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第八稿 淑女に相応しくない展開
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麗らかな陽気が降り注ぐ、ノーヴァ帝国魔法学校の中庭。
今日も第三皇子のヴィラントは、お昼時にやってきた。
「ナディア・クライノート! 私と改めて婚約してほしい!」
「ですから、もう終わった話だと申し上げてます!」
正気を取り戻したヴィラントは、私がハメレイの作者だと知った上で、熱心に求婚し始めた。
婚約してた時は私に全く興味を持たなかったのに、現金な男め。
「貴女はまさに、私のマチルダ! あの客間での笑みを忘れることなどできない!」
「どんな話か知った上で仰ってるんですよね!?」
ヴィラントは騎士のようにナディアの前に跪く。
この皇子、見てくれだけは特級品なのが憎らしい。
「貴女の虜になってしまった私を、憐れだと思ってくださらないのですか?」
責任は感じております。
ハメレイさえなければ、ヴィラントは真面目な皇子で今も通っていたはず。
でも。
「どうか『あたくしを選んで』と言ってください! あの笑みで!」
セクハラで訴えます! と言いたいが、そもそもそんな台詞を書いたのは自分だ。
何であんな本書いたんだ自分!
「私は諦めません、貴女が受け入れてくださるまで!」
「受け入れませんし、これ以上付きまとうなら」
ヴィラントのローブを引っ張り、その耳元で小声で告げた。
「マチルダを主人公のライバルと結婚させて完結させます」
この言葉に、ヴィラントは凍りついた。
「そ、それは禁じ手のネト……!」
そう、NTRとも書かれる、男性達に人気のストーリー展開だ。
「しかも、その二人をめいっぱい幸せにします」
裏切られた主人公に復讐などさせるか。
失意の底で悶え苦しむがいい!
「どうぞお引き取りを!」
ナディアの強い声に、ヴィラントは言葉を失い、放心状態で帰っていく。
今のはだいぶ効いたようだ。
まさか自分が生み出した物語のヒロインの貞操を脅しに使う日が来るとは……。
ヴィラントの絶望は深いだろうが、私もまた、とことん淑女らしからぬ自分に絶望しかけている。
☆☆☆
仮面文芸即売会には、あの後しばらくして、ちゃっかり復帰した。
ハメレイを捨て、仮面を変え、筆名を変え、ゼロからの再出発をした。
昔書いていた、『星の花びら、地に堕ちて』シリーズだけを置いた私のテーブルには、やはり誰も来ない。
誰も来ないは言いすぎた。
「今日は新刊ある?」
多忙な皇太子の立場で、彼は顔を出す。
「ありますよ」
「本当? 待ってたよ。ジェイミーが次に出会う花は、どんな花だろう」
彼は即売会に現れる時、いつも私に一輪の花を差し出す。
多くの人が見向きするような話じゃなくても、たった一人、届けたい人に届いている。
だから書き続けられる。
本を差し出す手を、そっと握られる。
私にだけ聞こえる声で、彼は言った。
「ヴィラントから強引に君を奪ってしまおうか、悩んだ時期もあった。けれど君は手折って飾るより、伸びやかに咲く姿を愛でたい花だね」
「え」
「次の物語も楽しみにしてるよ、私のジェイミー」
嬉しそうに囁かれる。
彼の『私のジェイミー』という声は、魔法の呪文のようだ。胸がくすぐったくなって困る。
夜、机の上に飾られた花瓶の花。
クローヴィスから渡された青い花が、甘い香りを放っている。
ナディアは静かにペンを執った。
今日も第三皇子のヴィラントは、お昼時にやってきた。
「ナディア・クライノート! 私と改めて婚約してほしい!」
「ですから、もう終わった話だと申し上げてます!」
正気を取り戻したヴィラントは、私がハメレイの作者だと知った上で、熱心に求婚し始めた。
婚約してた時は私に全く興味を持たなかったのに、現金な男め。
「貴女はまさに、私のマチルダ! あの客間での笑みを忘れることなどできない!」
「どんな話か知った上で仰ってるんですよね!?」
ヴィラントは騎士のようにナディアの前に跪く。
この皇子、見てくれだけは特級品なのが憎らしい。
「貴女の虜になってしまった私を、憐れだと思ってくださらないのですか?」
責任は感じております。
ハメレイさえなければ、ヴィラントは真面目な皇子で今も通っていたはず。
でも。
「どうか『あたくしを選んで』と言ってください! あの笑みで!」
セクハラで訴えます! と言いたいが、そもそもそんな台詞を書いたのは自分だ。
何であんな本書いたんだ自分!
「私は諦めません、貴女が受け入れてくださるまで!」
「受け入れませんし、これ以上付きまとうなら」
ヴィラントのローブを引っ張り、その耳元で小声で告げた。
「マチルダを主人公のライバルと結婚させて完結させます」
この言葉に、ヴィラントは凍りついた。
「そ、それは禁じ手のネト……!」
そう、NTRとも書かれる、男性達に人気のストーリー展開だ。
「しかも、その二人をめいっぱい幸せにします」
裏切られた主人公に復讐などさせるか。
失意の底で悶え苦しむがいい!
「どうぞお引き取りを!」
ナディアの強い声に、ヴィラントは言葉を失い、放心状態で帰っていく。
今のはだいぶ効いたようだ。
まさか自分が生み出した物語のヒロインの貞操を脅しに使う日が来るとは……。
ヴィラントの絶望は深いだろうが、私もまた、とことん淑女らしからぬ自分に絶望しかけている。
☆☆☆
仮面文芸即売会には、あの後しばらくして、ちゃっかり復帰した。
ハメレイを捨て、仮面を変え、筆名を変え、ゼロからの再出発をした。
昔書いていた、『星の花びら、地に堕ちて』シリーズだけを置いた私のテーブルには、やはり誰も来ない。
誰も来ないは言いすぎた。
「今日は新刊ある?」
多忙な皇太子の立場で、彼は顔を出す。
「ありますよ」
「本当? 待ってたよ。ジェイミーが次に出会う花は、どんな花だろう」
彼は即売会に現れる時、いつも私に一輪の花を差し出す。
多くの人が見向きするような話じゃなくても、たった一人、届けたい人に届いている。
だから書き続けられる。
本を差し出す手を、そっと握られる。
私にだけ聞こえる声で、彼は言った。
「ヴィラントから強引に君を奪ってしまおうか、悩んだ時期もあった。けれど君は手折って飾るより、伸びやかに咲く姿を愛でたい花だね」
「え」
「次の物語も楽しみにしてるよ、私のジェイミー」
嬉しそうに囁かれる。
彼の『私のジェイミー』という声は、魔法の呪文のようだ。胸がくすぐったくなって困る。
夜、机の上に飾られた花瓶の花。
クローヴィスから渡された青い花が、甘い香りを放っている。
ナディアは静かにペンを執った。
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