ナディア・クライノートは筆を折る〜「私はこの小説のヒロイン達を愛している、三次元の女に興味は無い」と婚約破棄されましたが、それ書いたの私です

藤咲紫亜

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第十二稿 これはきっとファンレター

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——クローヴィスに『星の花びら、地に堕ちて』の最終話を渡して、しばらく経った頃。
 最近は、汗ばむ陽気に包まれる日が増えてきた。

 ノーヴァ帝国魔法学校の寮は、昼間は生徒達の賑やかな声に溢れるが、夜になると打って変わった静けさに包まれる。
 外の涼しい風を求めて開け放っていた窓から、白い封筒がナディアの部屋に飛び込んできた。
 
 もう書くのをやめてしまったハメレイのファンからだろうか?

 目の前で開かれた封筒から、ふわりと一輪の花が飛び出した。
 5枚の黄色い花びらがドレスの裾のように広がった。この封筒は、立体的なものを潰さず運ぶ魔法がかけられた封筒だ。

 一枚の上質な便箋が黄色い花の横に浮かぶ。
 燭台を近づけ、ペラペラと空中で開かれた手紙を読んで、目を疑った。


『親愛なるナディアへ

 夏が近づいているね。
 元気にしてるかな?
 私は最近、様々な会議に呼ばれることが増えて、なかなか即売会に顔を出せない日が続いている。
 忙しいのは慣れているけれど、君に会えないのは堪える。いつの間にか、君は私にとって回復薬のような存在になっているようだ。君がハメレイを書いていた時期、君から少し離れても、こんな想いに囚われることはなかったのにね。
 今は早く君の顔が見たい。
 学校に戻ったら、すぐにでも君の物語の魔法にかかりたい。新作を楽しみにしているよ。
 ああ、だけど執筆に集中しすぎて、身体を壊さないように。
 心からの敬意と、エールを込めて。

 クローヴィス・フォン・ノーヴァ』


 乱れ一つない丁寧な筆跡に、彼の性格を感じる。
 クローヴィスは皇太子としての公務が多忙を極めているようで、即売会どころか学校で見かけることすら減っている。

 「ナディア」と呼びとめてくれる彼の柔らかい声が無いと、心の一部がぽっかりと無くなってしまったような感覚だ。
 
 窓から入る風が、白い夜着の裾を優しく揺らす。

 言われてみれば、彼と会えない時期はこれが初めてではない。
 『星の花びら、地に堕ちて』の執筆を一旦休んで、流行ものを書いてみた時期、その後ハメレイを書いていた時期も、クローヴィスは即売会の私のテーブルに来なかった。

 寂しいとは、感じていた。
 自分を気にかけてくれていた人から見放されてしまったようで。

 けれどハメレイが男子生徒達に人気になってしまってからは、執筆作業に明け暮れて彼の存在を忘れてしまっていたのも確かで。

(私も調子が良い)
 クローヴィスは、こんな薄情な私が書く作品の何が良いのだろう。
 
 花瓶に挿した花が、星のようだ。
(星の花)
 返事を書くための封筒と便箋を取り出して、ペン先にインクを吸わせ……想いを馳せた。

 今まで深く考えてこなかった、彼の生活。
 彼との接点が無くなってしまったあの時期、クローヴィスはどう過ごしていたのだろう……?——
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