ナディア・クライノートは筆を折る〜「私はこの小説のヒロイン達を愛している、三次元の女に興味は無い」と婚約破棄されましたが、それ書いたの私です

藤咲紫亜

文字の大きさ
11 / 37

第十一稿 物語の魔女【side:クローヴィス】

しおりを挟む

 寮の自室で、クローヴィスはナディアの物語を読み耽っていた。

 心を捉え揺さぶりをかけるナディアの物語の力は、嵐のように暴力的で情熱的で、簡単には抗えない。

 『星の花びら、地に堕ちて』なんてタイトルだから、童話のような話を想像していた。
 全く違う。
 この物語は主人公ジェイミーが、地上に咲く星の花を探す話だが、度重なる災禍がジェイミーを酷く苦しめる。
 試練だらけの中、ジェイミーは軽やかに物語の先へと駆けていく。

[心に一つ、星を宿そう。
 私を守り、鼓舞し、明日へと送り出してくれる星。

 悲しみや孤独が私を苛もうとするなら、飲み干そう。
 そして明日には、ご馳走様と笑ってやる。]

 家族を亡くして、友人と別れ、周囲に理不尽に迫害され。それでも、彼女は希望をなくさず次へと歩み出す。

 待ってくれ。
 どうしてお前は平然としている。
 そんなに無防備なのに、なぜ笑顔を浮かべられる?
 なぜ諦めない?
 私は、とっくに。

 気付けば物語の中のジェイミーに問いかけていた。重なっていく、ジェイミーとナディアの面差し。
 そして気付けば、即売会に顔を出せる日にはナディアの新刊を探すようになっていた。

 彼女は、物語の魔女だ。
 無害そうな淑女なのに、ひとたび彼女が紡ぎ出す言の葉に触れれば、人は彼女の物語の世界に絡め取られる。

 本を手渡す彼女は、通い初めこそ戸惑っていたが、何度目かになってくると口元に微笑みを浮かべてくれた。
 嬉しそうな様子の彼女を見ると、不思議と自分も嬉しくて。

(ミイラ取りが……)
 いつからか、弟のヴィラントが憎らしく……いや、妬ましく思うようになっていた。
 ナディアの近くにいながら、ヴィラントの眼中に彼女はいない。なら、いっそのこと——

 彼女の中に暴れ狂う知性と情熱の存在を、弟は知らないだろう。
 彼女は自分の本性を上手く隠している。
 ひょっとすると、彼女自身気付いていない激しさなのかもしれない。

 ナディアのような、苛烈な内側を持つ女性と弟が釣り合うとも考えづらい。ヴィラントは内向的で大人しいタイプだ。

 まっすぐな黒髪と、深い青の瞳を持つナディア・クライノート。
 彼女はクライノート公爵家の次女で、ヴィラントとの婚約は2ヶ月前。母親同士の希望から交わされた政略婚。

 つまり、そこにナディアの意志は無い。
 婚約が解消されたからと言って彼女が傷つくことはないはずだ。
 元々ヴィラントの妃にと願われる彼女だ。家格は問題無い。

 ……何に、問題無いと?
 私は一体何を考えている?

 弟から婚約者を奪うことを真剣に考え始めている自分にゾッとした。
 全く理性的じゃない。
 ナディアには一人、未婚の姉がいる。
 ナディアではなく、その姉ならば自分の妃に願っても。

 いや。

 ナディアでなければダメだ。
 彼女でなければ、この力ある言葉を生み出せない。

 持て余す、無い物ねだりのような感情。

 そんな折だった。
 遺跡から発見された魔法薬についての報告が自分の元に届いた。

 飲んだ人間に、目にした言葉を我がことと思い込ませる薬——つまり、洗脳薬だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@アンジェリカ書籍化決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件

水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。 「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。

冷酷な王の過剰な純愛

魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、 離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。 マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。 そこへ王都から使者がやってくる。 使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。 王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。 マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。 ・エブリスタでも掲載中です ・18禁シーンについては「※」をつけます ・作家になろう、エブリスタで連載しております

処理中です...