身代わり奴隷、公爵令嬢の仮面を脱いだら大公に執着溺愛されました

Megumi

文字の大きさ
27 / 66

14.真実の姿(前編)

しおりを挟む

 朝の光が、カーテンの隙間から細く差し込む。
 ベッドサイドのテーブルには、気分が落ち着くようにとミシェルが淹れてくれた、温かなハーブティーが湯気を立てている。

 セリーヌは深く息を吸い、穏やかな空気を胸いっぱいに吸い込んでから、ゆっくりとカップを手に取った。
 問題はまだいくつか残っているが、まず最初に確認すべきことがある。

「ミシェル、昨日の寝間着……あの中に、何か紙が入っていなかったかしら」

 その言葉にミシェルは顔を上げ、思い出したように「あっ」と声を漏らした。
 そして急いで机の引き出しを開けると、乱雑に折り畳まれた一枚の羊皮紙を取り出す。

「これでしょうか? 昨夜、お召し替えの際に寝間着の中から出てきました」

 セリーヌは震える手でそれを受け取り、慎重に開いた。
 そこに記された文字を見た瞬間、全身の力が抜けていく。

(無事だった……!)

 レオンに見つかり、とっさに寝間着の中に隠した奴隷売渡証書。
 セリーヌが長年の呪縛から解放されるために、どうしても必要だったもの。

 いつの間にか気絶してしまったことで、どこかに落としたのではと恐れていたが、それは今、確かにセリーヌの手の中にある。

「……良かった。本当に……良かった」

 掠れた声で呟くと、セリーヌは羊皮紙を胸に抱きしめ、そっと目を閉じた。
 ミシェルは安堵の息をこぼしながらも、どこか切なげにその横顔を見つめていた。



 その頃、ロランは執務室に籠っていた。
 机の上には未決の書類が山のように積まれていたが、視線はどれにも向かない。
 脳裏にこびりついて離れないのは、昨夜の光景——青ざめたセリーヌの顔、軽すぎる身体、そして無数の傷跡。

 控えめなノックの音を聞き、ロランは現実に引き戻された。
 手元にあったペンを取り、書類仕事を再開しながら、短く「入れ」とだけ答える。

 現れたのは、セリーヌの専属侍女・ミシェルだった。
 ミシェルは深く頭を下げると、どこか緊張した声で報告を始めた。

「クロエ様の容態ですが……一つひとつの傷は深くありません。ですが、ドレスで隠れる場所に、無数の古い痣がありました。昨日今日のものではございません」

 ロランの手がピタリと止まる。
 握っていたペンの先から、黒いインクが紙に滲んでいく。

「……古い痣、だと?」
「はい。長い時間をかけてできたものかと……。医師による診察も、強く拒まれました。背中を、私以外の人間に見られたくないと」

 ロランは目を伏せ、拳を握りしめた。
 暴力を振るわれ続けた彼女にとって、それは当然の拒絶だ。
 心から信用している人間以外は、近寄らせたくもないのだろう。
 昨夜のレオンとトムの顔を思い出し、あの怒りが胸に再び燃え上がる。

「看病は……お前が続けろ。すべて、彼女の望む通りに」
「承知いたしました」

 ミシェルが頭を下げて退室すると、静寂が戻った。
 ロランは額を押さえ、深く息を吐く。
 目を閉じれば、気絶したセリーヌの死人のような姿が鮮明に甦ってくる。

(なぜ……見抜けなかった)

 度々公爵家に呼ばれていたのは、溺愛されていたからではなかった。
 自分の無関心が、あの痛ましい傷の一因になったのだと気付き、胸の奥に焼けるような後悔が広がった。

 ——もし、彼女を冷遇しなければ。
 ——もし、あの違和感を見過ごさなければ。

「……俺は、何を見ていたんだ」

 ロランは呟き、立ち上がると執事を呼び出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea
恋愛
婚期を逃し、没落寸前の貧乏男爵令嬢のアリスは、 ある日、父親から結婚相手を紹介される。 そのお相手は、この国の王女殿下の護衛騎士だったギルバート。 彼は最近、とある事情で王女の護衛騎士を辞めて実家の爵位を継いでいた。 そんな彼が何故、借金の肩代わりをしてまで私と結婚を……? と思ったら、 どうやら、彼は“お飾りの妻”を求めていたらしい。 (なるほど……そういう事だったのね) 彼の事情を理解した(つもり)のアリスは、その結婚を受け入れる事にした。 そうして始まった二人の“白い結婚”生活……これは思っていたよりうまくいっている? と、思ったものの、 何故かギルバートの元、主人でもあり、 彼の想い人である(はずの)王女殿下が妙な動きをし始めて……

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

処理中です...