〜恋愛短編集〜

波間柏

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1.仕事帰りの図書館で

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「あっ」

 つい声にでてしまい慌てて周りをみわたした。

よし、誰もいなかった。

 近くに人がいなくてほっとした。すぐ声にでるなんて、年かな?いや、まだ会社では若い部類なハズ。バスの時間もあるし、急がなきゃ。私は、焦り気味に本棚を物色し始めた。

 私は、毎週金曜日の仕事が早く終わった日に最寄り駅近くの図書館で本を借りるのが日課になっている。

 本を読むのが好きだけど、文庫本になるまで待てず、かといって高い単行本を何冊も買うゆとりはない。

中古でも新しい本は高いのだ。

 そこで子供の時に利用して以来寄りつかなかった図書館へ足を踏み入れた。

 何年か前に建て直しがされた館内はとても綺麗で居心地がよく、やはり他の人もそう思うのか、大きな窓に面しているテーブルは、学生さんでいつも満席だ。

おっこれもいいかも。

 目当てのを本棚からひっぱり、パラパラめくる。

そこには、またあった。

 さっき思わず声が出てしまった原因だ。この図書館では、借りる時に返却期限が記載されたレシートと同じ様な紙を受けとる。最近私が借りようとする本に、それが挟まっている。


ウオズミ ナオト


 多分男性なんだろうけど。図書館の人も気がつかないのかなぁ?それにしても、遭遇率が高すぎる。このウオズミさんとは、よっぽど好みが似ているようだ。


 私は、基本なんでも読む。ジャンルが違っても共通している事といえば、展開が早く終わりがスッキリ、モヤモヤしないかな。この人もそうなんだろうなぁ。

 ふと壁に掛かっている時計に目がいく。

不味い!!

 あと8分で駅にバスが来る。それを逃すと次は30分後だ。他のバスもあるけど、坂の下迄でしか行かず、家近く、坂の上迄行くバスはこの30分に1本のだけだ。

 私は、一瞬にしてその紙の事は忘れ早足でカウンターへ向かった。

次の週の金曜日。

 いつもより仕事が長引き閉館20分前に図書館へ着いた。とりあえず先にカウンターで返却し、いつもの棚に行く。時間ないし、今日はもう無理かな。急いで借りてもどうせ失敗するのだ。あ~でも、1冊くらい借りたい。

「これ、オススメですよ」

 突如、背後から伸びてきたスーツの男性であろう腕が私の頭上の棚から1冊を引き抜く。

 ビクビクしながら振り向くと背の高いスーツ姿のちょっとイケメンの男性が。

「よかったら読んでみて、花咲はなさきさん」

……何故私の名字を?

 驚きが顔に出ていたのか、その若い男性は、クスリと笑った。

「あなたの事はなんでも知っている。と、いうのは嘘」

 パラパラとその本をめくり、中から紙を出し私に見せた。

それは、返却の紙。

「ウオズミじゃ分からないか。中学までは、サガラだった」

サガラ…。

もしかして。

「相良 直人」

つい指を指してしまった。

「ぴんぽーん。正解~ってゆ~か気づくのが遅い」
「いや、だって別人だよ?!」

こんなイケメンだったっけ?

「早帰りの日に花咲さん見かけてさ~」

ハイッと、本を渡され思わず受けとる。

「偶然かな、本の好みが俺と同じだし、ついイタズラで最近いれてみた」

紙をピラピラ見せる。

その時。

~♪


閉館の音楽が鳴り始めた。

「それ、借りちゃえば?」
「あっ」

言われて手渡された本を見る。

「で、借りたら駅んとこで珈琲でも付き合って。話、しようよ」

 そう言うと彼は、私の背中をグイグイ押してカウンターに連れていかれた。いたずらそうに笑う彼は、確かに昔の面影があった。

 そしてこの後、私は30分どころか、もっとバスに乗るのを遅らせるはめになる。

でも、こんな日も、こんな再会も悪くないかも。

 この時は、まさか自分がウェディングドレスを着て彼の隣に立つ事になるなんて思ってもいなかった。


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