この声が、聞こえるあいだに

小野紅白

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七話

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翌日、中嶋にキーホルダーをあげると拝まれた。
いちいち大袈裟なやつだな。
……でも、ちょっと嬉しかったのは秘密だ。

中嶋が一人で騒いでいると三浦さんが登校してきた。

「おはよー。中嶋君ご機嫌だねー」

「お、お、おはよう。みっ、三浦ささささんっ」

「おはよう三浦ささささん」

「あははは。おはよー。山中君。三浦さささじゃなくて三浦サキねー。サキちゃんでもいいよ?あはははー。あ、凛ー!」

そう言って加賀屋さんのとこへ行ってしまった。

中嶋は手で顔を覆ってクネクネしている。

「どうしたの中嶋」

「三浦さんが、俺の名前を……」

「お、おう……お前の推し加賀屋さんじゃなかったっけ」

「箱で推してるから」

「何の箱だよ」

思わず笑ってしまった。


今日のロングホームルームでは、文化祭の出し物についての話し合いがあった。色々意見が出たけど、結局縁日風のゲームに決まった。
良かったよ。メイド喫茶とかやらされなくて。男女全員メイドって何だよ女装かよ。伊藤がノリノリだったから笑ったけど、巻き込まないで欲しい。

グループに別れてそれぞれ縁日風のゲームを作るんだそうだ。グループはクジで決める。
僕のグループは何故か中嶋と伊藤。それと女子が三人になった。
中嶋は「女子と喋るとカクカクしちゃう」とか言うから男三人でヨーヨー釣りのビニールプールもどきを作ることに。……教室だから水は使わない事になったんだ……。
あと、ヨーヨー釣りって言ってもヨーヨーだけじゃ味気ないよね、ってことで、女子たちは魚や釣竿を作ってくれることになった。

