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82.風の国〜ダッカーとリース〜
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同日、風の国ヴァーリアにて。
バキンッ
「おやおや」
リースが手を止め音のした方向に目を向けた時、ドアが勢いよく開かれた。
「おい!今、そっちに何か飛んだぞ!」
いきなり扉を開け挨拶もなく私の部屋に入室してくる者は陛下とこの男、ダッガーしかいない。
「自己愛が強い殿下が珍しいですね。まさか私の心配をして下さるとは」
途端に彼は王族らしかなる態度でテーブルに足を乗せ雑に座った。
泥がテーブルに落ち、小さな苛立ちがうまれる。この方は幼少期から剣の腕以外は何も成長していないようだ。
「あ? お勉強のし過ぎでとうとう頭の中もおかしくなったのか?」
「泥は落とし、足は乗せない。一番は壊さないで下さい。貴方が昔から力加減というものを学ばないお陰で国庫に影響がでているのですよ」
耳の中に指を入れるダッガーの姿にリースは手の中にとある姿を作り出す。
「お前っ! こんくらいで本気で怒る奴があるか! 早くソレを消せ!」
殿下の目の前にいますよ。私は気に入っている物を汚されるのがとても不快なんです。
「ならば、その泥のついた足を下ろして机を拭いて下さい」
「何で俺が掃除しなくちゃなんねーんだよ!」
──このクソ殿下。
「わ、わかった! わからったからソレ消せ!」
少しスッキリしたので、今回は許してあげましょう。私は手のひらにあるウネウネと動く生き物を消した。
「そんくらいで怒るなよ。心配してきてやったのにひでぇな」
「ご自分が悪いのです」
自業自得だと思いながらダッガーの背後にある硝子を嵌めた特殊な棚に近づき中を覗く。恐らくは。
「やはり消えてます」
「何を盗られた? あ、その布で拭いていいか?」
「メイルの種です。それは、私の手拭きなので駄目です」
目を離すとこの男は何をしでかすか本当に分からない。有事の際との差がありすぎるのが残念ですね。
「どうやら水の青年にかけたモノも壊されました」
「へぇ…で、やったのはどいつだ?」
ダッガーの目付きが声色と共に変化した。あぁ。一瞬にして変わるこの男が面白くて仕方がない。
「彼女みたいですよ」
「……ほう。実に愉快だ」
とたんに気味の悪い顔つきになりましたよ。
幼い頃からの付き合いなだけに何を考えているか手に取るように理解できますが、眺めたい顔ではない。
「そういやぁ、体はもう平気か?」
「万全とは言い難いですが、私が侮っていたのが反省点ですね」
彼の精神を飛ばし、意識だけでは意味がないので体も実際その場にあるようにする。実践はかなり成果がでたが、予想外な事があった。
「ラジウス、あの男が想定以上に魔力持ちだったのが驚きでした。これでも防いだんですよ」
だが、完全ではなかった。これくらいの攻撃だろうと見積もりが甘かった。結果、右腕右足の痺れが未だにとれない。
「あの男よりユラが気になる。気の強い女も悪くない。だがなぁ、ガキは興味がもてねぇ」
この馬鹿は。
「そういえばあの時、私と貴方は繋がっていたお陰で非常に恥ずかしい思いをしました」
聖域に侵入した際、私とダッカーは、まさに二人で一人。こんこんと説明したはずなのに。
「あー、あれか。いいだろユラの口」
「女性に無理強いはいけないと何回注意したことか!」
「相変わらずかってーなぁ」
私は、また見るに耐えられない顔になったダッガーから目を逸らし仕事の続きを始める。
ペンが紙を削る音とダッガーが勝手に出した私の焼き菓子を咀嚼する音が混じり合うなか。
「なぁ」
「はい」
「今夜、もう一度、聖域のやつを頼みたい」
一度止めて滲んでしまった箇所を離し再開する。仕事は山積みなんですよ。
「短時間なら可能です」
帰らない彼にしびれを切らした私は、顔も上げず返答した。
「なら、飲みにいこうぜ。そうだなぁ、薄い布越しに俺達が確実に来ていると分かる店で」
「今夜は雨ですよ」
なかなか手に入らない店の菓子を口に詰め込んでいるであろう彼は、言った。
「丁度いい。汚れきった血の雨も綺麗にしてくれるだろう」
「…私は、まだ表に出ませんよ?」
椅子の軋む音に顔を上げれば、菓子の欠片を立ちながら払う彼は笑った。
「ああ。今はな」
──この夜、風の国ヴァーリアの王とその臣下達の命が消えた。
同時間、疑いのあるダッガーは、リースと酒場にいたと多くの者達の変えようのない証言があった。
~追記~
