魔法が使えない出来損ないの私は、野蛮な辺境伯に嫁がされましたが、今日も溺愛……されてます?!

小野紅白

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6.到着

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 領都へ入る前日にカリンさんが先触れで走ってくれていたからか、門の前にはずらっと兵士が並んでいた。
 綺麗に揃えられた槍の穂先と、ピンと背を伸ばして立つ兵士たちに少し緊張する。

「コンスタンツェ・イヴェリオス様でいらっしゃいますか」

「そうだ。僕たちは彼女の護衛のAランクパーティー、竜の息吹だ。領主館まで案内してくれるか?」

 兵士の問いかけにルークさんが答える。

「かしこまりました!無事のご到着、歓迎致します!!」

 その言葉と同時に、周囲の兵士たちが槍を高く捧げる。
 ザッという足を揃える音にドキドキしながら、馬車はゆっくりと進む。
 周りの兵士さんは、冒険者に護衛をされた質素な馬車を見て何を思っているのだろう。
 ……少し、怖い。

 馬車が門をくぐる。途端に、空気が変わった。
 焼きたてのパンの香りや、香辛料の匂いが風に乗って流れ込む。喧騒に紛れて遠くから鍛冶屋の槌の音が響いていて、空からは午後の穏やかな光が差し込んでいる。
 通り沿いには果物を山盛りにした屋台や、色鮮やかな布を吊るした店が並び、行き交う人々の顔は皆穏やかで明るい。

 深呼吸をする。

 もしかしたら、ここなら……。


 馬車がカラカラと軽い音を立てて進み、領主館の前へ辿り着く。
 口から心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしている。ケイティさんがエスコートしてくれて馬車のタラップを降りる。
 ケイティさんが小さな声で「私女だから、ラウに殺されたりしないわよね?」とか言うから少し笑ってしまった。

 領主館の前では人がずらりと並んで私たちを待っていてくれた。
 背の高い男性が前に出て来る。

「ようこそ辺境の地へ。……歓迎する。私はレオンハルト・ヴァルグレンだ」

 今朝着替えた初めて着るワンピースで、慣れないカテーシーをする。

「初めまして、コンスタンツェ・イヴェリオスです」

「……うっ……」

「?」

 ヴァルグレン様が片手で顔を覆って俯いてしまわれた。……お身体の具合でも悪いのかしら……。

 その時ヴァルグレン様の後ろから細身の男性が出てきて言う。

「ようこそイヴェリオス嬢。あぁ……えっと、辺境伯殿はあまり調子が良くないみたいのでこれで失礼しますね。あ、私は従者のフィンと申します。ここからはメイド長のアンヌがご案内致しますのでどうぞごゆっくり。では!」

