魔法が使えない出来損ないの私は、野蛮な辺境伯に嫁がされましたが、今日も溺愛……されてます?!

小野紅白

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13.暴走

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「コンスタンツェ様、他にもご案内したい所はたっくさんあるのですが、残念ながら今日はここまでなのです……」

 元気を取り戻したミーシャが心底残念そうに言う。

「もしかしてアンヌにそう言われたのかしら?」

「はっ?!はいぃ!」

 ふふふ。そんな、何故わかった?!みたいな顔をされたら笑ってしまうじゃない。

「そうね。これ以上遅くなっても大変だし、アンヌの言う通り、帰りましょうか」

「はい!」


 馬車の中から景色を見ながらお屋敷へ向かう。
 皆、私の事を考えてくれて、本当に嬉しい。
 ……もしかして、いい思いをさせてから食べられる……?ふふふ。この方たちのどこが野蛮人なのかしら。
 ……私も、皆からの気持ちを返したい。今、できる事をやらなくちゃ。

 そんな事を考えている私を乗せて馬車は進んでいた。丘を降り、また市街の喧騒が戻ってくる。

「帰りは、馬車が走りやすい運河の方を回ります。倉庫などもありますので、これからのご参考程度に」

 軽く頷いて窓の外を眺める。午後の倉庫街は存外に人気が少ない。

「ミーシャ、迷惑でなければ少し降りて歩いてみてもいいかしら?」

「?!……は、はい!では、そのように。トマスさーん!」

 ミーシャは御者席の方の窓を開けて喋り始めた。やがて馬車がだんだんゆっくりになり、馬がブルンと鳴いて停まった。

「ではコンスタンツェ様、降りましょうか!」

「ええ」

 外に出ると、そこは大きな倉庫の入り口。乾いた木材の匂いや運河の匂いがして、少し埃っぽいような雰囲気だけれど妙に静かで。
 運河の流れる音と、遠くで聞こえる子どもの声が混ざって、何だか眠くなるような空間だった。
 トマスさんが誰かと喋っている。

「トマスさんは、元々倉庫に荷物を運ぶ時の御者として働いていたんですよ」

「そうだったのね」

「はい!だから、この辺りのことはとっても詳しいんです!」

 するとトマスさんがこちらへやって来た。

「お嬢様、馬車を預かって貰えるようにして参りました。ついでにお屋敷へ連絡もお願いしておきましたので、これで、帰りが遅くなっても大丈夫でございますよ」

「どうもありがとう」

「いえいえ。何でもお申し付け下さい。では、老骨ではございますが、ご案内させていただきます」

 倉庫街の道を歩きながら話を聞く。トマスさんは倉庫の仕事や、働く人々の様子なんかも教えてくれた。道を行くにつれ、辺りがざわめき始める。この辺りは、午後からも働く人がいるエリアなのかしら。
 ひときわざわめいている所へ通りかかると、何だか様子がおかしい。
 そこは工事中のような建物で、トマスさん曰く、老朽化が進んだ建物の補強工事中なのだそうだ。
 行き交う人々が上を見上げているので、釣られて上を見上げると、組まれている外壁の足場に子どもが居る。

 どうして?!

「おーい!!降りてこーい!危ねぇぞー!」
「かあちゃんに言いつけるぞー!」
「弱虫ー!登ったけど降りられないんだろー?!」

 なんてヤジが飛んでいる。

「うっせー!俺は弱虫じゃない!俺は強いから、ここまで来れたんだぁー!!!」

 その時、強い風がブワッと吹いた。その子は風に煽られてバランスを崩し、足を踏み外した。

 駄目ダメダメダメ!待って!落ちないで……!!!

 私の願いも虚しく、その子は宙に浮かび、周りの人達は悲鳴を上げる。

「うわぁ!!」「きゃー!!!」

 私は無意識に両手を前に出し、大声をあげる。

「彼の者を護れ!!!」

 え、私、今何て……。

 考える間もなく風が吹き上がる。その風は竜巻となり、子どもを優しく包み込む。今まさに地面に叩き付けられようとしていた子は、竜巻のような風に守られながらゆっくりと、地面に降ろされる。

 あぁ、あの子は無事だったのかしら。
 鉛のように重たい足を動かしてヨロヨロと近付く。泣き顔と驚いた顔が混ざったような表情をした子どもが私を見る。

「良かった。……無事だったのね」

 安心したら急に足の力が抜けて座り込んでしまう。

「コンスタンツェ様!!!」

 遠くの方でミーシャの声が聞こえる。
 安心させるように子どもに微笑んで、私の意識は途切れてしまった。



 ————


「コンスタンツェ様!コンスタンツェ様!!!」

 今まで自分がこんなにも速く走れるなんて知らなかったと思う程、素早くコンスタンツェ様の元へ駆け寄ります。

今にも倒れ込みそうになるコンスタンツェ様をなんとか抱き抱えました。

「コンスタンツェ様!!!大丈夫ですか?!」

声を掛けるけれど意識がない!!
息が浅くて頬が赤いです。……熱?!
手を握ると冷たくてゾッとします。

玉のような汗をかきながら浅い息をしているコンスタンツェ様の額をハンカチで拭いながら叫びます。

「どなたか!どなたかお医者様はいらっしゃいませんか?!」

周囲の人たちは顔を見合わせたり戸惑ったりしているけど、何をすれば良いのかわからないのか、ざわつくだけで反応がありません。

その時、大きな声が聞こえました!

「この辺にすぐ出せる馬車はないかっ?!すぐにお嬢様をお屋敷まで運ばんといかんっ!!」

トマスさん?!周囲に響き渡るような声がきっかけで、周りの人たちが動き始めます。

「さっきデンのとこの馬車見たぞ?!俺、捕まえてくるわ!」「俺も行く!」「馬車に乗せるなら毛布も必要じゃないかしら」「そうだな!倉庫に新しいのなかったか?!」「取りに行きましょ!!」「手拭いもたくさんある方が良いんじゃない?」「うちの持ってこい!」

そんな言葉が飛び交い、私はコンスタンツェ様をしっかりと抱きしめます。……熱が高い。
コンスタンツェ様の汗を拭く位しかできない自分が悔しい。心臓が握りつぶされるような時間がどれくらい続いたのか、またトマスさんの声が響きました。

「馬車が来るぞ!!道を開けろ!!」

そこからは殆ど覚えてない。馬車の中に座らされ、毛布でくるまれたコンスタンツェ様を、揺れる馬車の中で必死に抱きしめていたような気がします。
いつもなら御者をしてくれているトマスさんが何故か中に居て……。あれ、誰かの馬車を借りたのでしたっけ。
とにかくお屋敷に着いたらトマスさんが転がるようにエドワードさんに知らせに行ってくれて、護衛の騎士がコンスタンツェ様をお部屋へ運び入れてくれました。

お部屋でアンヌさんと、コンスタンツェ様の身体を拭き、寝巻きに着替えさせて、濡らした手拭いで額を冷やした頃、部屋の扉がノックされました。

「失礼するよ」

そう言って静かに開いた扉から現れたのは、辺境伯領の魔道師団長。シトリー様でした。
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