始まりの魔王と終わりの女神の世界統一(改稿)

三浦 久明

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竜騎帝国日本編 本編

二章 VIPな密入国者

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 旅人風情の魔族と天使は、日本のとある港町に上陸していた。先ほどまでいた船は日本の帝都…竜京に向かっていたが、ここは竜京ではなかった。
 竜京に向かってしまえば密入国は難しくなると判断したセヴィスたちは、船が近くを通った港町に飛び移ったのだ。
 
 そのためここが何処かは分からない。
 辺りを見る限りでは、船着場には多くの船が停泊し、漁師と思われる者たちによってセリが行われていて、とても争いを続けている国とは思えないほど活気に満ち溢れている。ちなみに、建物は全て木造だった。
 これがおそらく和風と言うものだろう。
 事前の下調べによれば、日本という国には隣国のユースアシャ大陸にある大国、中国から流れている文化の他にも独自の文化があるらしいのだ。その一つが"和"だ。
 
 セヴィスは横にいる面々の顔を見やる。右隣には、珍しいものを見るような表情のシルティが一人。感嘆しているのであろうレイファルが一人。そして、最後に…左隣、見飽きたとでも思っているのであろうか、さも当たり前のものを見る時の表情を浮かべたルーシェが一人…。
 どうやら、オルビスの言っていた観光の話は本当だったのだろうか。正直な話、セヴィスもシルティも対外的な話に関しては、一人に一任をしていた。そして、魔族で言うならば、その役がルーシェだ。 
 だからこそ、観光などしているはずがない。と、思う。のだが…セヴィスが思い出すに、ルーシェの魔界領を離れている期間やその数がとても多いことは間違いなし、やけにお土産と称して色々な物を買って来てくれたりしていた。
 これはまさしく解けぬ疑惑と言うものだ。
 
 「セヴィス様どうかしましたか?」
 
 ふと、そこで右隣のルーシェがセヴィスに問う。その表情は少し心配そうに歪んでいた。
 
 「いや、何でもないよ。でも急にどうしたの?」
 「大丈夫ならいいのですが、少し考え事みたいに、難しい顔をしてましたよ?」
 
 セヴィスの考え事の渦中にいたルーシェは、セヴィスの問いにそう答えた。
 
 「えっと…、そうだったんだ。自分じゃ分からなかったよ。ルーシェは、こことかによく来た事あるの?日本の事を知ってたみたいにだし、ここがどこか分かる?」
 
 ルーシェは、顎に手を当てながら周りを様子見する。セヴィスは、ここの事が知りたいからこその質問だ。正直、観光に関してはもう考えるのは辞めにしようと思っていた。
 だか、この反応からするとおそらくルーシェもここが分からないのだろう。さっきから、う~ん、と唸るように眉に皺を寄せていた。
 
 「私も分からないです、すみません。でもだいたい、本当に大雑把ですが、ここがどこかは分かると思います。たぶんでいいですか?」
 
 ルーシェは少し不安そうにセヴィスを見やる。たぶん、この表情をレイファルにすればイチコロだとセヴィスは思った。いや、もうすでにレイファルが恋心を抱いた時点で射止められているのであろう。
 
 セヴィスはふと、レイファルを横目で見る。そこには、少し顔を赤くしたレイファルがいて…その隣のシルティは、そんなレイファルを見て少しの苦笑とため息を漏らしていた。
 
 「ありがと、正直大雑把でもなんでも、少しでもここがどこなのか分かるなら教えて欲しい」
 
 セヴィスの言葉を聞いても少し渋っていたルーシェだったが、意を決したように話しを始める。
 
 「…分かりました。おそらくですが、ここは日本の中部地方の産業が盛んな所の港町だと思います。ほら、そこに蒲浦って書かれています。この名前がここの地名なのではないでしょうか?」
  
 ルーシェはそう言って近くに建てらてた大きめの看板を指差した。
 
 「そうか、こんな所にヒントがあったんだ。でも、ありがとう。おかげてここがどこなのか分かったよ」
 
 セヴィスは、ルーシェに向き直り礼を述べる。
 すると、ルーシェは少し顔を赤くして、照れたように言う。
 
 「そ、そうですか…。私は、セヴィス様のお役に立てましたか?」
 「う、うん。ありがと。おかげさまです。」
 
 正直、ルーシェのおかげて救われた部分が多いと思う。だから、やめて…レイファルからの視線が痛い…!
 
 「そ、そうです!私達には情報が必要です!なので、二手に分かれませんか?」
 
 そこで、すかさずシルティがフォローを入れてくれる。正直セヴィスにとって、この場面でのこの案は渡りに船というものだ。
 
 「うんそうだね、それがいいよ。じゃ、じゃぁ、僕はシルティと組むよ」
  
 シルティの提案にセヴィスはすかさずとう言うより食い気味に同意する。セヴィスは心の中で感謝の意を唱えた。やっぱり、シルティは気配り上手だ。たぶん…。
  
 「え?そうなんですか?ここは、魔族と神族で分れた方がいいのでは?」
  
 ここで、ルーシェはふと思った疑問を口にする。
 
 「いや、僕とシルティがペアの方が効率がいいんだよ。」
 「効率と言う観点で見ればそうなるんですか?」
 
 そこで、レイファルもルーシェと同じように思っていたのか、そこで疑問を口にした。
 
 確かにその真意は気になるものだろうが、レイファルとルーシェをペアにさせるための案なのだから、レイファルに疑問を口にされれば困ってしまうと言うものだ。
 横にいるシルティも同様に、困ったとでも言いたげな表情をしていた。
  