 そう言ってフィン様はヴァルグレン様の背中を押してお屋敷の中に入って行ってしまった。
 本当に、大丈夫かしら……。



 ————


「フィン!私は具合など悪くないぞ」

 屋敷の中の執務室へと押し返されたレオンハルトがフィンへと言う。

「いやいやレオン、あれはダメだよ。たたでさえ無表情で何考えてるか分かんないのにあんな行動しちゃ」

「あんな行動とはなんだ」

「いやいや無自覚?!無自覚なの?!片手で顔押さえて『うっ……』て何だよ。動揺しすぎだよ?!」

「だって……」

「だって?!」

「うっ……。…………ったんだ……」

 急に声が小さくなるレオンハルト。

「何だって?」

「……天使が!……舞い降りたかと……思ったんだ……!」

「いやいや、釣書の肖像画見てたでしょ?!」

「あんなのは偶像だった」

 即答するレオンハルトに、天を仰ぎ見るフィン。ため息をついて言う。

「まぁ、なんて言うか……良かったね」



 ————


「フィン様よりご紹介に預かりましたアンヌと申します。それとこちら、家令のエドワードでございます」

 小顔で丸顔の、いかにも優しそうなアンヌさんの横へ、キッチリとした雰囲気の男性がやってくる。

「イヴェリオス嬢、エドワードでございます。何かございましたら、いつでもお気軽にお申し付けください」

 エドワードさんは、優しい微笑みでお辞儀をしてくれる。

「ありがとう……ございます」

「ではお部屋までご案内いたしますね」

 アンヌさんが優しく言ってくれて

「冒険者の方々はこちらの部屋へ。よくぞイヴェリオス嬢をここまで無事に送り届けて下さいました。歓迎させていただきます」

 と、エドワードさん。
 竜の息吹のことまでちゃんと考えてくれていて、とても嬉しくなってしまう。

「こちらへどうぞ」

 アンヌさんに促されて、お屋敷の中へ入っていく。でもその前に……。

 竜の息吹の皆の前に向き直る。

「皆さん、ありがとうございました!」

 ペコリとお辞儀をする。
 顔を上げると皆何だか様子が変で、赤くなったり、顔を押さえていたり、上を向いていたり。

「ととと、とんでもないよ!!ラウにも良い報告が出来るしね!あはは。こちらこそありがとう!!」

 とルークさん。

 お屋敷の皆さんも何だか落ち着かない雰囲気になってしまったので、気まずくてアンヌさんの方に向き直る。
 すると、アンヌさんは満面の笑みで迎えてくれる。思わず微笑み返して、歩き始める。
 ヴァルグレン様の事は心配だけれど、何だか大丈夫そうな気がしてきた……かも。


 お屋敷の中はシンプルながらも素敵な造りで、美しさを感じる。
 所々飾られている美術品が武器や防具なのが、さながら辺境伯……という事なのだろうか。

「こちらでございます」

 アンヌさんが案内してくれたのはお屋敷の客間。とても広くて、何だか持て余してしまいそうだ。

「……こんなに広いお部屋、私には勿体無いです」

 思わず漏らしてしまう言葉に、アンヌさんは優しく返してくれる。

「あら……では、他のお部屋にいたしましょうか。うふふ。お館様が張り切られて、一番大きな客間にせよと仰いましたのですよ。うふふ」

 思わずびっくりしてしまう。私なんかに、そんなに気を使っていただいているなんて……。だとすれば、このお部屋を使わないのは失礼になるのではないかしら……。

「そ、それでしたら、せっかくですので……こちらのお部屋で結構ですわ」

「いえいえ。お嬢様が心安らかにお過ごし頂ける方が、私たち使用人としましても嬉しゅう存じますので。それに、きっとお館様もその方が喜ばれますわ」

「ではではこちらへどうぞどうぞ」なんて言われて、戸惑っている間にどんどんと、更に奥の方へ案内される。

 案内された部屋は先ほどの部屋の半分位。でもシンプルで、それでいて上品なお部屋。
 何だかとても落ち着く……。

「こちらはいかがですか?」

 アンヌさんがにこやかに聞いてくれる。

「ここなら……とても、落ち着きます」

「うふふふ。それはようござんした。もしもの時のために、使用人一同心を込めてご用意させていただいておりました。役に立ってとても嬉しゅう存じます」

 アンヌさんはニコニコとしながらそう言ってくれる。
 何だか、こちらまで嬉しくなってしまう。
 中に案内してもらって、ソファに腰をかける。
「お茶を淹れますね」とアンヌさんが去り、しばらくすると、静かにドアがノックされた。

「どうぞ」

「失礼致します」
「失礼致します」

 入ってきたのは、アンヌさんともう一人。
 オレンジ色の髪の毛の、私よりも若そうな女の子。

「ご紹介致します。こちらはイヴェリオス嬢付きの侍女となりますミーシャでございます」

「初めまして!奥様!」

「これ!ミーシャ!」

「すっ!……すみません!!!イヴェリオス様!ミーシャでございます!!」

 ……奥様だなんて呼ばれてびっくりしてしまった。顔が熱くなる。
 でもミーシャさんの慌て方がなんだか可笑しくて、思わず口元が緩んでしまった。

「うふふ。よろしくお願いしますわ。ミーシャさん」

 そう言うと、ミーシャさんがどんどん真っ赤になって

「ひゃ、ひゃい!!イヴェリオスしゃま……!!」

 なんて言うので更に笑ってしまった。

「お嬢様、私共の事はどうぞ呼び捨てでお呼び下さい」

 アンヌさんが頭を下げてそう言う。他家の方だし……と思ったのだけれど、確かに、これからここでお世話になるのだものね。

「わかりましたわ。アンヌ。ミーシャ。……では私の事も、コンスタンツェと呼んでください」

「かしこまりました。コンスタンツェ様」
「か、かしこまりました!コンスタンツェしゃま!!」
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