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16.珈琲タイム
しおりを挟む「どこから話せばよいやら」
「できれば最初からお願いしたい」
この世界で嬉しいのは珈琲が飲めるという事である。湯気が立つ大きめのカップに口をつけながらほっこりしたいのに対面に座る彼の視線が突き刺さる。
暫く会わないうちに益々荒々しい雰囲気になったわねぇ。それとも、仕事中の彼は本来このような感じなのかしら?
「これ、よかったらどうぞ」
そんな彼に今朝焼いたクッキーを勧めながら自分も味見がてら食べる。うん、魔法石とやらで稼働するオーブンは不安だったけれど。
「低温で焼くと時間はかかるけれどサクッとして上手くできたわ」
甘さを控えめにした代わりに檸檬のような果実の蜂蜜漬けがあったので、試しにと練り込んでみたが成功だった。珈琲に合うわと2枚目に手を出しかけハタと気がつく。
「えっと、ごめんなさいね。ほら、中身はおばさんだし人とゆっくり話すのも久しぶりでねぇ」
「──すみません。気が立っていた」
今の言葉で何が刺さったのか、緊張感 が緩んだようで彼もカップに口をつけはじめた。
とりあえずよかった。言い合いみたいな会話はしたくないもの。
「謝ることなんてなにもないわ。さて、最初からというと」
「まず、貴方が最初に訪れた国はイーゼルではなかった」
あら、そんな前から話すの? 真面目な様子に思い出すかと百合の中では古い記憶となったものを辿る。
「そうだったわ。最初はゼイル国に入国したわ。あぁ、最後にイーゼルにもちゃんと行きましたよ」
嘘は言っていないわよと彼を見やればなにやら思案顔。いえ仮面でわからないけど雰囲気がね。
「そもそも、本当に視野を広げる為だけに他国を回ったのですか? 以前にお伝えしたように治安が悪く情勢も不安定な国もあった。実際、苦労されたりもあったのでは?」
なかなか鋭い。
「まぁ、良い経験をさせてもらったと言っておこうかしら。それと多くの国々を周ったのは、遊び半分、お使い半分かしらね。その延長で殿下ともやり取りはしましたよ」
「怪我はしてないのですか? 体調は?」
副団長さんの仕事は騎士よね? 護衛したり有事の際に戦ったり。
「私は子供ではないし、大丈夫ですよ」
「大丈夫ではないから確認をしているのです」
ピシャリと言い返された。
「体調も問題ないし、そんなに嫌な目にも遭ってないわよ」
「そんなにとは?やはり」
こんなに世話好きな人だとは思わなかったわ。こうなったら話を一度切り替えましょう。
「今度は私の番。私は、この場所を本来の森に近づける為にいるのだけど。貴方は、何故ここに?」
とたんに機嫌が急降下したわ。あら、感情の起伏が分かりづらかったお城の時と違う?
「命令です」
「どんな?」
私には根掘り葉掘りで自分になると口数が少ないのはなしよね。ここは引きませんよ。なにより急に人が現れて驚いたんですから。
「…最初は団長に休暇をとれと言われ、それが殿下の仕業だったのですが、肝心の殿下は国外の為、内容によっては連絡もとれなくはないですが、難しく」
要は。
「命令されて来たのね。休暇にしては場所も強制されているようだし、納得はいかないわよねぇ」
「はい。討伐と指示は受けましたが、部下は連れず私だけですし違和感があったのですが」
部下といえば、気になるわ。
「あの、皆さんは元気かしら? クラリス君やルビーさん、ビオラさん。食事を作ってくださった方にえっと、どうして笑うの?」
指を折りながらあの人も、あっあの子もと聞きたいのに、目の前の副団長さんは、笑っている。
「ふっ、すみません。そんな焦らなくても皆、変わらず城で任務についてますよ」
「そう? ならよいけど」
なんか雛鳥を見守る親鳥みたいな視線、変じゃないかしら?
「一緒に城に戻られますか? クラリス達も貴方がこの国に戻っていると知ればとても喜びますよ」
はにかむ笑顔が可愛いクラリス君、しっかり者な真っ直ぐな性格のルビーさん、優しい穏やかなビオラさん。
会いたいにきまっている。
「でも、まだ暫くいないといけないのよ」
「それは誰からの指示ですか?」
「うーん、女神様と殿下から。それに私も気になるし。ほら、森っていったらもっと清々しさというかマイナスイオンを感じたいじゃない?」
あら、不思議そうに首を傾げている。
「そのマイナスイオンは分かりませんが、どうしても動けないのですか? この森は、魔獣も出るし、空気も毒を含んでいるのはご存知ですか?」
えっ、空気が毒?!
「吸いまくってるわよ! すこぶる元気だけど副団長さんは大丈夫?!」
思わず身を乗り出せば、何故か凄い速さで仰け反られた。あっ、ブスな私のアップに耐えられなかったのかしら?
「インパクトある顔が前に来てびっくりさせたかしら!つい身体に害があると聞いたから。貴方も影響はあるのでしょう?」
命令とはいえ酷いわね!ヘイゼル殿下にはお説教しなければ。
「殿下から頂いたコレで防げていますから大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
「でも、顔が赤いわよ?」
顔の下半分と耳が赤いように見え思わず手をおでこに触れてみたけど、そうでした。
「あ、ごめんなさい。急に触って。熱があるのかと思って」
仮面を被る人達は、きっと触られるのに抵抗がある人が多い。私は、学習が足りないわね。
「ユリ様は、あとどれくらいの期間、この場にいなければならないのですか?」
いきなり何かしらと疑問を持ちつつ日数を数える。
「最低でも40日くらいかしら。でも、一度食料を買いに行かないと」
そうなのよ。一番の悩みは食料よ。
「提案があるのですが」
かなりの間があいた後、やっと彼が口にした内容は、私にとって嬉しい事ばかりだった。
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