 「そ、そうなんだよ二人とも。僕とシルティは有名人だよね?」
 
 セヴィスは、少し歯切こ悪い感じに話を始めた。

  「そ、そうですね。」
 
 そこには、ルーシェもレイファルも同意してくれたようで…、二人とも向かいあいながら頷いた。
 
 「うん。だから、それなりにリスクがあるんだよ。例えば、僕ら片方一人でも見つかってしまえば、パニックになってしまうだろう?」
「そうだな…。確かにその未来はありそうだ。」
 
 そこで、レイファルはその未来を想像したのか、少し面倒くさそうとでも言いたげな顔をした。
 
 「だから、そんな僕ら二人が分かれてペアを組んでしまえば、バレた時にそのペアの相手も動く事が出来なくってしまう。正直、今更ながらに、魔王と女神がここに来てしまったのが間違いだと思うんだ。」
 
 正直、今更だけどセヴィスはそう思っていた。もし、バレてしまえば、この世界での立ち位置も変わってしまうのでは無いかと思う。良くも悪くも、どっちに転がるかは分からないけれど、それでも、魔王と女神はそれほどの影響力があるのだから。
 
 「確かにそうですね。セヴィスには、行動に起こすより先に頭で良く考えて欲しいものです」
 
 そこで、その影響力のある一人、女神が魔王に向かって言う。

  「うん。本当にそう思うよ。でも、それはシルティ自身にも言えるのでは無いかと思うんだけど…。うん。ごめん、冗談だよ。」
 
 どうやら失言のようだ。セヴィスに向かって、シルティは少し拗ねたように口を尖らせた。
 
 「兎にも角にもだよ、言い方は悪いと思うけど、僕ら二人よりも、顔バレをあまりしてないルーシェとレイファルの方がリスクが無くて、ペアを組むのにうってつけなんだよ。」
 
 無理やりに本題に戻らせたセヴィスの話を最後まで聞いていたルーシェとレイファルは、少し肩を落としてうな垂れながら言った。
 
 「わ、私ってそんなに有名じゃ無いんですか?外交も任されているのに…」
 「俺も少し傷ついたよ…」
 「え、え?二人とも、そこまで知名度とか気にしてたの?」
 
 むしろ、それに驚きだ、とでも言わんばかりに、セヴィスは軽く狼狽する。
 
 「いえ、冗談ですよ?でも、一理あると思います。確かに、私も外交で顔バレはしてると思いますが、セヴィス様よりかはマシなはずです。」
 
 ルーシェは、冗談だと言っていたが、なぜか"一理ある"以降の言葉が強調されていた。
 
 本当に冗談なのだろうか…。少しセヴィスは不安になる。
 
 「俺も、名声とかには興味がないな。実際、シルティ様の補佐として、内政に関わる事を主としているから顔バレの危険は無いだろう」
 
 口調が変わらないことから、レイファルはどうやら本当に興味が無いようだ。そこは正直、少し安心だ。
 
 「まぁ、そうですね。ですがまぁ、二人とも同意してくれたことですし、この案を採用でいいですか?」
 
 シルティが決を取ろうとするが、ここに異議を唱える者は誰もいなかった。
 
 そこで、ふとレイファルを見るセヴィス。どうやら、少し嬉しかったのか小さくガッツポーズを取る姿が見えた。そして、それをシルティも見ていたようで、軽く苦笑していたのが脇目から見える。
 
 「うん。じゃぁ、次は集合時間と場所を決めようか。軽く探索してくれればいい程度だし、二時間後にこの場所でいいかな?あと、今夜の宿の情報も一緒にとってきてくれると有り難いんだけど…」 
 
 セヴィスは早速時間と場所を決めにかかる。そして、今夜の宿に困っているのは事実だ。男女四人で野宿なんて、流石に無理があるというもの。
 
 「それでいいんじゃないか」
 
 レイファルが同意をする。そして、他の二人もまた頷いて意を示す。

  「うん。よし、決まりだ。では、僕とシルティは、この街道から外れたところを行くよ。顔バレはごめんだからね。だから、二人はこの街道での調査をお願いしたいんだ。」
 「はい。了解です。では、レイファルさん、行きましょう?」
 
 話し合いの終わりと共に、早速ルーシェはレイファルを誘い歩き出す。
 
 街道にはいろいろ出店なども並んでいて、言うなればデート見たいなものだろうと思える。
 どうやら、そう思っているのはシルティも同じようで…さっきから二人の後ろ姿を見ながら嬉しそうに…、いや…、楽しそうに見ていた。
 
 「ねぇ、セヴィス」
 
 そこへ、シルティは軽く両手の指を絡ませ、唇の先へっとそっと近づけながら、セヴィスに向かって振り向く。
 その表情は、満面の笑みで…、恐らく街ゆく人々はきっとイチコロだと思う。
 でも、セヴィスは知ってる。この顔何かを企んでいる顔だ。
 
