身代わり奴隷、公爵令嬢の仮面を脱いだら大公に執着溺愛されました

Megumi

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20.新たな始まり(後編)

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 執務室に戻ったロランは、机に両肘をつくと深く息を吐いた。
 机の上に置かれた証書が、重い存在感をはなっている。

「……セリーヌ、か」

 彼女の本当の名を、誰もいない部屋で呟く。
 セリーヌを守るためには、別の道を探さなければならない。
 自分が巻き込んでしまった彼女を、殺さずに済む方法を。

 無意識に、袖口へと視線が落ちた。
 そこには、彼女から贈られたカフリンクスが、淡く光を反射している。
 それが、まるで彼女自身のように思えて、ロランは無意識のうちに指先でそっとなぞった。

 すると、執務室の扉が、軽くノックされた。

「……入れ」

 そう返すよりも早く、扉が開く。

「俺もそんなに暇じゃないんだけどな」

 軽口と共に姿を現したのは、エリックだった。
 相変わらず余裕のある笑みを浮かべているが、その視線が一瞬ロランの袖口を捉える。

「それで? ついに腹をくくったのか」
「……ああ。予定変更だ」

 エリックは一瞬、意外そうに目を見開き、それから何かを悟ったように小さく息を吐いた。

「例の件、あの場で触れて欲しい」
「……ラリサは荒れるだろうな」

 からかうような声色とは裏腹に、エリックの眼差しは真剣だった。
 ロランの覚悟が伝わったことが、その視線だけで十分に伝わってくる。

「すまない。お前まで巻き込んでしまって……」
「水臭いこと言うなよ。何年の付き合いだと思ってるんだ?」

 エリックの言葉が社交辞令ではないと分かっているからこそ、ロランは肩の力を抜いた。

「分かった。誰もが聞きたくて、聞けなかったことを——俺が聞けばいいんだな」

 ロランは視線を上げ、わずかに頷く。

「頼む」
「はいはい。他ならぬクロエ嬢と添い遂げるためだもんな」

 その言葉を、ロランは否定することができなかった。



 数日後。
 華やかなパーティーに、ロランは相変わらず一人で出席していた。
 その隣には、いつも通りラリサが当然のように寄り添っている。

 そこへ、人格者の仮面を被ったエリックが、どこか意味ありげな笑みを浮かべて声をかけてきた。

「相変わらず一人なのか。いい加減、夫人を同伴させてはどうだ?」
 誰もが内心で気にしていながら、誰も口にできなかった問いを、エリックはあまりにもさらりと投げかけた。
 周囲の貴族たちは、その興味深い話題に、さりげなく耳をそばだてた。

 そんな周囲の反応に気付きつつも、ロランは涼しい顔でグラスを傾ける。

「自分から求婚するほど好いた相手じゃないか」
「可愛い妻を独り占めしたいと思うのは、当然のことだろう」

 さらりと告げられた言葉に、エリックは思わず吹き出しそうになるのを必死で堪える。
 ロランの口から“可愛い妻”という言葉が出る違和感に、肩が震えた。
 そんなエリックをじろりと睨むと、ロランは苛立ちを滲ませて言った。

「外に出した途端、お前みたいな男と、根の葉もない噂を立てられるしな」
「そんなに怒るなよ。確かに、いくら親友の妻とはいえ、気軽に話しかけた俺が軽率だったよ」

 エリックが笑いを堪える影で、ラリサは扇子で口元を隠しながらも、憤怒に塗れた形相を浮かべていた。

 ——しかし、周囲の視線はロランとエリックに集中しており、そのことに気付くものは、誰もいない。
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