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始動
ep.34
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『……いた』
オフィスビルから直進に歩いて五分。
目的のカフェはあった。
数時間ぶりの来訪だ。
窓際の席に座ってぼんやりと街並みを眺めている彼と目が合う。
蒼ちゃんはガタッと椅子から立ち上がり、こちらに向かってくる。
先払い式のお店でよかった。
でなければ彼は食い逃げ犯になる。
「美愛!」
『蒼ちゃん…』
「よかった。来てくれた…
ありがとう」
『蒼ちゃんずっと待ってる気だったでしょ。
行くなんて私、一言も言ってないのに』
ふにゃ、と気の抜けるような笑顔を浮かべて安堵する蒼ちゃん。
この笑顔だ。
心底私はこの笑顔に弱い。
大抵の事は許してしまう。
惚れた弱みというやつだろうか。
「どうしても美愛と話したかったから」
『話すことなんか…』
「俺はある。たくさん」
『………』
蒼ちゃんは強い眼差しで私を捉えて言った。
目を逸らせない。
なるべく目を合わせないようにしていた私の苦労が無駄になった。
「お腹空いてない?」
『ああ…うん。空いたかな』
「食い行こう。いつものとこ」
いつものとこ。
それは私達がまだ恋人同士だった頃、よく利用していた居酒屋。
個室完備されていて、ゆっくり話したいときにはもってこいの場所だった。
私は渋々、蒼ちゃんに続いて歩きだした。
お互いの肩が触れるか触れないかの曖昧な距離。
カツカツカツ、と私のヒールの音だけが二人の間に鳴り響く。
会話はない。
不思議と気まずさはなかった。
「車、店にあるから寄っていい?
すぐそこだから」
『うん。
ちゃんと身体休めてる?彗くんが心配してたよ』
「………彗には会ってんだ」
『成り行きでね。会うつもりはなかったんだけど…』
「相変わらずか…」
「?
相変わらず?」
蒼ちゃんの言葉に私は首を傾げた。
どういう意味だろう。
彼は一人で納得した口ぶりだった。
「着いたよ」
『わ…』
いつの間にか目的地に着いていたよう。
蒼ちゃんの足が止まり、私も立ち止まった。
何気なしに見上げるとガラス張りのお洒落な外観の建物が聳え立っている。
看板には〝Hair DOLCE〟と掲げられていた。
間違いない。
彼の店だ。
『おっきいね、お店』
「まぁ……頑張ったよ」
店内はまだ明かりが点いている。
スタッフが練習で残っているのだろうか。
時折、人影が見えた。
「あれ、月島さん?
帰ったんじゃ…」
私がお店の外観をぼんやり眺めていると、裏口だろうか。
奥の扉が開いて金髪ショートの小さな女の子が現れた。
本当に小さい。
年齢的には二十代前半くらいだろう。
とにかく彼女は身長が低く、一五〇センチにも満たないのではないだろうか。
可愛いらしい小動物みたいな子だった。
「古川。今帰り?」
「はい。今日ちょっと用事があって…
明日はちゃんと練習します」
「まだ何も言ってないけど。
気をつけてな」
「はい。お疲れ様です」
その小さい子はぺこり、と私に会釈して横を通り過ぎていく。
小柄な身体には似つかわぬ、大きなリュックを背負って。
テクテク、とその小さな歩幅で駅へと急いでいく背中を見送った。
なんとも所作が可愛いらしい子だ。
ついつい目で追ってしまう。
オフィスビルから直進に歩いて五分。
目的のカフェはあった。
数時間ぶりの来訪だ。
窓際の席に座ってぼんやりと街並みを眺めている彼と目が合う。
蒼ちゃんはガタッと椅子から立ち上がり、こちらに向かってくる。
先払い式のお店でよかった。
でなければ彼は食い逃げ犯になる。
「美愛!」
『蒼ちゃん…』
「よかった。来てくれた…
ありがとう」
『蒼ちゃんずっと待ってる気だったでしょ。
行くなんて私、一言も言ってないのに』
ふにゃ、と気の抜けるような笑顔を浮かべて安堵する蒼ちゃん。
この笑顔だ。
心底私はこの笑顔に弱い。
大抵の事は許してしまう。
惚れた弱みというやつだろうか。
「どうしても美愛と話したかったから」
『話すことなんか…』
「俺はある。たくさん」
『………』
蒼ちゃんは強い眼差しで私を捉えて言った。
目を逸らせない。
なるべく目を合わせないようにしていた私の苦労が無駄になった。
「お腹空いてない?」
『ああ…うん。空いたかな』
「食い行こう。いつものとこ」
いつものとこ。
それは私達がまだ恋人同士だった頃、よく利用していた居酒屋。
個室完備されていて、ゆっくり話したいときにはもってこいの場所だった。
私は渋々、蒼ちゃんに続いて歩きだした。
お互いの肩が触れるか触れないかの曖昧な距離。
カツカツカツ、と私のヒールの音だけが二人の間に鳴り響く。
会話はない。
不思議と気まずさはなかった。
「車、店にあるから寄っていい?
すぐそこだから」
『うん。
ちゃんと身体休めてる?彗くんが心配してたよ』
「………彗には会ってんだ」
『成り行きでね。会うつもりはなかったんだけど…』
「相変わらずか…」
「?
相変わらず?」
蒼ちゃんの言葉に私は首を傾げた。
どういう意味だろう。
彼は一人で納得した口ぶりだった。
「着いたよ」
『わ…』
いつの間にか目的地に着いていたよう。
蒼ちゃんの足が止まり、私も立ち止まった。
何気なしに見上げるとガラス張りのお洒落な外観の建物が聳え立っている。
看板には〝Hair DOLCE〟と掲げられていた。
間違いない。
彼の店だ。
『おっきいね、お店』
「まぁ……頑張ったよ」
店内はまだ明かりが点いている。
スタッフが練習で残っているのだろうか。
時折、人影が見えた。
「あれ、月島さん?
帰ったんじゃ…」
私がお店の外観をぼんやり眺めていると、裏口だろうか。
奥の扉が開いて金髪ショートの小さな女の子が現れた。
本当に小さい。
年齢的には二十代前半くらいだろう。
とにかく彼女は身長が低く、一五〇センチにも満たないのではないだろうか。
可愛いらしい小動物みたいな子だった。
「古川。今帰り?」
「はい。今日ちょっと用事があって…
明日はちゃんと練習します」
「まだ何も言ってないけど。
気をつけてな」
「はい。お疲れ様です」
その小さい子はぺこり、と私に会釈して横を通り過ぎていく。
小柄な身体には似つかわぬ、大きなリュックを背負って。
テクテク、とその小さな歩幅で駅へと急いでいく背中を見送った。
なんとも所作が可愛いらしい子だ。
ついつい目で追ってしまう。
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