身代わり奴隷、公爵令嬢の仮面を脱いだら大公に執着溺愛されました

Megumi

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19.仮面を脱いだ日(後編)

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 淡々とした声で、セリーヌは告げた。

「……私は、公爵令嬢ではありません。孤児院で育ち、8歳の時に奴隷商人に売られ、その後……虐待死した公女クロエ・フォークナーの“代用品”として買われた、奴隷なんです」

 セリーヌの言葉に、ロランの瞳が大きく見開かれた。
 人身売買が違法となって久しい現在、その告白はあまりにも非現実的だ。
 それでも、彼の理性は、すぐに彼女の話を否定することを拒んだ。

 思い当たる節が、あまりにも多すぎたのだ。

 公爵令嬢として、非の打ちどころのない所作。
 それとは裏腹に、彼女の振る舞いは、高位貴族としては明らかに異質だった。

 使用人に対して、敬意を持って接すること。
 孤児院への寄付を、わざわざ匿名で行っていたこと。
 そして何より——溺愛されているはずの公爵令嬢が、家の中で暴力に晒されていたという事実。

 それらを一つひとつ思い返した時、ロランの中で、バラバラだった点が一気に線で繋がった。
 これらすべてが、彼女の生い立ち故のものであると考えたら、恐ろしいほど自然に腑に落ちる。

「この証書を使えば、公爵を人身売買と詐欺の罪で告発できます」

 セリーヌはいったん言葉を切り、視線を伏せた。
 そしてほんの一瞬、迷いを滲ませるように瞬きをしてから、口を開いた。

「そうすれば……この結婚は無効になり、離婚という形をとる必要もなくなります」

 一呼吸おいてから、セリーヌは再び顔を上げる。
 その瞳には、もう一切の揺らぎはなかった。

「婚姻が無効になった奴隷ごとき、皇女殿下がわざわざ殺しにくる理由もないでしょう」

 それはまるで、自分には関係のない、他人の物語を読み上げているかのように、あまりにも淡々とした口調だった。

「——何を、言ってるんだ!」

 それまで言葉を失っていたロランが、血の気の引いた顔で叫んだ。

「そんなことをすれば……貴女は……! 平民が貴族を欺いたと知られれば……死罪に……」

 言いながら、ロランは理解してしまっていた。
 彼女の提案が、どれほどの覚悟を持って行われたものなのかを。
 自分に向けられるセリーヌの迷いのない強い眼差しが、それを肯定しているように見えた。

「承知の上です」

 セリーヌは、そう言って静かに微笑んだ。
 そのあまりに静謐な声に、ロランは言葉を飲み込んでしまった。

「貴方を騙した罪は……命をもって償います」

 すべてが明るみになることに、恐怖がないわけではない。
 死が怖くないわけでもない。

 それでも——

(この人は……すべての不利益を被ってまで、私を守ろうとしてくれた)

 その事実が、胸の奥で確かな熱を灯していた。

 すべてを失う未来への恐れよりも、自分の意思で未来を選べる喜びの方が、ずっと大きい。

(貴方が苦しまなくて済むのなら、そばにいられなくたって構わない……この気持ちは、恋じゃない)

 セリーヌは今、はっきりと理解した。

 ——これは、愛だと。
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