2 / 37
第二稿 修正したい箇所
しおりを挟む
何も知らない淑女達に、ハメレイとは何かを説明したい。
私、ナディア・クライノートが通う、ノーヴァ帝国の王侯貴族の子女達が集う魔法学校では、毎週末、仮面舞踏会ならぬ、仮面文芸即売会がある。
元々は貴族の城だった学校の回廊には、大きなステンドグラスが嵌った窓が豪華に並ぶ。
仮面文芸即売会では、その回廊にテーブルが並べられ、仮面をつけた生徒達が自作の物語を販売する。
宙に浮かぶ燭台の灯りと星明かりが頼りだ。
幼い頃から物語が好きだった。
自分でも趣味で物語を綴ってきた。
自分では常に、昨日の自分を超える作品を書いているつもりだった。
淑女達に読んでもらうには流行を押さえるのが大事。
婚約破棄もの、悪役令嬢もの、復讐もの、異世界転生にもふもふ……あらゆるものを書いてきた。
けれど何を書いても、私の書いた物語は淑女達に見向きもされなかった。
一方で、有名な作者や、流行り物の中でも筆が速い作者の本は、それだけで沢山の人が手に取る。
(でも不思議……私は惹かれない。私は、もっと)
私はもっと、心を揺らしてくれる物語が好きだ。
例えるなら、読んでいるうちに心ががっしり捕まえられて、振り回して引き摺り回してボロボロにしてくれるような、抗いがたい力を持つ話が好きだ。
多分、諸悪の根源はこの好きな作品の好み。
私自身が書くものにも、この好みは色濃く表れた。
それは私以外の人には刺さらない。
(きっと私は趣味が悪い)
だから趣向を変えてみた。
好きな物を書くのをやめた。
どうせ誰にも読まれないんだから、と好き勝手に書いた。
私にしては珍しく少年を主人公に据え、流行りの悪役令嬢とその周囲の令嬢達をヒロインにした、艶っぽいシーン満載のハーレム物を書いたのは、数ヶ月前のこと。
即売会のルールギリギリを攻めた描写を詰め込んだ。
ちょっと自棄になっていたのかもしれない。
いや完全に血迷っていた。
『破滅エンドを回避させた令嬢達が僕を毎晩悩ませてくる』なんてタイトルで売った所、これが、男子生徒達に爆発的に売れた。
……男って、ちょろいな。
その時点で、お姫様を迎えに来てくれる王子様や、一人の女性を誠実に愛する男性を夢見る自分は死んでしまっていたのかもしれない。
これが、ハメレイが世に生まれた顛末だ。
でもそれがまさか、こんな未来を引き寄せるなんて。
「——聞いているのか? ナディア・クライノート!」
周りのざわめきと共に、ヴィラント皇子の睨みつけるような表情が目に飛び込んでくる。
ああそうだった。
まだ私が婚約破棄される場面は終わってなかった。
「私の心は、ツン要素が可愛すぎるマチルダと、そしてその他の令嬢達のものだ。恨むな、ナディア」
恨まないから、せめて心を捧げるのは一人にしてよ。
『その他』て。
ヴィラントは制服のローブを翻らせ、よく通る声で告げた。
「私はマチルダ達と共に生きる。お前も達者で暮らせ」
ヴィラントが去った後に残されたのは、本の中の令嬢達に負けて立ち尽くすナディアと、それを同情の眼差しで見つめる生徒達だった。
「おい、声かけるか?」
「やめとけよ、あの子にマチルダについて聞かれても困るだろ? ハメレイなんて知らないだろうし」
私がハメレイの作者であることは、誰も知らないはず。
それでも、ハメレイの内容を知っているのだろう男子生徒達の目線は、痛かった。
私、ナディア・クライノートが通う、ノーヴァ帝国の王侯貴族の子女達が集う魔法学校では、毎週末、仮面舞踏会ならぬ、仮面文芸即売会がある。
元々は貴族の城だった学校の回廊には、大きなステンドグラスが嵌った窓が豪華に並ぶ。
仮面文芸即売会では、その回廊にテーブルが並べられ、仮面をつけた生徒達が自作の物語を販売する。
宙に浮かぶ燭台の灯りと星明かりが頼りだ。
幼い頃から物語が好きだった。
自分でも趣味で物語を綴ってきた。
自分では常に、昨日の自分を超える作品を書いているつもりだった。
淑女達に読んでもらうには流行を押さえるのが大事。
婚約破棄もの、悪役令嬢もの、復讐もの、異世界転生にもふもふ……あらゆるものを書いてきた。
けれど何を書いても、私の書いた物語は淑女達に見向きもされなかった。
一方で、有名な作者や、流行り物の中でも筆が速い作者の本は、それだけで沢山の人が手に取る。
(でも不思議……私は惹かれない。私は、もっと)
私はもっと、心を揺らしてくれる物語が好きだ。
例えるなら、読んでいるうちに心ががっしり捕まえられて、振り回して引き摺り回してボロボロにしてくれるような、抗いがたい力を持つ話が好きだ。
多分、諸悪の根源はこの好きな作品の好み。
私自身が書くものにも、この好みは色濃く表れた。
それは私以外の人には刺さらない。
(きっと私は趣味が悪い)
だから趣向を変えてみた。
好きな物を書くのをやめた。
どうせ誰にも読まれないんだから、と好き勝手に書いた。
私にしては珍しく少年を主人公に据え、流行りの悪役令嬢とその周囲の令嬢達をヒロインにした、艶っぽいシーン満載のハーレム物を書いたのは、数ヶ月前のこと。
即売会のルールギリギリを攻めた描写を詰め込んだ。
ちょっと自棄になっていたのかもしれない。
いや完全に血迷っていた。
『破滅エンドを回避させた令嬢達が僕を毎晩悩ませてくる』なんてタイトルで売った所、これが、男子生徒達に爆発的に売れた。
……男って、ちょろいな。
その時点で、お姫様を迎えに来てくれる王子様や、一人の女性を誠実に愛する男性を夢見る自分は死んでしまっていたのかもしれない。