 「う、うん?どうしたんだい?」
 
 セヴィスは、少し緊張気味に歯切れ悪くシルティの問いかけに答える。
 
 「あの、二人のデート、見守りませんか?」
 
 あ、ほらきたよ…。シルティはこう言ったイタズラ好きな面もあるのだ。
 こう言った時には、セヴィスがフォローするのだと、決まっている。
 
 「うん。それ面白そうだね。じゃぁ、僕は唯一の娘が嫁に行く気分で楽しむよ」
 
 セヴィスは心の中でため息を吐きながら、胸の高鳴りを感じる。
 流石のセヴィスにも、このイベントは大きいようで。一瞬野宿も考えてしまったことは内緒だ。

 
 船着場から真っ直ぐと続く石畳の道、これがここ、蒲浦のメイン街道だ。道の側端には、無数の出店が続きよく賑わっていた。
 
 そして、この街道の先…約二十メートル先を歩く旅人風の二人、ルーシェとレイファルを見守りながら、シルティたちは串を片手に食べ歩きをしていた。
 
 「う~ん…微妙な距離感だね」
 セヴィスの横にいたシルティが、前方の二人を見守りながら言う。それは、正直な感想であり、苦笑混じりだった。
 
 「そうですね。なんと言えばいいのでしょう?以外としっかりと仕事してますね。」
 
 そう言いながらシルティは、前方を、二人を見守るために見据えた…もとい、監視するために見据えていた。
 
 ルーシェが手にしたメモ帳でメモをとり、レイファルが聞き込みをする。そんな感じだった。

  「そうなって来ると、ちゃんと役目を果たして無いのは僕たちだね」

 これまた、セヴィスは苦笑混じりに言う。
 前方の二人は、シルティたちとは違い、串を片手に食べ歩きなんてことはしていなかった。
 
 「そうですけど…、この食べ物美味しすぎです。」
 
 シルティはそう言って串を一口、また一口と食べていく。
 
 「正直、それには同感だよ。このホタテの串焼きは絶品だね。ちょうどいい焼き加減のホタテに、バターの風味とコクがまた合うね。」
 
 そう言いセヴィスも同様に、一口、また一口と食べていく。
 
 セヴィスもシルティも、もうこの串と言うものに夢中だった。ここは港町であるため海鮮系が多く、それは串以外の出店も同様だ。またこの付近は幾つもの串焼きが売っており、シルティに限っては、もう既に七本目だったりする。
 そこで、シルティはもう食べ終わったのか、近くにある串屋に寄っていく。
 
 「へい、らっしゃい!おや?旅人かい?」
 
 シルティを一目見て、串屋の店員が声をかける。

  「はいそうですよ」
  「これまた、変な時期に旅をするとはね~」

 店員の一言に疑問符が浮かぶものの、シルティな店員に促され、目当ての串を注文する。
 
 「あの、変な時期とはどう言うことでしょうか?」
 「おう?知らねぇのか?この国はもう、何年も前から戦争を続けているのさ。だから、こそだ。見ず知らずな奴らが出回ってると、そこに居る巡査員にスパイとかなんやら、いちゃもん付けられて連行されたりするんだよ」
 
 串屋の店員は、向かいの数メートル先に立っている男の方に目を向けて言う。
 男は、緑を基調とした軍服を着込み、腰には日本刀の呼ばれる刀剣を携帯していた。
 
 「でもまぁ、さっきあんたらとまるっきり同じような服を着てた二人組みが通り過ぎた時、何も無かったし、あいつの役目はちょっと違うのかもな」
 
 串屋の店員は、串の準備が出来たようでシルティに駄賃を求める。 
 
 「金貨でいいですか?」
 「って!金貨かいな!?うちは金貨を出されてお釣りを出せれるほど裕福じゃ無いんだ」
 
 そう言ったきり、店員は打開策を求め思案に耽る。
 
 「いえ、お釣りは入りませんよ。その代わり、僕にも串を一つ」
 
 そこで、こんな案を出したのはセヴィスだ。
 
 「ってあんた誰よ?この客さんの連れか?」

  急に出てきたセヴィスを訝しむ店員に向かい、すかさずシルティはフォローを入れようとする。
 
 「連れと言いますか…旅の友です」
 「んぁ…まぁ、客さんの連れで合ってる見たいだし、まぁ、いいんだが…。女性の金に集るのは良く無いぞ、兄ちゃん」

  納得したのか店員はセヴィスの分まで串を作り始める。でも、最後の物言いといい、どうやら店員の中ではセヴィスは、シルティに貢がせるクズ男となったらしい。
 
 「あの、一ついいですか?」
 「あい?どうした?」
 
 そこで空気を変えるべく疑問に思っていたことを聞くことにするシルティ。それに、店員は焼きながらも大きな声で返事をした。
 
 「あの方が、ここに居る理由とは他に思い当たることはありませんか?」
 
 そう言いシルティは、再び軍服の巡査員の男に目を向けた。
 
 「まぁ、正直言っちゃ、ここも治安が良いわけじゃないんだぜ。見てりゃわかるように、不思議に思わんか?長年戦争を続けた国がこんなに豊かなわけないだろう?」
 「確かにそうだ。情報によると、この国は本土の数倍以上の面積まで軍事境界線を広げてると聞くから。それが本当なら食料面とか絶対的にネックになるはずなんだよ。だとう言うのに現状はこれだからおかしいと思う」
 
