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10.ため息二つ
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「はぁ……」
大型魔獣が辺境伯領の村の側に出て、人を襲い始めたというので討伐に出たが……。
何も待ち侘びていたイヴェリオス嬢が来た翌日に出発しなくても良いじゃないか。
昨晩の可憐な姿が頭から離れない。
薄いラベンダーのドレスに身を包んだ彼女の姿。絹糸のような銀色の髪に付けられた薄いピンク色の髪飾りも、彼女の美しさを証明する為だけに存在していた……。まさしく彼女は春の女神だった。
あぁぁ……。
あのアメジストの瞳。ぷっくりとした唇。あの微笑み。思い出しただけで顔が熱くなる。
用意された俺専用の天幕の中で、両手で顔を覆っていると
「お館様ぁ、スープどうぞー」
と、フィンが入って来た。
「……置いておいてくれ」
顔を覆ったまま応える。
「はーい、どうしたんですかぁ?奥様の事でも考えてらしたんですかぁ?」
……っ!こいつは!いつだって……!
「そんな事は……!」
思わず顔を上げて言い返すが、ニヤニヤとした顔のフィンと目が合って言い淀む。
「顔が、赤いですよぉ?」
「お前……!」
胸倉を掴もうとして、ひょいっと躱される。
「そんなだから野蛮とか蛮族とか言われるんだよ」
「フィン」
つい、怒気が漏れる。
「うわぁ!ごめんごめん!だってレオンがそんなに百面相してるの子どもの頃以来だからさぁ?つい。あはは。ごめんってば!」
はぁ。こいつは本当に……。子どもの頃、俺が失敗する度にこいつに揶揄われて泣かされた記憶が甦る。まぁ、俺も同じくらい泣かせてたが……。
怒る気も失せて椅子に力なく座り込む。ふと視界に、スープの入ったマグカップが入り、ちびちびと飲み始める。
……彼女も今頃晩餐を摂っているだろうか。
「ふふふ」
フィンの笑い声が聞こえる。
「何だ」
「ううん。……よかったね。素敵な奥さん、貰えそうで」
「……あぁ」
野営地の夜は更けていく。
————
「はぁ……」
「どうなさいましたか?コンスタンツェ様」
「あ、いえ……。ヴァルグレン様に自由にせよとおっしゃっていただいたのは良いのですが、何をすれば良いのか……」
パーティーの次の日の朝、つまり今朝。
ヴァルグレン様は、大型魔獣が出たとかで慌ただしく軍を率いて出掛けられてしまわれた。その際に「一週間程出る。その間は自由にせよ」と言われたのだけど……。
勉強……と言っても魔法は使えないし、領地の事も、女は口を出すな。なんてお考えの方かもしれないし、このお屋敷の事も、まだ婚約者の分際で口を出せるようなものではないし……。何かお役に立てる事……あるのかしら。
これじゃぁ私、前と同じだわ。穀潰しと言われてもおかしくない……。
旅の疲れもあるでしょうと、昨晩はパーティーの後すぐに眠って、今朝も食事を頂いて少しお屋敷の中を案内してもらっただけで何もしていない。ラウルに手紙を書いて、竜の息吹に託したのは良いけれど……。
晩餐を頂いてもうやる事もないし、色々考えていたら思わずため息が漏れてしまった。
そんな私に明るくミーシャが提案してくれる。
「それでしたら、明日は領都を見学されてはいかがでしょう?」
「領都……ですか」
「はい!色んなお店があって楽しいですよ!」
「……でも、私まだ何のお役にも立ててないのに」
「そんなことありませんよ!昨日のお館様の顔!あんなお顔が見れるだなんて、コンスタンツェ様のお陰ですよー!コンスタンツェ様は、そこにいらっしゃるだけで充分なんですっ!」
そんな事ないと思うのだけれど……。
曖昧に笑って応えると、ミーシャが続ける。
「ですからコンスタンツェ様!領都へ行きましょう!そして、討伐から帰って来たお館様へのプレゼントを買いましょう!……どうですか?」
「……私からプレゼントなんて貰っても……」
「何言ってるんですか!お館様喜ぶに決まってますよ!むしろ家宝にすると思いますよ!」
「ふふふ」
家宝だなんて大げさだわ。
「そうね。あまり難しく考えても仕方ないものね。プレゼントは置いておくとしても、明日は出掛けてみようかしら?」
「わかりました!では、準備してきますね!」
ミーシャは元気にそう言って一礼し、退出した。
私は寝室へ行き、ベッドに身体を投げ出す。
ぼんやりと天井を見上げながら昨晩の事を思い出す。
美味しいお食事に飲み物。それにヴァルグレン様……。貴族は髪に魔力が宿るからと、長髪の方ばかりなのだけれど、ヴァルグレン様の輝く金色の髪は短く切り揃えられていて、清潔感を感じさせていた。
魔力が無いという噂だけれど、だからってあそこまでバッサリと髪を切れるものなのかしら。
それに、ラウルが魔力が無い人間なんて居ないって言っていたけれど……。
……私も髪を切ろうかしら?