ダッカーの弱点は、国のシンボルマークでもある蛇である。幼少期に服の中に小さな蛇を大量に兄に入れられた時から未だ克服できていない。
バキンッ
「おやおや」
リースが手を止め音のした方向に目を向けた時、ドアが勢いよく開かれた。
「おい!今、そっちに何か飛んだぞ!」
いきなり扉を開け挨拶もなく私の部屋に入室してくる者は陛下とこの男、ダッガーしかいない。
「自己愛が強い殿下が珍しいですね。まさか私の心配をして下さるとは」
途端に彼は王族らしかなる態度でテーブルに足を乗せ雑に座った。
泥がテーブルに落ち、小さな苛立ちがうまれる。この方は幼少期から剣の腕以外は何も成長していないようだ。
「あ? お勉強のし過ぎでとうとう頭の中もおかしくなったのか?」
「泥は落とし、足は乗せない。一番は壊さないで下さい。貴方が昔から力加減というものを学ばないお陰で国庫に影響がでているのですよ」
耳の中に指を入れるダッガーの姿にリースは手の中にとある姿を作り出す。
「お前っ! こんくらいで本気で怒る奴があるか! 早くソレを消せ!」
殿下の目の前にいますよ。私は気に入っている物を汚されるのがとても不快なんです。
「ならば、その泥のついた足を下ろして机を拭いて下さい」
「何で俺が掃除しなくちゃなんねーんだよ!」
──このクソ殿下。
「わ、わかった! わからったからソレ消せ!」
少しスッキリしたので、今回は許してあげましょう。私は手のひらにあるウネウネと動く生き物を消した。
「そんくらいで怒るなよ。心配してきてやったのにひでぇな」
「ご自分が悪いのです」
自業自得だと思いながらダッガーの背後にある硝子を嵌めた特殊な棚に近づき中を覗く。恐らくは。
「やはり消えてます」
「何を盗られた? あ、その布で拭いていいか?」
「メイルの種です。それは、私の手拭きなので駄目です」
目を離すとこの男は何をしでかすか本当に分からない。有事の際との差がありすぎるのが残念ですね。
「どうやら水の青年にかけたモノも壊されました」
「へぇ…で、やったのはどいつだ?」
ダッガーの目付きが声色と共に変化した。あぁ。一瞬にして変わるこの男が面白くて仕方がない。
「彼女みたいですよ」
「……ほう。実に愉快だ」
とたんに気味の悪い顔つきになりましたよ。
幼い頃からの付き合いなだけに何を考えているか手に取るように理解できますが、眺めたい顔ではない。
「そういやぁ、体はもう平気か?」
「万全とは言い難いですが、私が侮っていたのが反省点ですね」
彼の精神を飛ばし、意識だけでは意味がないので体も実際その場にあるようにする。実践はかなり成果がでたが、予想外な事があった。
「ラジウス、あの男が想定以上に魔力持ちだったのが驚きでした。これでも防いだんですよ」
だが、完全ではなかった。これくらいの攻撃だろうと見積もりが甘かった。結果、右腕右足の痺れが未だにとれない。
「あの男よりユラが気になる。気の強い女も悪くない。だがなぁ、ガキは興味がもてねぇ」
この馬鹿は。
「そういえばあの時、私と貴方は繋がっていたお陰で非常に恥ずかしい思いをしました」
聖域に侵入した際、私とダッカーは、まさに二人で一人。こんこんと説明したはずなのに。
「あー、あれか。いいだろユラの口」
「女性に無理強いはいけないと何回注意したことか!」
「相変わらずかってーなぁ」
私は、また見るに耐えられない顔になったダッガーから目を逸らし仕事の続きを始める。
ペンが紙を削る音とダッガーが勝手に出した私の焼き菓子を咀嚼する音が混じり合うなか。
「なぁ」
「はい」
「今夜、もう一度、聖域のやつを頼みたい」
一度止めて滲んでしまった箇所を離し再開する。仕事は山積みなんですよ。
「短時間なら可能です」
帰らない彼にしびれを切らした私は、顔も上げず返答した。
「なら、飲みにいこうぜ。そうだなぁ、薄い布越しに俺達が確実に来ていると分かる店で」
「今夜は雨ですよ」
なかなか手に入らない店の菓子を口に詰め込んでいるであろう彼は、言った。
「丁度いい。汚れきった血の雨も綺麗にしてくれるだろう」
「…私は、まだ表に出ませんよ?」
椅子の軋む音に顔を上げれば、菓子の欠片を立ちながら払う彼は笑った。
「ああ。今はな」
──この夜、風の国ヴァーリアの王とその臣下達の命が消えた。
同時間、疑いのあるダッガーは、リースと酒場にいたと多くの者達の変えようのない証言があった。
~追記~
ダッカーの弱点は、国のシンボルマークでもある蛇である。幼少期に服の中に小さな蛇を大量に兄に入れられた時から未だ克服できていない。
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