恋をする

波間柏

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10.彼の隣は落ち着かない

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「なんて図々しいですよね。でも、もう少しの間このままで」

 そう言うとランスは、微笑み視線を前に戻した。身体は近いけれど、視線はなくなったのでほっとする。

「ホノカは、綺麗ですよ」

 気を緩めたとたん上から声が降ってきた。

本当に心臓に悪い。

「いいです。慰めてくれなくて」

惨めになるからやめてほしい。

「慰めじゃなくて、本当です。まだ会って2日で何を言ってるんだと思われてもしょうがないですけど、外見だけでなく貴方の芯の強さが好きです。まぁ泣かしてしまいましたけど」

 クスッと頭上で笑う声がした。恥ずかしすぎて上をみれない。

なんでかな。

 ただの買い物だけだったのにどっと疲れた。




*~*~*



「剣を振るうのは難しいですよね」

 夕方、祖父の部屋で残りのお盆ではなく盤にはめる物を一緒に探している時に彼がポツリと呟いた。

 そっか。忘れていたけど騎士って鍛練したりするのか。

「できるとこあるわよ」
「えっ」




*~*~*




「どうぞ」

 案内した場所は地下。でも天井は、かなり高い。


「音楽鑑賞も出来るように防音になっているから音も平気だし、多分剣振り上げても上には届かないと思う。さっき丁度祖父の部屋で竹刀と木刀も見つけたから使ってみます?」
「…おじい様って何者なんですか?」
「う~ん。簡単にいうとお金持ちで体育会系で変。でも優しかったって感じかな」

 いかにも一見お金持ちの紳士って感じなんだけど、剣道やテニスやらスポーツが大好きで。それだけでなく突然、海外に行ってなかなか帰ってこなくて、よく心配したのを覚えている。

 祖母は逆に家でのガーデニングを好み、よくお菓子を作ってくれた。

穏やかな笑みしか見たことがなかった。

「お会いしてみたかったです」

 私の話を聞いてランスが微笑む。きっと二人はランスをとても気に入っただろうな。

「ふふっ。きっとランスを見たら祖父は新しい玩具を見つけたように離さないし、祖母はお菓子を沢山作るでしょうね」

想像して楽しい気持ちになった。




*~*~*



「きれいな曲ですね」

 声のした方へ顔を向ければ、ランスがいた。


 私達は夕食を食べ終わり、ちなみに夕食は冷やし中華にして、その分デザートは奮発し買い物の時に買った少しお高いケーキを食べた。

 それからランスは地下で鍛練するというので私は久しぶりにリビングの隅にあるピアノを弾いていたのだ。

窓からは欠けはじめた月が見える。

とても静かな時間。

 弾いていたのは、クラシックで有名な曲だ。

 第一章は短調。物凄く暗いけど昔、習っていた先生に珍しく褒められた曲で。汗だくなのに清々しい表情の彼とはまったく合わない曲だ。

 彼は、シャワーを浴びた後「おじい様のお部屋を見させて下さい」と言い二階へと上がっていった。

 私も息抜きできたしやるか。気合いをいれ教科書と問題集の束をカウンターテーブルに広げた。





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