 そこで、セヴィスは日本について調べてきた事前情報を口にした。
 
 「そういうわけだ。そんなここが少なくともこうなっている理由…そこの裏道を通ればわかるはずだ」
 
 男は店のすぐ横を指差し少し寂しげな口調で言った。
 男が差した方向には確かに裏道があり、シルティが覗いてみると結構暗く感じる所だった。
 
 そうこうしている内に串が出来上がったのか、定員はセヴィスに焼きたてホヤホヤの串を手渡す。
 
 「まぁ、男女二人旅中の客人にオススメはしないわな。でもまぁ、そこは自由よ」
 「う~ん。よく考えてから決めるよ」
 
 店員の一言にセヴィスが返した言葉を最後にし、出店を後にする二人。
 
 どうやら、前方にいるルーシェたちからは結構離れてしまったが、まだ、目視は可能という距離だ。約三十メートル先と言ったところだろうか?
 
 「どうします?セヴィス」
 「そうだね…。二人を見守るか、裏道を行ってみるかだね」
 
 セヴィスの言った二つの内にどうするか…シルティは考え込む。
 
 正直、このまま監視して楽しむのもありだし、真面目に仕事をするのなら裏道を行くのもありだと思う。
 
 「はぁ~。もうそろそろ潮時じゃない?二人に仕事をさせてる手前、僕たちがやんないなのもね?」
 
 考え込むシルティに向かって、セヴィスは残念そうにため息を吐きながら言った。
 潮時かそうじゃないか、また、仕事に関して言われれば、シルティもまた同じ意見なわけで…
 
 「そうですね…二人の関係に進展も無さそうですし、仕事に戻りますか」

  身内のはずのレイファルにとってはなんとも言えない、そんな結論を即座に下しシルティはセヴィスの意見に同意する。
  そして、シルティは最後に名残惜しく、持ちつ持たれつの距離感で、踏み出そうとしても踏み出せないレイファルを最後に、裏道へと歩を進める。
 
 裏道の中はなかなかに暗く、光も射さないせいか土は湿っぽい。歩くたびに靴底に土がへばり付き、その状態で歩くのはなかなかに気が進まない。
 
  「これがこの国の…真実なのか…」

  セヴィスは少し寂しげに、そして少し怒気を孕んだ口調で、目の前の光景に絶望する。
 
 幅二メートルの裏道には、先ほどから糸の切れた人形のようにぐったりと動かない人の姿が見て取れる。
 それは、一人どころじゃない…。このわずか七、八メートルの道に六人といた。
 その六人の中に、一人だけまだ生きていた人がいたのであろう…。
 シルティは前方のまだ小さい子に駆け寄り手を差し伸べる。
 すると、シルティとその子の周辺には、青白く光る粒子が集まり、少しずつ快調へと進んでいく。
 これが、"神力"だ。神族だけにしか使えない力。対外的に作用する力は、再生と不変。
 それは、死人にも使えることだが、神族の決まりで使ってはいけないことになっている。

  「シルティ…ありがとう…」

  セヴィスは、シルティにそっと声をかける。

  「大丈夫です。この子は生きてましたから」

  そう言うとシルティは、一枚金貨を取り出し、救った子の片手に乗せる。
 その子は、先ほどとは違い、顔色にも余裕が見えていたがまだ眠ったままだった。

  「これは?」

  そこでセヴィスは、その子の首に掛かっていたペンダントに気づき、そっと手に添えた。
 
 「この紋章…確かここら南西の国の国章でしたような…」

  そこでシルティは見覚えがあったようで思い出すためにと考えて混む。
 
 「この国章なら知ってるよ。兎人種の国、フィリピン共和国のものだ」
 
 この国章について知っていたのはセヴィスも同じようだった。

  「確か…この国と二年前に開戦して、負けた国…ですよね?」
 「うん…そうだよ。でもまぁ、はぁ…、もうだいだい分かったよ」
 
 セヴィスは投げやりな口調でそう言うと目頭を抑える。
 
 「シルティ、もう戻ろっか?」
 
 そう言うとセヴィスは、串屋の方に歩みを進めようとするが…
 
 「いえ、もう少し進みましょう…。まだ助かる命があるかもしれません」

  セヴィスの提案を、シルティはキッパリと断り、前に、さらに暗闇の奥へと進んでいく。
 
 「シルティ…」
 
 セヴィスは苦しげに言うと、シルティを追いかける。
 さらに 七、八メートルの道を過ぎると、そこは少しばかり広い街道へとでる。
 そこは、先ほどの出店が並ぶ街道と違い、またしても両脇には人の姿が見て取れる。
 言うなればここは、スラム街といったところだろうか。
 
 「たった数メートルで、こうも風景がガラリと変わってしまうのか…」
 
 街の中にはどうやら生きている人も大勢いるようで、窓の中から無数の人々の視線も感じられる。が、やはり…それと同じように横たわる人の数も多くいる。

  「どうやら…私たちは歓迎されてないみたいです」
 
 シルティはそう言うと窓からの視線からそらすように俯いてしまう。

  この視線は、敵対視ではない。少なくともそう感じられた。ようは街の中へ入った者を外敵と捉えたもの以外の何らかのもの。
 これは、恐怖心だ。窓越しに、怯える人々の姿が目に浮かぶくらいに酷いものだった。こうなってしまうくらいに…人々は虐げられてきたと言うことだろう。