ふふ。少し可笑しくなって、横を向きながら目を閉じる。もうこのまま寝てしまおう。
瞼の裏に浮かぶのはヴァルグレン様のお顔。優しいけれど、強さを感じる切れ長の赤い瞳。通った鼻筋にキリッとした雰囲気。……家臣の皆さんに揶揄われていた時は顔を赤らめてらっしゃったけれど。
でも……あんなに笑顔が溢れているお屋敷の主人が、野蛮人だなんて。
きっと、何かの間違いだと、いいのだけれど……。
————
私がお部屋に戻ると、コンスタンツェ様は眠られているのか、寝室への扉は閉まっていました。音を立てないように応接部屋を手早く片付けて灯りを落とし、足早に退出します。
そして目指すは、使用人用の小食堂です!
明日はコンスタンツェ様が領都へお出かけになるのです!どういったお姿が相応しいのかを議論する必要があります!!
ふっふっふ。
私のカードは空色のワンピースに白い帽子!白の手袋も必要ですね!小さいバッグは銀の刺繍入りで!ふふふ。完璧です。
これでコンスタンツェ様の美しさが一際輝くはず……!!
そして、もう一つ大切な議題が!
コンスタンツェ様が持ってこられたウエディングドレス!!!あれは何ですか!一昔も二昔も前のデザインに少し手を加えてサイズだけを合わせた急造品!コンスタンツェ様には全然似合いませんっ!
……いえ、コンスタンツェ様なら着こなしてしまわれるのでしょうけど……。
お館様はまだあのドレスを見てらっしゃいませんが、きっと作り直しと言われるはずです!その為にも、今日は絵の上手いハンスも誘っているのです。皆して、お二人の為にも良いデザインを考えださなくては……!!
私はギュッと両手を握りしめて食堂へ向かいます。
いざ行かん。本日の戦場へと!!
大型魔獣が辺境伯領の村の側に出て、人を襲い始めたというので討伐に出たが……。
何も待ち侘びていたイヴェリオス嬢が来た翌日に出発しなくても良いじゃないか。
昨晩の可憐な姿が頭から離れない。
薄いラベンダーのドレスに身を包んだ彼女の姿。絹糸のような銀色の髪に付けられた薄いピンク色の髪飾りも、彼女の美しさを証明する為だけに存在していた……。まさしく彼女は春の女神だった。
あぁぁ……。
あのアメジストの瞳。ぷっくりとした唇。あの微笑み。思い出しただけで顔が熱くなる。
用意された俺専用の天幕の中で、両手で顔を覆っていると
「お館様ぁ、スープどうぞー」
と、フィンが入って来た。
「……置いておいてくれ」
顔を覆ったまま応える。
「はーい、どうしたんですかぁ?奥様の事でも考えてらしたんですかぁ?」
……っ!こいつは!いつだって……!
