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第二稿 修正したい箇所
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何も知らない淑女達に、ハメレイとは何かを説明したい。
私、ナディア・クライノートが通う、ノーヴァ帝国の王侯貴族の子女達が集う魔法学校では、毎週末、仮面舞踏会ならぬ、仮面文芸即売会がある。
元々は貴族の城だった学校の回廊には、大きなステンドグラスが嵌った窓が豪華に並ぶ。
仮面文芸即売会では、その回廊にテーブルが並べられ、仮面をつけた生徒達が自作の物語を販売する。
宙に浮かぶ燭台の灯りと星明かりが頼りだ。
幼い頃から物語が好きだった。
自分でも趣味で物語を綴ってきた。
自分では常に、昨日の自分を超える作品を書いているつもりだった。
淑女達に読んでもらうには流行を押さえるのが大事。
婚約破棄もの、悪役令嬢もの、復讐もの、異世界転生にもふもふ……あらゆるものを書いてきた。
けれど何を書いても、私の書いた物語は淑女達に見向きもされなかった。
一方で、有名な作者や、流行り物の中でも筆が速い作者の本は、それだけで沢山の人が手に取る。
(でも不思議……私は惹かれない。私は、もっと)
私はもっと、心を揺らしてくれる物語が好きだ。
例えるなら、読んでいるうちに心ががっしり捕まえられて、振り回して引き摺り回してボロボロにしてくれるような、抗いがたい力を持つ話が好きだ。
多分、諸悪の根源はこの好きな作品の好み。
私自身が書くものにも、この好みは色濃く表れた。
それは私以外の人には刺さらない。
(きっと私は趣味が悪い)
だから趣向を変えてみた。
好きな物を書くのをやめた。
どうせ誰にも読まれないんだから、と好き勝手に書いた。
私にしては珍しく少年を主人公に据え、流行りの悪役令嬢とその周囲の令嬢達をヒロインにした、艶っぽいシーン満載のハーレム物を書いたのは、数ヶ月前のこと。
即売会のルールギリギリを攻めた描写を詰め込んだ。
ちょっと自棄になっていたのかもしれない。
いや完全に血迷っていた。
『破滅エンドを回避させた令嬢達が僕を毎晩悩ませてくる』なんてタイトルで売った所、これが、男子生徒達に爆発的に売れた。
……男って、ちょろいな。
その時点で、お姫様を迎えに来てくれる王子様や、一人の女性を誠実に愛する男性を夢見る自分は死んでしまっていたのかもしれない。
これが、ハメレイが世に生まれた顛末だ。
でもそれがまさか、こんな未来を引き寄せるなんて。
「——聞いているのか? ナディア・クライノート!」
周りのざわめきと共に、ヴィラント皇子の睨みつけるような表情が目に飛び込んでくる。
ああそうだった。
まだ私が婚約破棄される場面は終わってなかった。
「私の心は、ツン要素が可愛すぎるマチルダと、そしてその他の令嬢達のものだ。恨むな、ナディア」
恨まないから、せめて心を捧げるのは一人にしてよ。
『その他』て。
ヴィラントは制服のローブを翻らせ、よく通る声で告げた。
「私はマチルダ達と共に生きる。お前も達者で暮らせ」
ヴィラントが去った後に残されたのは、本の中の令嬢達に負けて立ち尽くすナディアと、それを同情の眼差しで見つめる生徒達だった。
「おい、声かけるか?」
「やめとけよ、あの子にマチルダについて聞かれても困るだろ? ハメレイなんて知らないだろうし」
私がハメレイの作者であることは、誰も知らないはず。
それでも、ハメレイの内容を知っているのだろう男子生徒達の目線は、痛かった。
私、ナディア・クライノートが通う、ノーヴァ帝国の王侯貴族の子女達が集う魔法学校では、毎週末、仮面舞踏会ならぬ、仮面文芸即売会がある。
元々は貴族の城だった学校の回廊には、大きなステンドグラスが嵌った窓が豪華に並ぶ。
仮面文芸即売会では、その回廊にテーブルが並べられ、仮面をつけた生徒達が自作の物語を販売する。
宙に浮かぶ燭台の灯りと星明かりが頼りだ。
幼い頃から物語が好きだった。
自分でも趣味で物語を綴ってきた。
自分では常に、昨日の自分を超える作品を書いているつもりだった。
淑女達に読んでもらうには流行を押さえるのが大事。
婚約破棄もの、悪役令嬢もの、復讐もの、異世界転生にもふもふ……あらゆるものを書いてきた。
けれど何を書いても、私の書いた物語は淑女達に見向きもされなかった。
一方で、有名な作者や、流行り物の中でも筆が速い作者の本は、それだけで沢山の人が手に取る。
(でも不思議……私は惹かれない。私は、もっと)
私はもっと、心を揺らしてくれる物語が好きだ。
例えるなら、読んでいるうちに心ががっしり捕まえられて、振り回して引き摺り回してボロボロにしてくれるような、抗いがたい力を持つ話が好きだ。
多分、諸悪の根源はこの好きな作品の好み。
私自身が書くものにも、この好みは色濃く表れた。
それは私以外の人には刺さらない。
(きっと私は趣味が悪い)
だから趣向を変えてみた。
好きな物を書くのをやめた。
どうせ誰にも読まれないんだから、と好き勝手に書いた。
私にしては珍しく少年を主人公に据え、流行りの悪役令嬢とその周囲の令嬢達をヒロインにした、艶っぽいシーン満載のハーレム物を書いたのは、数ヶ月前のこと。
即売会のルールギリギリを攻めた描写を詰め込んだ。
ちょっと自棄になっていたのかもしれない。
いや完全に血迷っていた。
『破滅エンドを回避させた令嬢達が僕を毎晩悩ませてくる』なんてタイトルで売った所、これが、男子生徒達に爆発的に売れた。
……男って、ちょろいな。
その時点で、お姫様を迎えに来てくれる王子様や、一人の女性を誠実に愛する男性を夢見る自分は死んでしまっていたのかもしれない。
これが、ハメレイが世に生まれた顛末だ。
でもそれがまさか、こんな未来を引き寄せるなんて。
「——聞いているのか? ナディア・クライノート!」
周りのざわめきと共に、ヴィラント皇子の睨みつけるような表情が目に飛び込んでくる。
ああそうだった。
まだ私が婚約破棄される場面は終わってなかった。
「私の心は、ツン要素が可愛すぎるマチルダと、そしてその他の令嬢達のものだ。恨むな、ナディア」
恨まないから、せめて心を捧げるのは一人にしてよ。
『その他』て。
ヴィラントは制服のローブを翻らせ、よく通る声で告げた。
「私はマチルダ達と共に生きる。お前も達者で暮らせ」
ヴィラントが去った後に残されたのは、本の中の令嬢達に負けて立ち尽くすナディアと、それを同情の眼差しで見つめる生徒達だった。
「おい、声かけるか?」
「やめとけよ、あの子にマチルダについて聞かれても困るだろ? ハメレイなんて知らないだろうし」
私がハメレイの作者であることは、誰も知らないはず。
それでも、ハメレイの内容を知っているのだろう男子生徒達の目線は、痛かった。
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