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第三稿 仮面文芸即売会
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ヴィラントから婚約破棄を宣言された夜。
いつものように自室の机でハメレイの続きを書いているが、進まない。昼間の一件が思った以上に精神的に尾を引いている。
ヴィラントは、真面目で勤勉な第三皇子だった。
他の生徒達の前で、あんな理由で婚約破棄を告げられたのは屈辱だが、自分相手に顔を赤らめることなどなかった元婚約者が、物語の登場人物達を語る時には真っ赤になっていたのもまた、複雑だ。
隙間を開けていた窓から一通の白い封筒が羽ばたくように入ってきて、ナディアの前で止まった。ピリピリと封が一人でに破られ、中身の便箋が空中に広がる。
お互い匿名で送り合える魔法の手紙だ。
『ハメレイ最新話まで一気読みしました! ずっと頑なだったマチルダが、主人公に抱きしめられて「あたくしを選んで」と懇願する場面に感動。可愛い子ばっかりで続きが楽しみです! 応援してます!
P.N.考える葦』
窓から、また別の封筒が飛び込んでくる。
ハメレイの感想や応援だろう。
虚しい。
自分が書いた物語を誰かに読んでほしいと、ずっと思っていた。
今は沢山の人に読んでもらえているのに、寂しい。
それでも、それに縋り付いてしまう自分。
ハメレイは黒歴史で、甘美な毒だ。
それを、自分が認められていると思うために利用し続ける私は最低だ。
どうしてこうなったのか考え始めると、時は一年前に遡る。
仮面文芸即売会の存在を知ったばかりの頃の私は、意気揚々と自分の作品を持ち込んだ。
淑女達の流行りを知らず、また、知っても、自分は自分、と思っていた。
テンプレ通りの作品など、つまらない。
作品は、完全に自由でなければ世に生まれてくる価値がない。
そんな想いは、結局私の独りよがりで……私のテーブルの前を立ち止まりもせず通り過ぎていく人々の姿を見て、あえなく砕け散った。
テンプレでなければ、淑女達の目に留まることすらできない。
(違う)
何度目かの即売会の時に、誰にも興味を持たれない状況に、とうとう耐えられなくなった。
目の前に沢山の人がいるのに、彼らと私の世界には隔たりがあった。
『彼らにはお前が見えてない、ほら、お前は独りだろ?』
『誰にも求められない物語に、価値はあるのか?』
『皆に求められる話が書けない人間に、価値はあるのか?』
世界は残酷に、繰り返し私に問いかけた。
つ、と涙が流れて、焦って拭いた。
その時、一人の男子生徒が私のテーブルの前で足を止めた。
彼は何か迷うような空白の後、
「面白そうだね」
と、低い声で一言呟いて、私の本を一冊買っていってくれた。
『星の花びら、地に堕ちて』
それは、ジェイミーと言う女の子が、地上に咲く星の花を探す話だった。
本を手渡す時、仮面の下から覗く彼の紫色の瞳が、興味深そうに輝いていた。
「あの、ありがとうございます」
そう声をかけると、ふ、と空気が揺らいだ。
微笑まれたのだ。
艶のある彼の髪が蝋燭の灯りにきらめく。
形の良い長い指が、私の本を大事そうに抱えてくれる。
私の本だけを。
瞬きをすると視界がぼやけた。
さっき拭いた涙がまた、溢れてくる。
けれど今は、心がじわりと温かかった。
その物語の続きを必ず買っていく彼がいてくれたから、流行に頼らず、もう少し踏ん張ろうと思えた。
そういえば。
彼が私のテーブルに現れなくなったのは、私が淑女達の流行を意識し始めた辺りからだ。
昼間、目の前で婚約破棄を告げたヴィラントの瞳を思い出す。
仮面文芸即売会で出会った彼と同じ紫色だった。
まさか、ね。
あんなに気さくなヴィラントの声を聞いたことなど無いし、紫色の瞳の男子生徒なんて他にもいる。
いつものように自室の机でハメレイの続きを書いているが、進まない。昼間の一件が思った以上に精神的に尾を引いている。
ヴィラントは、真面目で勤勉な第三皇子だった。
他の生徒達の前で、あんな理由で婚約破棄を告げられたのは屈辱だが、自分相手に顔を赤らめることなどなかった元婚約者が、物語の登場人物達を語る時には真っ赤になっていたのもまた、複雑だ。
隙間を開けていた窓から一通の白い封筒が羽ばたくように入ってきて、ナディアの前で止まった。ピリピリと封が一人でに破られ、中身の便箋が空中に広がる。
お互い匿名で送り合える魔法の手紙だ。
『ハメレイ最新話まで一気読みしました! ずっと頑なだったマチルダが、主人公に抱きしめられて「あたくしを選んで」と懇願する場面に感動。可愛い子ばっかりで続きが楽しみです! 応援してます!