ビニールプールもどきを作りながら三人でダラダラ喋る。

「中嶋さ、女子と喋るとカクカクするって何なの」

伊藤がいきなり核心に迫る。

「えっ?い、伊藤?いや、ほら、カクカクすんじゃん。カクカク」

「いや、全然わっかんねーわ。あ、じゃあ、俺のこと女子だと思って喋ってみ?ほら、中嶋くぅん、ワタシ、カワイイ?」

伊藤がいきなりくねくねしながら裏声で喋り始める。

「んー……って、ぜんっぜん見えないわ!」

中嶋が全力で突っ込んで思わず笑ってしまった。

「どうしたのー?」

魚を作ってる女子が声をかけてくる。

「いや、伊藤が俺を女子だと…ダト…?オモッテ?トカ、言ウ…ウウカラ?」

あ、カクカクしてる。

「中嶋が女子と喋るの苦手って言うから、伊藤が俺のこと女子だと思って喋ってみ?って言ったけど、全然女子に見えなくて笑ってたんだよ」

「あはは何それ」

「苦手とは言ってないよ山中君っ?!」

「そうなの?」

おっ、女子がグイグイ行くな。どうなる中嶋。ふと見ると伊藤もニヤニヤしながら中嶋を見ている。

「う……うん、ちょ、ちょぉぉっと、カ、カクカク、し、ちゃうダケ!」

「おー、カクカクさっきよりマシだった!」

思わず褒める僕。

「ほんとに?!」

伊藤も声をかける。

「おう!マシだったぞ!まぁちょっとずつ慣れていけよ。なー」

「あはは、そうだね。あ、先生来たよ」

女子はそう言って作業に戻って行った。
僕たちも作業に戻って先生をやり過ごし、何となく三人で顔を合わせてニヤッとした。


そんな日々が流れていき、あっという間に月の最後の日曜になった。

「圭太さん、今朝の寝癖はバレリーナが舞い踊った後の舞台のようですわ」

「うぅ……昨日夜更かししちゃったんだから寝かしてよ……」

ついうっかりジョーリィ二十四巻分ぶっ通しで読破しちゃったんだよね……。

「でも今日は働きに行かれるのでは?勤労学生ですわね。うふふ」

あー、そうだった。今日はランチのシフトに入ってるんだった。

……あれ、今日って加賀屋さん来るんだっけ?三浦さんだけだった?え、どっち? やばい。急に緊張してきた。

「圭太さん?……圭太さん?」

「あ、ごめん。何だっけ」

「先ずは寝癖直しですわ」

「……あぁ、そうだったね」


寝癖を直して朝ごはんを食べる。
えー、カップラーメン食べちゃおっかな。

「圭太さん……?」

「野菜ジュース飲むから。…うん」

お湯を沸かしてズルズルとカップラーメンをすする。

……父さんはまだ寝てるのかな。
最近帰りが遅い日が多かったから、疲れてるのかもな。

軽く洗濯物片付けて、バイトに行く準備をする。

「圭太さん、ハンカチも忘れずにですわ」

「へいへい」


家を出ると、ひんやりとした風が吹いていた。
あー、もうそろそろ秋かー。秋なー。……秋休みって、なんで無いんだろうなー。

そんな得体も無い事を考えながら自転車のペダルを漕ぎ出す。

加賀屋さん、本当に来るのかな……。


バイト先に着くと、更衣室に先輩が居た。

「おはようございまーす」

「お、圭太君おはよー。この間のお土産?すんごい美味しかったよ。ありがとねー」

あ、父さんのお土産か。あれ、先輩久しぶりだっけ。

「いえいえ。何か、久しぶりです?」

「そうなんだよー。久しぶりだよね。なかなかシフト被んなくて。お姉さん寂しかったわー」

「あはは」

こういう時、ほんとなんて言ったら良いのかわかんないんだよな。

「僕もあなたの笑顔が見れなくて寂しかったですよ……とかどうでしょう!」

「ゲホッゲホッゲホッ!」

「圭太君?!急にどした?!大丈夫?!吐く?!」

「いや、すみません。大丈夫です大丈夫です!ほんと、大丈夫です!」

マダムの不意打ちにやられてしまった。

「……そう?大丈夫ならいいけど……。まぁ、先フロア出とくわ。何かあったら言いなねー。じゃお先ー」

先輩が行ったのを確認してマダムに言う。

「ほんっっと、やめて」

「失礼しましたわ。でも、銀幕スタァのような素敵な言葉選びだったと思いますのよ?」

「……僕はただのバイトだよ」

はぁ。とため息を吐いてエプロンに着替える。
さ、労働の時間だ。

フロアに出ると厨房では店長が凄い勢いで仕込みをしてた。

「おはようございまーす」

「お、おはよー圭太君!今日もよろしくねー」

ニコニコしてる店長に挨拶をして補充なんかをしていく。
お店は開いているけどお客さんはまばらだ。
暇なのか先輩が話しかけてくる。

「ねぇねぇ、この間のお祭りの時、彼女さん来てたんでしょ?」

「ゲホッゲホッゲホッ!」

今日はよく咳が出る日だな……。

「違いますよ!ただのクラスメイトですよ」