  「正直、もう見たくないな…」
 
 セヴィスはそう言うと、再び帰るように提案しようとするが…
 
 「大丈夫ですよ。きっと、倒れている人たちを助けて行けば…、ここに居る人達も仲間だって思ってくれるはずですから」

 それは、シルティの意見から遮られてしまう。
 きっと、セヴィス一人ではこの現実から目をそらし続けていただろう。でも、今は一人じゃない。
 シルティが、進む以上、セヴィスも同様に進まなければならないのだ。

 「僕はこのまま前に進んでも僕の力では、シルティと違って誰も助けられない」
 
 それでも少し、不安が残るもので…
 
 「確かに魔族であるセヴィスの力では、どうすることも出来ませんが、流石にこんな所に女性一人置いて行く気ですか?」
 
 シルティは苦笑混じりにそう言うと豪快にセヴィスの背中をバシッと叩く。
 
 「さぁ、まだ意識のある人を探してください」
 「はぁ…了解。」

  セヴィスはそれに、やれやれと従う。今はそれでいいと思ったからだ。
 そうと決まれば、早速意識のある人を探したいものだが…こうも視線が集まっている中、大きな声で安否確認などできないものだ。
 
 「どうすればいいんだろ?」
 そう思っていたのはシルティも同じようで、
 
 「一人ずつ、見ていきましょう」
  
 シルティはそう言うと、近くにいる人から呼びかけ始める。
 
 「ほら、セヴィス。早く手伝ってください」
 
 シルティに促され、セヴィスも近くにいる人から呼びかけ始めた。
 意外に意識がある人が多く、倒れていた人も、シルティのおかげでみるみる回復していく。
 辺りには、青く光る粒子…"神力"で溢れていき、その景色を始めてみる人々は次々と感嘆の声を上げた。
 
 「ねぇ、シルティ。これは流石に悪目立ちし過ぎたんじゃないかな?」
 
 セヴィスは、前後合わせて二十数メートルの長さで、ピンピンとした人が四十人前後とうい状況をみてそう思っていた。
 しかも、先ほどから人々の要望があれよこれよと増していくのだ。これは、さっきまでは部屋の中いた人たちからも来ている始末だ。
 そして、徐々に軽く人だかりもできてきて、もみくちゃにされる。
 ふと、不意にセヴィスは袖を引っ張られ、危うくバランスを崩しそうになる。
 
 「てっ…!?し、シルティ?」
 「えっ…!?セ、セヴィス?」
 
 どうやら、二人とも同じタイミングでなったようで、互いに正解を求めるように困惑していた。
 
 「おぃ!こっちだバカ!」
 
 不意に来たその声は、どうやら二人の間から発せられていて…そこには、いかにも奴隷という感じの服装なのだが、なぜか他の人たちとは違い、顔色からも好調が伺える黒髪の少年がいた。
 
 「お前ら、日本人じゃないだろ?少なくとも竜人種じゃないな?」
 
 そ言って少年は、二人の返答を待つでもなく、なら来い助けてやる、と付け足し、二人の袖を引っ張りながら勢いよく走ろうとして…転んだ…。
 
 「って!だからついて来いっつてんの!」
 
 少年は、顔に付着した泥を袖で拭い、恨みがましく二人を見つめる。
 
 「あぁ…、ごめんごめん」
 
 セヴィスは、軽く謝ってから…シルティと目で合図を送り…
 
 「んで?ついてくるの?来ないの?」
 「では、お言葉に甘えて付いて行くとするよ」
 
 ついて行くことにした。正直、この人だかの中、助けてくれるのならそれにあやかりたいものだ。それに、多少なりとも少年自身にも少し気になることがある。だからこその判断だ。
 
 「ふんっ!早くしろよな」

  少年はそう言うと、再び二人の袖を引っ張りながら勢いよく走しっていく。
 正直それは、少年にとっての走りでも、二人には駆け足くらいで…二人はそれに苦笑しながらもついて行った。
 
 名も知れぬ少年に引きつられ、走ること三分。日が傾き始めたことと、ここがあまり日の差す場所じゃないこともあり、先ほどより一層暗い所に三人の影はあった。
 
 「何処か目的地でもあるの?」
 
 そう口火を切ったのはシルティだ。横にいるセヴィスもまた、シルティ同様に思っているのであろう。セヴィスの問いに少しばかり反応をして見せた。
 
 「あぁ、そうだ。いや、てかもう着くって」
 
 少年はそう言って、ほら、と付け足してから、それなりにボロボロな大きめな木製の扉の前で足を止める。
 曲がり角を十近く、それなりに入り組んだスラム街の外れの奥の奥…そこには、建物こそ未だ顕在だが、壁の装飾や色までも、あちこちと剥がれ落ちた神聖とは程遠い建物、教会らしきものがあった。
 
 「ここは?」

  セヴィスは、目の前の建物に驚いているのか、あっけらかんとし、ようやく紡いだ言葉がそれだった。
 
 「俺たちの隠れ家だ。お前らも不思議に思ってたろ?俺の服装にはスラム街の連中とは違い、それなりに清潔感もあったろ?そう言うことだ!」
 
 少年は何処か誇らし気に言い放ち、教会の中へと入るよう、二人を促した。
 ボロボロな扉は、建てつけも悪くなっているのか、なかなか上手く開かないが、それでも地面との摩擦音を発しながら重々しく開いていく。
 
 教会の中は、四方の壁に張り巡らされたステンドグラスにより、少しの太陽の光でも乱反射により意外に明るく神聖さを醸し出していた。だが、一歩踏み出すと分かるように、相当に埃っぽく、靴跡が残ってしまうくらいだ。
 そして、床一面に複数の真新しい靴跡が残ってることからして、ここには複数の人がいることが伺えた。

  「こっちだ。来い」
 
 少年は、戸惑いを隠せない二人を無視し、ずかずかと足を踏み入れ、教会の右手奥の地下へと繋がる階段前にて二人に先を促した。
 
 地下への階段を降りると、燭台による光に照らされた廊下が現れ、その先の部屋へと案内された。
 
 「ただいま~」
 
 少年の気の抜けた声に驚きつつも、おずおずと中へ入るシルティたち。

  「おかえり!ゼストッ!」
 
 そう言い勢いよくかけてくる少女が、ゼストと言われた少年…に抱きつく寸前で、少女は二人を訝しみ寸でのところで停止した。
 
 いきなり見知らぬ旅人風情の男女が、生活空間へと入ってこられたら誰でもそうなってしまうだろう。

  その人たちはだれ?と、おそらくゼストに目で問い掛けているあたりだろうか、ちょうどゼストは、二人について紹介をしようとし…
 
 「あれ?お前ら誰だよ?」

  少年は、二人を静かに見据えたまま首を横に傾げて見せる。
 
 「ゼスト知らないの!?知らないのに連れてきたの!?」
 「いや、名前は知らないんだよ。でも、変な術使ってたしさ、少なくとも、俺らのような奴隷を助ける奴らだから、国の人間じゃないはずだ」
 
 ゼストはそう言いながら、シルティたちを見やり、自己紹介を促す。

 「私は、シルティ・アーチス。神族です。好きなものはセヴィス。嫌いなものはセヴィスです。よろしくね」
 「僕は、セヴィス・ディストール。魔族です。好きなものはシルティ。嫌いなものはシルティ。よろしく」

  一通りの自己紹介を済ませる二人。ゼストと少女の反応はそれぞれ違うもので…ゼストは驚いてるようで、さっきから口が開きっぱなしだ。少女の方はと…二人の関係にただなるものを感じたのから、頬を染め、二人を交互に見ていく。
 その反応を、シルティは楽しく感じ、新たにおふざけモード全開にセヴィスの方へと向き直った。
 
 「私たち、両想い…だったのね…」
 
 シルティは、頬を染めながら、上目遣いにセヴィスを見つめる。
 それに、ただならぬ関係を疑惑から確信に変えた少女が、セヴィスの反応を見守るようにして、目をキラキラさせながら見つめる。
 
 「好きも嫌いも僕なら、プラマイゼロで両想いというか、普通なのでは?」
 
 セヴィスは、二人に視線を向けられながらも、勤めて平然と答えてみせる。
 それは、シルティには、面白くないもので、少し拗ねたようにしてジト目を向けながら言う。
 
 「セヴィスには、乙女心というのが解ってないんですね」
 「心外だよ。確かに乙女心は理解できないけど、シルティの心は理解してるつもりだよ」
 「それってあれですか?私は乙女じゃないと言いたいのですか?」
 「ソウワ、オモッテ…ナイヨ?」
 
 シルティが異様に顔を近づけるものだから、セヴィスは少しおどけてみる。
 こういう時に乗ってくれないのは、セヴィスの悪い所だと、シルティは思う。
 そんな二人を蚊帳の外から見守っていたゼストは、盛大にため息を吐きながら言う。
 
 「はぁ~、まぁ、お前らの関係は別にどうでもいいんだよ。お前らの名前も覚えたしな。」

  先を促すゼストに、少女はブーイングをはく。年頃の女の子だ。こう言った話には目を引くものがあるのが当たり前か。
 
 「え~、もっと聞いていたいよ~」
 「ダメだ。ほら、もう行くぞ。みんな待ってるから」
 
 ゼストが「みんな」と口にした以上、ここには他にも人がいるのだろうか。
 ゼストは、そういいながら部屋の奥にある扉まで進んでいく。そして、それについていく少女。
 そして、二人の少年少女は、合わせたかのように息を吸い込み、シルティたち二人を見やる。
 『ようこそ!俺(私)たちのアジトへ!』


 二人の少年少女が勢いよく扉を開けると、眼前には今までとは別世界のように、生活感溢れる空間が広がる。と、言うか、ゼストと少女と同じくらいの歳の子が十数人といたら、生活感もなにもないだろう。
 
 縦に長いテーブルが三つ。テーブルには晩御飯なのか食事が並んでいて、子供たちは向かい合いながら食事を楽しいんでいる。
 今は午後の五時だ。晩御飯の時間的にも間違ってはいないはず。なのだが…
 
 「凄いな」「驚きました」
 セヴィスとシルティはそれぞれ、同じ様な感想を抱く。
 それも当たり前だ。ここは長年に渡り、争いを続けてきた国。それに、奴隷制度が成り立ち、その奴隷同然の身分の子供が、この様な裕福な暮らしをしている事が驚きなのだ。
  
