリーがそう言うと、カーリーは口だけで笑みを作りながら、マリーの頭を撫でる。

「そうかい。コハク達に怪我は?」
「ありません。ただ、先輩の一人が、目をやられてしまいました」
「そうかい。向かうのが遅れて、本当に申し訳ないね」
「ううん。カレナ先生が来てくれなかったら、そもそも死んでいただろうから、来てくれただけでも助かったよ」
「そう言ってくれると、こっちも気が楽さね」

 カーリーの胸中は、自責の念で一杯だった。そんなカーリーに、マリーは笑みを送る。自分は気にしていないということ、そして、カーリーが無事にいてくれて良かったという事を伝える為に。

「あっ! そうだ! ネルロさん! 素材売って下さい!」
「わ~お……戦場帰りに、真っ先に聞く言葉が、それとは思わなかったわ。まぁ、義足を作らないとだものね。足が速いものじゃなければ、まだあるだろうから、店に行きましょうか」
「お願いします」
「それなら、私は一足先に家に戻って、寝るさね。夕飯も今日は二人で食べな」
「うん。分かった」

 カーリーは、最後にマリーを一撫でして、家への帰路についた。マリー達は、カレナも一緒にネルロの店へと向かう。

「ネルロさん、顔色が悪いですね」
「結局、今回の戦いでも、自分の血を使う羽目になったのよ。左翼の戦場を蹂躙しただけで、使えなくなっちゃって、大変だったわ。カーリーさんとカレナがいなかったら、私の命が危なかったもの」
「お疲れ様です」
「それはこっちの台詞よ。マリーちゃんだって、苦労してるじゃない」
「命があるだけ、有り難いです」
「そうね」

 そんな話をしながらネルロの店に入り、必要な材料を購入して、魔法鞄に詰め込んでいく。詰め込む作業は、カレナとコハクがしてくれた。

「これだけあれば、脚は大丈夫だと思います! ありがとうございました! コハク!」
「分かったって。じゃあ、失礼します」

 コハクに押されて、マリーは帰路へとついた。その二人を、カレナとネルロが見送る。

「マリーちゃんって、本当に強い子よね」
「本当にね。狼狽えた私が恥ずかしいくらいだから」
「自分の生徒が大怪我をしたんだから、狼狽えるくらい仕方ないでしょ。ふぁ~……私はもう寝るわ」
「分かった。それじゃあ、また」
「また」

 ここでカレナとネルロも解散した。ようやく戦争が終わったとは言っても、それは争いだけ。まだまだ戦後処理が残っていた。だが、これはマリー達には関係のない事だった。
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