これが、ハメレイが世に生まれた顛末だ。
でもそれがまさか、こんな未来を引き寄せるなんて。
「——聞いているのか? ナディア・クライノート!」
周りのざわめきと共に、ヴィラント皇子の睨みつけるような表情が目に飛び込んでくる。
ああそうだった。
まだ私が婚約破棄される場面は終わってなかった。
「私の心は、ツン要素が可愛すぎるマチルダと、そしてその他の令嬢達のものだ。恨むな、ナディア」
恨まないから、せめて心を捧げるのは一人にしてよ。
『その他』て。
ヴィラントは制服のローブを翻らせ、よく通る声で告げた。
「私はマチルダ達と共に生きる。お前も達者で暮らせ」
ヴィラントが去った後に残されたのは、本の中の令嬢達に負けて立ち尽くすナディアと、それを同情の眼差しで見つめる生徒達だった。
「おい、声かけるか?」
「やめとけよ、あの子にマチルダについて聞かれても困るだろ? ハメレイなんて知らないだろうし」
私がハメレイの作者であることは、誰も知らないはず。
それでも、ハメレイの内容を知っているのだろう男子生徒達の目線は、痛かった。
0
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@アンジェリカ書籍化決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________
夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。
光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。
最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。
たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。
地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。
天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね――――
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
王弟が愛した娘 —音に響く運命—
Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、
ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。
互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。
だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、
知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。
人の生まれは変えられない。
それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。
セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも――
キャラ設定・世界観などはこちら
↓
https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。
その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。
婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。
孤独な結婚生活を送る中。
ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。
始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。
他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。
そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。
だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。
それから一年ほどたった冬の夜。
カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。
そこには彼の想いが書かれてあった。
月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。
カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。
※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。
※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。
稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる