気がつけば異世界

蝋梅

文字の大きさ
82 / 124

82.風の国〜ダッカーとリース〜

しおりを挟む
 同日、風の国ヴァーリアにて。

バキンッ

「おやおや」

 リースが手を止め音のした方向に目を向けた時、ドアが勢いよく開かれた。

「おい!今、そっちに何か飛んだぞ!」

 いきなり扉を開け挨拶もなく私の部屋に入室してくる者は陛下とこの男、ダッガーしかいない。

「自己愛が強い殿下が珍しいですね。まさか私の心配をして下さるとは」

 途端に彼は王族らしかなる態度でテーブルに足を乗せ雑に座った。

 泥がテーブルに落ち、小さな苛立ちがうまれる。この方は幼少期から剣の腕以外は何も成長していないようだ。

「あ? お勉強のし過ぎでとうとう頭の中もおかしくなったのか?」
「泥は落とし、足は乗せない。一番は壊さないで下さい。貴方が昔から力加減というものを学ばないお陰で国庫に影響がでているのですよ」

 耳の中に指を入れるダッガーの姿にリースは手の中にとある姿を作り出す。

「お前っ! こんくらいで本気で怒る奴があるか! 早くソレを消せ!」

 殿下の目の前にいますよ。私は気に入っている物を汚されるのがとても不快なんです。

「ならば、その泥のついた足を下ろして机を拭いて下さい」
「何で俺が掃除しなくちゃなんねーんだよ!」

──このクソ殿下。

「わ、わかった! わからったからソレ消せ!」

 少しスッキリしたので、今回は許してあげましょう。私は手のひらにあるウネウネと動く生き物を消した。

「そんくらいで怒るなよ。心配してきてやったのにひでぇな」
「ご自分が悪いのです」

 自業自得だと思いながらダッガーの背後にある硝子を嵌めた特殊な棚に近づき中を覗く。恐らくは。

「やはり消えてます」
「何を盗られた? あ、その布で拭いていいか?」
「メイルの種です。それは、私の手拭きなので駄目です」

 目を離すとこの男は何をしでかすか本当に分からない。有事の際との差がありすぎるのが残念ですね。

「どうやら水の青年にかけたモノも壊されました」
「へぇ…で、やったのはどいつだ?」

 ダッガーの目付きが声色と共に変化した。あぁ。一瞬にして変わるこの男が面白くて仕方がない。

「彼女みたいですよ」
「……ほう。実に愉快だ」

 とたんに気味の悪い顔つきになりましたよ。

 幼い頃からの付き合いなだけに何を考えているか手に取るように理解できますが、眺めたい顔ではない。

「そういやぁ、体はもう平気か?」
「万全とは言い難いですが、私が侮っていたのが反省点ですね」

 彼の精神を飛ばし、意識だけでは意味がないので体も実際その場にあるようにする。実践はかなり成果がでたが、予想外な事があった。

「ラジウス、あの男が想定以上に魔力持ちだったのが驚きでした。これでも防いだんですよ」

 だが、完全ではなかった。これくらいの攻撃だろうと見積もりが甘かった。結果、右腕右足の痺れが未だにとれない。

「あの男よりユラが気になる。気の強い女も悪くない。だがなぁ、ガキは興味がもてねぇ」

この馬鹿は。

「そういえばあの時、私と貴方は繋がっていたお陰で非常に恥ずかしい思いをしました」

 聖域に侵入した際、私とダッカーは、まさに二人で一人。こんこんと説明したはずなのに。

「あー、あれか。いいだろユラの口」
「女性に無理強いはいけないと何回注意したことか!」
「相変わらずかってーなぁ」

 私は、また見るに耐えられない顔になったダッガーから目を逸らし仕事の続きを始める。

 ペンが紙を削る音とダッガーが勝手に出した私の焼き菓子を咀嚼する音が混じり合うなか。

「なぁ」
「はい」
「今夜、もう一度、聖域のやつを頼みたい」

 一度止めて滲んでしまった箇所を離し再開する。仕事は山積みなんですよ。

「短時間なら可能です」

 帰らない彼にしびれを切らした私は、顔も上げず返答した。

「なら、飲みにいこうぜ。そうだなぁ、薄い布越しに俺達が確実に来ていると分かる店で」
「今夜は雨ですよ」

 なかなか手に入らない店の菓子を口に詰め込んでいるであろう彼は、言った。

「丁度いい。汚れきった血の雨も綺麗にしてくれるだろう」
「…私は、まだ表に出ませんよ?」

 椅子の軋む音に顔を上げれば、菓子の欠片を立ちながら払う彼は笑った。

「ああ。今はな」


──この夜、風の国ヴァーリアの王とその臣下達の命が消えた。


 同時間、疑いのあるダッガーは、リースと酒場にいたと多くの者達の変えようのない証言があった。



~追記~

 ダッカーの弱点は、国のシンボルマークでもある蛇である。幼少期に服の中に小さな蛇を大量に兄に入れられた時から未だ克服できていない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。 いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。 しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。 だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。 不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。 差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、 彼女は“自分のための人生”を選び初める。 これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子

冬野月子
恋愛
突然日本から異世界に召喚されたリリヤ。 けれど実は、リリヤはこの世界で生まれた侯爵令嬢で、呪いをかけられ異世界(日本)へ飛ばされていたのだ。 魔力量も多く家柄の良いリリヤは王太子ラウリの婚約者候補となる。 「完璧王子」と呼ばれていたが、リリヤと同じく呪いのせいで魔力と片目の視力を失っていたラウリ。 彼との出会いの印象はあまり良いものではなかった。

処理中です...