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24.露見した真実(後編)
しおりを挟むラリサは激しく苛立っていた。
調査は進展なし。
いまだにセリーヌの過去も、弱点も、何一つ掴めない。
入ってくる報告といえば——
「……ドレスを一度に数十着? 宝石職人まで集めた?」
報告を聞いた瞬間、ラリサの手から紅茶のカップが滑り落ちた。
こぼれた紅茶がドレスを汚してしまったことを気にする余裕もなく、呆然と呟く。
「それに……人払いした温室でキスしてたですって……?」
これ以上近づかれれば、本当に奪われる。
本当にロランは、自分の元へ戻らなくなる。
その恐怖が、ラリサを突き動かした。
「……ちょっと出かけてくるわね」
◇◇◇
「ごきげんよう。少しよろしいかしら?」
かつてと同じ、有無を言わせぬ声音。
通される許可も待たず、慌てる執事を無視したラリサは、優雅に公爵邸の応接室へ足を踏み入れた。
「こ、皇女殿下……護衛も連れずに一体……?」
トムは、ラリサの突然の来訪に動揺を隠しきれなかった。
(まさか……あの女、奴隷売買の件を皇族に!?)
後ろめたさからしどろもどろになるトムに、ラリサはにこやかな微笑みを向けた。
「ぜひ、もっとクロエと仲良くなりたいと思いまして」
扇子を口元に添え、柔らかく首を傾げた。
「とっておきの贈り物を考えているの。サプライズで選びたいから、ご家族しか知らないようなことを、少し教えていただける?
「え……?」
戸惑うトムを無視して、ラリサは捲し立てた。
「クロエの趣味とか、好きなもの。幼い頃はどこで遊んでいたとか、些細なことでもいいから、彼女のことならなんでも知りたいわ」
それらは、子どもの親であれば苦もなく答えられるような質問だ。
だがトムは言葉につまり、額には冷や汗が浮かんでくる。
「そ、そうですね。あの子はとにかく新しいドレスや宝石に目がなくて、私も散々買わされましたよ。ははは……」
トムの言葉に、ラリサの手の中の扇子がみしりと悲鳴を上げた。
この男に対するおねだりが、そのままロランに向けられているのだと考えると、虫唾が走る。
しかし、知りたいのはそんな表面的な情報ではない。
もっとクロエという人間の内面に踏み込んだものだ。
「クロエはいつも最新のドレスを着ていたものね。では逆に、苦手なものは何かしら? 嫌われたくないから、事前に知っておきたいわ」
「そ、それは……虫、ですかね」
なんとか答えを絞り出したが、それ以上は言葉が続かなかった。
セリーヌどころか、実の娘であるクロエのことですら、まともに見ようともしなかったのだ。
そんなトムが、もっともらしいエピソードなどを語れるわけもなかった。
ラリサはトムの答えに、片眉を上げた。
(……あら?)
溺愛している娘の話だ。どうでもいいことを、長々と話されるであろうことは覚悟していた。
しかし実際には、トムはぼんやりとしたことを最低限語るだけで、具体的なクロエの人物像が見えてこない。
ラリサは、トムの態度に見覚えがあった。
自分の父親と同じなのだ。
娘への無関心ゆえに、好きなものを尋ねられても答えられず、しどろもどろになって取り繕おうとする。
トムの隠された一面を見抜き、ラリサの瞳が獲物を狙うヘビのように光った。
「……クロエと仲良くなりたいと思っていたけど、こうしてお話ししているうちに——貴方の方に興味が湧いてきましたわ」
微笑みは依然柔らかいままなのに、空気だけがなぜか冷たく感じる。
ラリサの底知れぬ恐ろしさに、トムの喉が鳴った。
「何か、人には言えない事情があるのでしょう? 何か困っていることがあるのなら、教えてちょうだい」
その一言に、トムの心臓が跳ねた。
みすみす致命的な書類を盗まれたこと。
長男が奴隷に心を奪われていること。
そして——大公家の不自然なほどの沈黙。
致命的な場面を見られてしまったにも関わらず、沈黙を貫くロランがかえって不気味で、トムの神経を限界まですり減らしていた。
自分の甘言にトムの心が傾いたことを確信し、ラリサは囁く。
「私が力になるわ。皇女の私にできないことなど、ありませんもの」
優雅に扇子を広げ、口元を隠したラリサは、意味深にトムの瞳を覗き込む。
「そう。私は何をしたって許されるのよ。——たとえ、大公夫人を殺したとしても」
扇子で隠しきれないほど、悪意に満ちた笑み。
その笑みを見た瞬間、トムの理性は完全に崩れた。
「ほ、本当に……あの女を殺していただけますか……?」
「ええ、もちろんよ」
まるで神を見たかのようなトムの反応に、ラリサは満足げな笑みを浮かべて肯定した。
すると、トムは途端に吐き出すように叫んだ。
「あの女は……私の娘ではない! 本物のクロエは、幼い頃に死んだ!! ……あれは、買ってきただけの、ただの奴隷なんです……」
「……奴隷?」
ラリサは理解できないと言ったように聞き返すと、瞬きを忘れたようにトムを見つめた。
そして、次の瞬間——
「ふふ……ふ、あははははは!!」
狂気じみた笑い声が、応接室に響き渡った。
「最高だわ! 傑作よ!! 市井の家畜風情が――大公夫人のふりをしていたなんて!」
ラリサはそう叫ぶと、腹を抱えて笑いながら、涙を浮かべた。
歪んだ瞳が、歓喜に染まっている。
身体の奥底から湧き上がる愉悦を噛み締め、勝利を確信する。
「ついに……ついに見つけたわ」
女神の仮面は、完全に砕け散っていた。
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