 そんな二人を置いてけぼりに、やはり少年少女は先へ進んでいく。そして、中央のテーブルに腰掛ける、唯一の大人…二人の男女の元へと歩み寄る。
  どうやら、ゼストと少女と話し込んでいるようだが、この喧騒の中では聞き取れない。子供達は相も変わらず、食事を楽しんでいた。

  「すまないが、先ほどの部屋で少し話がしたい。ここじゃ、子供達が五月蝿くて話など進まなさそうだ」

  苦笑しながらそう言ったのは、先ほどのゼストと少女と共に何らかの話をしていた大人の男性だ。見るからに初老の男といった感じの男だ。
 先ほどの部屋とは…おそらく少女と出会った部屋だろう。
 
 「分かりました」

  セヴィスはそう短く返事をして、男の後を追っていく。 果たして、ゼストと少女の人を待たない主義はこの男から来ているのだろうか?

  セヴィスとシルティは、男と対面しながらソファーに腰を落とす。

  「さて、どうしたものか。何をすればいいんだ?…と、その前に自己紹介だな。君らの名前はゼストとチハヤから教えて貰ったからな。僕が自己紹介するだけでいいだろ?僕は、九重ミナトだ。よろしく」
 
 ミナトはそう言うと、軽く会釈する。チハヤと言う自分物は、おそらく先ほどの少女だろう。

  「「よろしくお願いします。九重さん」」

  セヴィスとシルティも同様に返すように軽く会釈する。

  「さて、君たちが人族でないことは、既に子供達から聞いてるよ。では、いったいどんな要件でこの国へと赴いた?君たちが旅人だとしても、だ。君たちは、奴隷を救ったんだ。それは、中立を崩さない魔族と神族にとっては、よろしくない事なのは当たり前だ。なのに、それを行った。いったいどんな理由からだ?」

  ミナトは目を窄め、射抜かんばかりに問いかける。
 
 「これは、種族全体での取り組みです。中立と言っても、全てを黙って見守る事はしません。まず、第一段階としての行動がこれです。旅人になりすまし、争いを続ける各国の情勢を見で見て確かめる。そのために私たちは今、ここに居るのです。」
 
 シルティは毅然とし、言い放つ。その内容は少しはがり弄ってあるが、あら方間違ってないので、セヴィスはそのまま、話を進める。
 
 「なるほど…。では、君たちはこの国の詳しい話を聞きたいという事だね?」
 
 ミナトは、シルティの話に納得したのか、二人に協力する姿勢を見せる。それは、セヴィスにとっても有難いものである事は変わらないし、強いては、ここいにる子供たちの事についても少しは知れるはずだと思う。もっとも、きっとそれはセヴィスだけじゃなく、シルティも気になっているはずだ。
 
「まず最初に、この国での奴隷への立ち位置について話そうか。この国では、奴隷は別に蔑まれるものじゃないんだ。ちゃんと、奴隷たちの地位も寝床もちゃんと用意されていた。賃金だって、国民と同じ位には頂いてたはずだ」

 ミナトは少し悲しそうに眉をひそめる。
 なるほどと、セヴィスは思う。それが確かなら、ここまで奴隷たちの立場を危うくする原因が奴隷側にあると言う事になるのだが…。
 
 「君らはここに来て不思議に思わなかったかい?この国の本来の様式は、木を使った建築様式にある。それが、この辺りでは、異国風の建物が多いじゃないか」
 
 ミナトはそう言うと、この教会自体を指差す。
 確か、この国では寺や神社といったこの国独自の文化の産物があり、それが、異国で言う教会に位置する。
 なれば、"日本人のためにこの教会が存在する"という訳にも行かなくなるだろう。では…"誰の為"に異国の文化を取り入れた?
 
 「何となく分かってきただろう?この国はどういう国か、が。僕も、娘のチハヤも、妻も日本人だ。それは、見ていれば分かっただろう?僕ら一家は、西の寺院の住職をやっていたが、国の要請でここで働いているんだよ」

  ミナトもチハヤも、黒髪黒眼だ。奴隷たちはそうで無いが、その外見の特徴は正しく、日本人であることを示していた。
 
 「もともと、港町から外れたここ一帯は、奴隷…いや、違うかな。出稼ぎに来る人たちのために作られたんだよ。今の奴隷たちがこうなる前は、皆彼らの事を移民と呼んでいたからね」
「では、本来なら奴隷…その移民の人たちをこの国は手厚く扱っていたと、言うことですか?」
 
  シルティは、確かめるように言う。
 
 「あぁそうだよ。でも、丁度一年前だ。彼らの中から、少しずつ、祖国の独立を唱える組織が現れたんだ。彼ら移民の人々は、元はと言えば、この国が侵略戦争により取り柄れた国の人々だからね。こうなるのも無理は無いんだろうけどね…。その組織は、各地に点在し、それぞれの地域でやりたい放題だ。それを見かねた日本人が恐怖心から、近くに居る移民を奴隷のように扱う。これがことの顛末だ」
 
 ミナトの話を終え、各々思うところがあるのか、しばし、沈黙が流れる。
 それを見かねたミナトが、やはり苦笑混じりに続ける。
 
 「でもまぁ、ここ蒲浦は特に酷い。ここには、超が付くほどの過激派組織"ヴァナム"が在るからね」
 「そうですか…ここが特に酷い状態…。ということは、ここよりもマシなのが在るということですか?」
 「あぁ。あるよ、沢山ある。少しは、楽になったかい?」

