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第七稿 物語の魔法を纏って
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クローヴィスが取り払った仮面が床に落ちて転がる。
「ナディア……?」
ヴィラントが、信じられない物を見る目でこちらを見ていた。
顔を両手で覆い、動揺を隠して考える。
落ち着いて。
息をして。
物語のヒロイン達は、ここで泣いたり逃げたりしない。
彼女達は鮮やかに、ピンチを切り返す。
分厚い本の表紙に触れた感触を思い出す。
小さな身体の中に、溢れるエネルギーを持った、本の中のヒロイン達。
今ここにいたのが、彼女達なら。
世界に涼しい風が吹き始めた。
それは、胸に逆巻く嵐を鎮めていく。
口元に笑みを浮かべ、ドレスの裾を捌いて立ち上がった。
「ヴィラント様に気付いていただけず、残念ですわ」
ここぞと言う時に使う勝負笑顔を浮かべて、恐れず言い切った。
「作者が私だとご存知なら、まだ私達は婚約者どうしでしたかしら?」
ヴィラントは驚愕の表情を浮かべ、ヨロヨロと後退った。
「なんたること……」
頭を抱え、独り言のように呟く。
「即売会には、従者を行かせていた……だから、私は今日まで……!」
ヴィラントは頭の処理が追いつかない様子で、そのまま長椅子にぶつかり倒れるように座ると、目を見開いたまま何も言わなくなった。
「どうやら、ショックが大きいようだ」
クローヴィスは一人冷静だ。
根性で強気を装い、クローヴィスに問いかける。
「いつから私の正体にお気付きでしたの?」
「ん? 君が弟の婚約者として挨拶しに来てくれた後、最初に即売会で見かけた時からだよ。一瞬仮面を取ったろ?」
クローヴィスはかすかに微笑んでいる。
クローヴィスと即売会で会う直前、涙を拭こうとして仮面を取ったことを思い出す。
では。
胸の中に風穴が空いたような、少し寂しい気持ちになる。
「作者が私だから、私の本に興味を持ってくださったんですか?」
クローヴィスは、軽く息を吐いた。
「最初はね」
それは有名作家の作品が、有名だからと言うだけで買われ読まれるのと同じだ。
純粋に中身を評価された訳ではない。
ただの、作者買いだ。
「こら、君の良くない癖だ」
クローヴィスは床に落ちた仮面を拾い、私の手を取った。手のひらの上に赤い仮面が載せられる。
「正体が君だったと言うのは、きっかけに過ぎない。流行の枠にとらわれない、君にしか書けない物語が、私は好きだよ。私の気持ちを信じてほしい」
そうだ。
流行に乗った物語を書き始めてから、クローヴィスは私のテーブルに来なくなった。
彼は、流行りに流されない作品を好んでいた。
私はずっと、誰にも見向きされないテーブルで待ち続けていたのかもしれない。
私が自由に書いた作品を、好きと言ってくれる誰かを。
「ナディア……?」
ヴィラントが、信じられない物を見る目でこちらを見ていた。
顔を両手で覆い、動揺を隠して考える。
落ち着いて。
息をして。
物語のヒロイン達は、ここで泣いたり逃げたりしない。
彼女達は鮮やかに、ピンチを切り返す。
分厚い本の表紙に触れた感触を思い出す。
小さな身体の中に、溢れるエネルギーを持った、本の中のヒロイン達。
今ここにいたのが、彼女達なら。
世界に涼しい風が吹き始めた。
それは、胸に逆巻く嵐を鎮めていく。
口元に笑みを浮かべ、ドレスの裾を捌いて立ち上がった。
「ヴィラント様に気付いていただけず、残念ですわ」
ここぞと言う時に使う勝負笑顔を浮かべて、恐れず言い切った。
「作者が私だとご存知なら、まだ私達は婚約者どうしでしたかしら?」
ヴィラントは驚愕の表情を浮かべ、ヨロヨロと後退った。
「なんたること……」
頭を抱え、独り言のように呟く。
「即売会には、従者を行かせていた……だから、私は今日まで……!」
ヴィラントは頭の処理が追いつかない様子で、そのまま長椅子にぶつかり倒れるように座ると、目を見開いたまま何も言わなくなった。
「どうやら、ショックが大きいようだ」
クローヴィスは一人冷静だ。
根性で強気を装い、クローヴィスに問いかける。
「いつから私の正体にお気付きでしたの?」
「ん? 君が弟の婚約者として挨拶しに来てくれた後、最初に即売会で見かけた時からだよ。一瞬仮面を取ったろ?」
クローヴィスはかすかに微笑んでいる。
クローヴィスと即売会で会う直前、涙を拭こうとして仮面を取ったことを思い出す。
では。
胸の中に風穴が空いたような、少し寂しい気持ちになる。
「作者が私だから、私の本に興味を持ってくださったんですか?」
クローヴィスは、軽く息を吐いた。
「最初はね」
それは有名作家の作品が、有名だからと言うだけで買われ読まれるのと同じだ。
純粋に中身を評価された訳ではない。
ただの、作者買いだ。
「こら、君の良くない癖だ」
クローヴィスは床に落ちた仮面を拾い、私の手を取った。手のひらの上に赤い仮面が載せられる。
「正体が君だったと言うのは、きっかけに過ぎない。流行の枠にとらわれない、君にしか書けない物語が、私は好きだよ。私の気持ちを信じてほしい」
そうだ。
流行に乗った物語を書き始めてから、クローヴィスは私のテーブルに来なくなった。
彼は、流行りに流されない作品を好んでいた。
私はずっと、誰にも見向きされないテーブルで待ち続けていたのかもしれない。
私が自由に書いた作品を、好きと言ってくれる誰かを。
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