P.N.考える葦』
窓から、また別の封筒が飛び込んでくる。
ハメレイの感想や応援だろう。
虚しい。
自分が書いた物語を誰かに読んでほしいと、ずっと思っていた。
今は沢山の人に読んでもらえているのに、寂しい。
それでも、それに縋り付いてしまう自分。
ハメレイは黒歴史で、甘美な毒だ。
それを、自分が認められていると思うために利用し続ける私は最低だ。
どうしてこうなったのか考え始めると、時は一年前に遡る。
仮面文芸即売会の存在を知ったばかりの頃の私は、意気揚々と自分の作品を持ち込んだ。
淑女達の流行りを知らず、また、知っても、自分は自分、と思っていた。
テンプレ通りの作品など、つまらない。
作品は、完全に自由でなければ世に生まれてくる価値がない。
そんな想いは、結局私の独りよがりで……私のテーブルの前を立ち止まりもせず通り過ぎていく人々の姿を見て、あえなく砕け散った。
テンプレでなければ、淑女達の目に留まることすらできない。
(違う)
何度目かの即売会の時に、誰にも興味を持たれない状況に、とうとう耐えられなくなった。
目の前に沢山の人がいるのに、彼らと私の世界には隔たりがあった。
『彼らにはお前が見えてない、ほら、お前は独りだろ?』
『誰にも求められない物語に、価値はあるのか?』
『皆に求められる話が書けない人間に、価値はあるのか?』
世界は残酷に、繰り返し私に問いかけた。
つ、と涙が流れて、焦って拭いた。
その時、一人の男子生徒が私のテーブルの前で足を止めた。
彼は何か迷うような空白の後、
「面白そうだね」
と、低い声で一言呟いて、私の本を一冊買っていってくれた。
『星の花びら、地に堕ちて』
それは、ジェイミーと言う女の子が、地上に咲く星の花を探す話だった。
本を手渡す時、仮面の下から覗く彼の紫色の瞳が、興味深そうに輝いていた。
「あの、ありがとうございます」
そう声をかけると、ふ、と空気が揺らいだ。
微笑まれたのだ。
艶のある彼の髪が蝋燭の灯りにきらめく。
形の良い長い指が、私の本を大事そうに抱えてくれる。
私の本だけを。
瞬きをすると視界がぼやけた。
さっき拭いた涙がまた、溢れてくる。
けれど今は、心がじわりと温かかった。
その物語の続きを必ず買っていく彼がいてくれたから、流行に頼らず、もう少し踏ん張ろうと思えた。
そういえば。
彼が私のテーブルに現れなくなったのは、私が淑女達の流行を意識し始めた辺りからだ。
昼間、目の前で婚約破棄を告げたヴィラントの瞳を思い出す。
仮面文芸即売会で出会った彼と同じ紫色だった。
まさか、ね。
あんなに気さくなヴィラントの声を聞いたことなど無いし、紫色の瞳の男子生徒なんて他にもいる。
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