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4.何も考えてませんよ?
しおりを挟む私が、アルフォンという国のせいで異世界に来て二日目の夜。
「悪くないが、そちに利があるのか? 聞けば同郷の者のようだが」
陛下に話がいくのが早いという事は下々との距離が近いんだな。まぁ、この王様との最初の印象は悪くはなかった。
「ただ、私が勝てばの話ですから。国を賭ける価値が私にあるのかの判断はお任せします」
負けたら国が無くなり私も処刑街道まっしぐらだろう。
「片方の国の情報だけでの判断はなんとも言えませんが、個人的にはアルフォンで良かったと思います」
しょっぱなから人殺しをさせられたのは許せないけどね。
「……異世界人を喚ぶのは容易ではない。膨大な魔力を持つ素質のある者だけだ」
「そうですか」
命と引き換えにって、ありそうだよね。
金の目が、私をじっと見つめてきた。まだ三十代くらいだろうに、いやに貫禄があるなぁ。
「犠牲になったのは、私の死んだ姉の娘であり、グレードの伴侶だった」
グレード、あのインテリか!
「彼に八つ当たりのように接してこられても迷惑ですね。私は、この世界や国にも全く関係ない人間なのに」
私が、一番の被害者だよ。
「あぁ、分かっている」
目の前の国のトップは、ほんの一瞬、目を伏せた。再び開かれた瞳からは、苦悩するような感情は完全に消えていた。
「ガルレインに伝えよう」
どうやら、私の一対一の対決の希望は叶えられそうだ。
まぁ、向こうが何と言ってくるかは、まだ分からないけれど。
✻~✻~✻
「熱心ですね」
城内の隅にある目立たずかつ、足場がしっかりしている場所をマイン君に教えてもらい、早朝は、ストレッチからの真剣で素振りをするのが日課になりそうだ。
「何か御用ですか?」
清々しい朝だというのに迷惑な来訪者で、私の眉間には皺が寄る。
「用事がなければ、来てはいけませんか?」
インテリメガネの言葉としてはおかしくない?
「まぁ、話す事があって訪れたのですが」
いや、あるんじゃん!なんなんこの人?冗談とか言うの?
「明日、いや、今日はこれから雨だっけ?」
「今日も明日もこの晴れと星読から聞いています」
うん、ごめん。本当は、天気なんてどうでもいいわ。
「ナツ様」
彼が前に進み出てきたので仕方なく剣を鞘に戻しながら、貴方、邪魔なのよねと態度で理解してもらえるよう大袈裟にため息をつきインテリに顔を向けた。
「それで要件は?」
紫の瞳に銀髪って見慣れないな。まぁ、顔をというか表情をもう少しなんとかすれば、なかなかのイケメンなのに。
平凡の私が言うのもなんだけど。
「三日後に決まりました」
「分かりました」
続く言葉を聞かなくてもわかる。
「貴方は、我々を恨んでいますか?」
「逆に恨まない奴なんている?」
大学生活もそれなりに慣れて高校なんかより、距離感も好きにできる環境は楽で満足していた。
「私は、特に不満のある生活をしていなかったのに、いきなり飛ばされて生きるか死ぬかの選択をしなくてはいけなかった」
愛妻家だったという話を護衛と侍女さんから聞いたけどさ。
「八つ当たりはやめて欲しいな」
私が、貴方の奥さんの命を奪ったわけではないのに、ドス黒いモノを一方的に向けられても、それは間違っているから。
「──要件はそれだけです」
ポニーテールにした銀髪をなびかせ、彼はくるりと背を向け何も言わず去っていった。
「やり過ぎたかな?」
罪悪感はないけど。
「まぁ、ナツ様の言葉って真っ直ぐですから刺さりはしたと思いますよ」
気配を消していたマイン君に尋ねれば、苦笑しながらの言葉が返ってきた。
「あの方にこんなにズケズケと言えるのは数名ですから」
「ふーん」
なら、いっか。
「で、聞いていたでしょ?剣に慣れておきたいから、相手をしてくれない?」
「またですか?」
なんで嫌そうなのよ。
「突っ立ってるより楽しいでしょ?」
臨機応変に動くマイン君は、なかなか良い練習相手なのよね。
「国の、しいては私の命がかかっているんですけど?」
案の定、いやいやながら私の正面に移動してきた彼に、私は腰を落とし柄に手をかけた。
後三日で、もしかしたら、私の知る彼に会える。
無様な姿は見せたくない。
「行くよ!」
私は、地面を蹴って剣を抜いた。
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