 先ほどの質問は、シルティだ。
 少なくとも、シルティは女性だ。それはセヴィスよりも繊細な面もあるだろう。セヴィスですら、その一言に少しは楽になった部分があった。だから、シルティも楽になったと、セヴィスは信じたい。
 
 「一ついいですか?この惨状について、この国は何かしらの対策はしていますか?」

  セヴィスはそこで、ふと疑問に思っていたことを問う。

  「いや、やってないよ。もちろん、そういった組織には取り締まりとかは、しているけどね。他の移民…奴隷については何も対処してないよ。あくまで、国の方針は以前として変わらない。でも、こうやっているのは国民だ。この国は民主制も少なからずあるからね…ほとんどの民が行ってしまっている以上、何も出来ないんだ。一世代前は、思想の自由すらも奪うような暴走政府があったけど、今暴走してるのは、国民だからな」
 「そうですか…。いえ、ありがとうございます」

  セヴィスは、望む答えが聞き出せなかったものの、礼儀は忘れない。

  「あぁ。さて、話せるのはこれくらいだな。正直、魔族と神族がどう動くかは知りたいところだな」

  ミナトは、今までの礼を返せと言わんばかりな口調。
 
 「すみませんが、それはまだ決まっていません。あくまで調査の段階ですので…」
 
 それに、シルティは申し訳なさそうに答える。
 
 「そうか、悪かったな。でもまぁ、人を創ってくれた両種族が動いてくれるのはありがたい。この国を…果ては世界を良い方に変えてくれよ」
 
 ミナトが願いを託すと、手を差し伸べる。
 これは、この国の挨拶の一つの握手というものだろう。セヴィスとシルティは、それぞれミナトと握手をし、席を立つ。
 すると、同時に皆が食事をしていた部屋に続くドアが開き、ゼストとチハヤが顔をだす。
 
 「なんだ?もう行くのかお前ら」
 「あぁ、もう行くよ。ゼストのおかげでいろいろ聞けたし、ありがとう」
 「あ?俺じゃねぇーけど、なんか役に立ったならそれでいいよ」
 
 ゼストは、少し照れたように言う。
 横では、シルティとチハヤがそれぞれ別れを告げていて…なぜか、恋の話に発展していく。何やってるんだが…。セヴィスはやれやれといった感じだ。
 
 「さて、行くよシルティ」
 「そうですね。じゃぁね、チハヤちゃん」

  セヴィスの促しに、シルティは応じ、チハヤに今度こそ別れを告げる。
 セヴィスとシルティは、ゼストとチハヤ、それにミナトが入り口まで見送ると言うが、上は何しろ誇りっぽいことを理由に丁寧に断りを入れ、部屋を後にする。
 最後の瞬間に、チハヤが「二人は付き合ってるんだね」と言っていたが…空耳にしておこうとセヴィスは思った。


 約束の二時間が間近に近付こうとしている現在、太陽の半分は既に海へと沈んでいる状態だった。
 セヴィスとシルティは今、ルーシェとレイファルと別れた街道にいた。
 
 「そうだ、シルティ。シルティにこれを送るよ」
 
 セヴィスは、今何かを思い出したようで、ポケットの底からピンクの花の形をしたヘアピンを取り出す。
 
 「これは、なんですか?」
 「桜の花を象ったヘアピンだよ。シルティが、串屋に行ったのを追いかけている最中に、出店の人に捕まっちゃってね…。買わされたんだ」
 
 セヴィスは、シレッとそんなことを言う。
 
 「そうですか…。私は、てっきり恋人の私へのプレゼントだと思っていたのですが、そんなどうしようもない理由でしたか」
 「うん、ごめん。プレゼントとどうしようも無いのは認めるけど、最初の方は違うよね?」

  セヴィスは、ジト目を向けるシルティを軽く流してシレッとまた答える。
 
 「やっぱり、乙女心が理解できて無いんですね…。かわいそうです。セヴィスが」
 「そこまで言われるのか…でも、シルティのことは理解しているつもりだよ」
 「その、セリフは二度目です。ですが、良いのですか?同じ魔族であるルーシェの分は買ってないのでしょう?」
  
 シルティは、半分呆れ口調でものを言う。
 
 「シルティの言う通りなんだけどね…。ルーシェの分は、多分レイファルが用意してくれるんじゃないかな?」

  セヴィスの言葉に、ルーシェは想像したのか、笑みを浮かべる。きっと、シルティのイタズラ好きな面が出てきたんだろうとセヴィスは思う。

  「それは正直見てみたいです。ところでセヴィス、このヘアピンを留めてくれませんか?」

   そこでシルティは、セヴィスから貰ったヘアピンをセヴィスに渡す。
 セヴィスはヘアピンなど、もちろん扱ったことなどないのだが、ぎこちないながろも、シルティの髪に手を伸ばす。
 ピンク色の桜の花に、シルティの短めの金髪は良く似合う。それは、正直セヴィスにとってもありがたい。

  「セヴィス、ありがとうございます」
 
  シルティは、沈む太陽を背に、セヴィスに微笑み掛けながら言う。

 そして、約束の二時間は過ぎて行った…。
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