「あれ、そうなの?ごめんごめん。ほら、お水飲みな」

先輩から渡された水をチビチビと飲む。

「え、でもめっちゃ可愛い子なんでしょ?」

「だから、そんなんじゃないですって。まぁ、可愛いとは…思い…ますけど」

「ふぇぇーーえーそうなんだーーー」

「いや、ていうか何でそんな話になってるんですか」

「いや、店長がさ」

「え、店長?!」

「僕は何も言ってないよー!可愛かったって言っただけだよー」

いつの間にか近くに来てた店長が言い訳をしてくる。

「すいませーん!」

「はーい!」

お客さんに呼ばれて先輩はオーダーを取りに行った。

「あ」
「あ」

思わず声が揃った店長と僕は、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。


お昼のピークが過ぎて、店内がすこし落ち着いたころだった。
入口のベルがチリンと鳴る。

「いらっしゃいませ!……あ」

「あ、やっほー!ほんとにいたねー山中君」

「あ、三浦さん。き、来てくれたんだ。か、加賀屋さん……も」

「うん。来ちゃった。……えへ」

か……可愛い……。ここに中嶋が居たら昇天してるな。あいつ。

「う、うん。あ、お席に、どうぞ」

クネクネしている中嶋を想像して平静を取り戻し、何とか二人を席に案内する。

「圭太君、お友達ー?眺めの良い席に案内してあげなよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

先輩が気を利かせてくれる。でもきっとあの人裏でニヤニヤしてるんだろうなぁ……。
とか思ってると加賀屋さんに聞かれた。

「先輩?……美人さんだね」

「あ、うん。まぁ、そう…だね」

美人だけど、ニヤニヤしてる顔しか今は思い出せないや……。

「あ、これ、メニュー」

「はーい。ありがとー。このお店、ドリアがお勧めなんだっけ?」

「あ、うん。そうだよ」

三浦さん、ちゃんと覚えててくれたんだな。

「山中君のお勧めは?」

加賀屋さんが聞いてくる。

「ん?あ、んーー、何でも美味しいけど、やっぱりこのオムライスかな」

……ふわふわの玉子、ケチャップライスのちょっと焦げたとこ……とか思い出して満面の笑顔でお勧めしてしまった。ちょっと恥ずかしい。

「じゃあ、私オムライスで」

僕の恥ずかしさが伝染したのか加賀屋さんもちょっと恥ずかしそうに注文してくれる。

「あ、凛ずるーい。……まぁいいや。じゃあ私はドリアね」

「かしこまりました!では、ごゆっくりどうぞー」

ちょっとふざけて厨房に下がると、やっぱりニヤニヤした顔の先輩に話かけられた。

「二人とも可愛いじゃーん。どっちが本命なの?」

「あんまりからかうと嫌われるよー」

店長が苦笑まじりに助け舟を出してくれた。……ほんと、助かります……。



「お待たせしました。ドリアとオムライスです」

「わー!美味しそう!」
「ありがとう!」

二人の席に持って行くと嬉しそうに写真を撮ったりしてる。下がろうと思うと先輩がやってきた。

「せっかくだから三人で写真撮ってあげようか?」

「えー!お願いしまーす!」

三浦さんがさっさと先輩にスマホを渡してしまった。

「ほら、早く並んで。ピースピース!ご飯冷めちゃうよー」

勢いでポーズを取らされて写真を撮られた。
……気づいたら、終わっていた。体感二秒くらいだった。

「じゃ、じゃぁ、ごゆっくりー」

ちょっと顔が熱くなって、僕は早足で厨房の方へ下がった。

すると、店長が声をかけてくる。

「いやぁ、青春だねぇ」

「青春てなんですか」

「うーーん。……ま、とりあえずあの二人にドリンク聞いておいで。サービスしてあげるから。ねっ?」

「え、良いんですか?」

「サービスしてあげるからまた来てねーって言ったの、僕だし?」

「あ、そういえば?」

「ね、言ってたでしょ?ほら、聞いてきてあげな?」

「りょ、了解ですっ」

ふふふって店長が笑って、僕は加賀屋さんたちの席に向かった。

「食後のドリンク、店長がサービスしてくれるって」

そう言うと、何か三浦さんが「うぇーい!」って言って加賀屋さんが「え、静かにしたほうが良いよ」とか言って何かよくわからないけど面白かった。

アイスレモンティーとリンゴジュースを承って厨房に下がる。

「何かさ、レモンスカッシュ飲みたくなってきたね」

店長が何か言ってきたけど、もう無理だーって思って黙ってドリンクのオーダーを通した。


その日は、寝落ち最速記録を更新したかもしれないっていうぐらいすぐに寝た。
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