「そんな事は……!」
思わず顔を上げて言い返すが、ニヤニヤとした顔のフィンと目が合って言い淀む。
「顔が、赤いですよぉ?」
「お前……!」
胸倉を掴もうとして、ひょいっと躱される。
「そんなだから野蛮とか蛮族とか言われるんだよ」
「フィン」
つい、怒気が漏れる。
「うわぁ!ごめんごめん!だってレオンがそんなに百面相してるの子どもの頃以来だからさぁ?つい。あはは。ごめんってば!」
はぁ。こいつは本当に……。子どもの頃、俺が失敗する度にこいつに揶揄われて泣かされた記憶が甦る。まぁ、俺も同じくらい泣かせてたが……。
怒る気も失せて椅子に力なく座り込む。ふと視界に、スープの入ったマグカップが入り、ちびちびと飲み始める。
……彼女も今頃晩餐を摂っているだろうか。
「ふふふ」
フィンの笑い声が聞こえる。
「何だ」
「ううん。……よかったね。素敵な奥さん、貰えそうで」
「……あぁ」
野営地の夜は更けていく。
————
「はぁ……」
「どうなさいましたか?コンスタンツェ様」
「あ、いえ……。ヴァルグレン様に自由にせよとおっしゃっていただいたのは良いのですが、何をすれば良いのか……」
パーティーの次の日の朝、つまり今朝。
ヴァルグレン様は、大型魔獣が出たとかで慌ただしく軍を率いて出掛けられてしまわれた。その際に「一週間程出る。その間は自由にせよ」と言われたのだけど……。
勉強……と言っても魔法は使えないし、領地の事も、女は口を出すな。なんてお考えの方かもしれないし、このお屋敷の事も、まだ婚約者の分際で口を出せるようなものではないし……。何かお役に立てる事……あるのかしら。
これじゃぁ私、前と同じだわ。穀潰しと言われてもおかしくない……。
旅の疲れもあるでしょうと、昨晩はパーティーの後すぐに眠って、今朝も食事を頂いて少しお屋敷の中を案内してもらっただけで何もしていない。ラウルに手紙を書いて、竜の息吹に託したのは良いけれど……。
晩餐を頂いてもうやる事もないし、色々考えていたら思わずため息が漏れてしまった。
そんな私に明るくミーシャが提案してくれる。
「それでしたら、明日は領都を見学されてはいかがでしょう?」
「領都……ですか」
「はい!色んなお店があって楽しいですよ!」
「……でも、私まだ何のお役にも立ててないのに」
「そんなことありませんよ!昨日のお館様の顔!あんなお顔が見れるだなんて、コンスタンツェ様のお陰ですよー!コンスタンツェ様は、そこにいらっしゃるだけで充分なんですっ!」
そんな事ないと思うのだけれど……。
曖昧に笑って応えると、ミーシャが続ける。
「ですからコンスタンツェ様!領都へ行きましょう!そして、討伐から帰って来たお館様へのプレゼントを買いましょう!……どうですか?」
「……私からプレゼントなんて貰っても……」
「何言ってるんですか!お館様喜ぶに決まってますよ!むしろ家宝にすると思いますよ!」
「ふふふ」
家宝だなんて大げさだわ。
「そうね。あまり難しく考えても仕方ないものね。プレゼントは置いておくとしても、明日は出掛けてみようかしら?」
「わかりました!では、準備してきますね!」
ミーシャは元気にそう言って一礼し、退出した。
私は寝室へ行き、ベッドに身体を投げ出す。
ぼんやりと天井を見上げながら昨晩の事を思い出す。
美味しいお食事に飲み物。それにヴァルグレン様……。貴族は髪に魔力が宿るからと、長髪の方ばかりなのだけれど、ヴァルグレン様の輝く金色の髪は短く切り揃えられていて、清潔感を感じさせていた。
魔力が無いという噂だけれど、だからってあそこまでバッサリと髪を切れるものなのかしら。
それに、ラウルが魔力が無い人間なんて居ないって言っていたけれど……。
……私も髪を切ろうかしら?
ふふ。少し可笑しくなって、横を向きながら目を閉じる。もうこのまま寝てしまおう。
瞼の裏に浮かぶのはヴァルグレン様のお顔。優しいけれど、強さを感じる切れ長の赤い瞳。通った鼻筋にキリッとした雰囲気。……家臣の皆さんに揶揄われていた時は顔を赤らめてらっしゃったけれど。
でも……あんなに笑顔が溢れているお屋敷の主人が、野蛮人だなんて。
きっと、何かの間違いだと、いいのだけれど……。
————
私がお部屋に戻ると、コンスタンツェ様は眠られているのか、寝室への扉は閉まっていました。音を立てないように応接部屋を手早く片付けて灯りを落とし、足早に退出します。
そして目指すは、使用人用の小食堂です!
明日はコンスタンツェ様が領都へお出かけになるのです!どういったお姿が相応しいのかを議論する必要があります!!
ふっふっふ。
私のカードは空色のワンピースに白い帽子!白の手袋も必要ですね!小さいバッグは銀の刺繍入りで!ふふふ。完璧です。
これでコンスタンツェ様の美しさが一際輝くはず……!!
そして、もう一つ大切な議題が!
コンスタンツェ様が持ってこられたウエディングドレス!!!あれは何ですか!一昔も二昔も前のデザインに少し手を加えてサイズだけを合わせた急造品!コンスタンツェ様には全然似合いませんっ!
……いえ、コンスタンツェ様なら着こなしてしまわれるのでしょうけど……。
お館様はまだあのドレスを見てらっしゃいませんが、きっと作り直しと言われるはずです!その為にも、今日は絵の上手いハンスも誘っているのです。皆して、お二人の為にも良いデザインを考えださなくては……!!
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