『埋蔵金、まだ眠っています』

第2話 動画が勝手にアップされた夜

第2話　動画が勝手にアップされた夜

翌朝、目覚めると布団の上にはあの黒い財布。
枕元には、また一枚、新しい紙が差し込まれていた。

——「これが二度目。」

ゾッとした。だってオレ、あれから寝ただけだぞ？ 何もしてない。
“これが一度目”の次が“これが二度目”？
ってことは、オレ……また“死んだ”ってことか？
……いやいや、そんなはずはない。たぶん、ただの悪戯。そう、きっとそうだ。ポストに突っ込まれたんだ、寝てる間に……誰かの仕業だろ……。

「いやでも誰が……？」

そう呟いたオレの目に、もう一つ異変が映った。

パソコンが起動している。

あきらかにスリープから戻った状態じゃない。
しかも——YouTubeに、未公開だった動画がアップされていた。

【激震】埋蔵金の鍵“呪いの財布”を開けたら死んだ【Part1】

動画の長さは13分24秒。
オレが昨日撮ったつもりの素材だ。編集前のはずなのに、なぜかカット、テロップ、SE（効果音）まで入ってる。しかも編集が……うますぎる。

「え……？」

視聴回数は1万4千再生を超えていた。
オレの動画が万越えなんて、初めてだ。いや、そんな話どうでもいい。
怖いのは、この動画を誰がアップしたのかだ。

アップロード時刻は、昨夜3時33分。オレは完全に寝ていた時間。
PCにはパスワードロックをかけてある。スマホも認証しないと投稿できない。

背筋が冷える。これが埋蔵金にまつわる「呪い」なのか……。

コメント欄も異常だった。

「あの財布、うちのじいちゃんの遺品とそっくり」
「この人、1年前に行方不明になった中野バズヒロに似てない？」
「うちの地域にも“開けてはいけない財布”伝説ある。ガチで呪われるやつ」

……ガチで反応がリアルだ。演出としての“釣り”ならここまで来ない。
「中野バズヒロ」って誰だよ……と思って検索したら、いた。
登録者10万人を超える元YouTuber。1年前、「埋蔵金を探す」と言い残して失踪していた。

そして、その彼の最後の動画のサムネに映っていたのは、例の黒い財布だった。

……これはマズい。

正直、再生数が伸びたことに少し喜んでいた自分が恥ずかしくなる。
今オレが手にしているのは、ネタじゃない。
命を削る都市伝説だ。

その日、オレは財布を机の引き出しに封印し、鍵をかけて外に出た。
駅前のドトール。Wi-Fi目当てにいつも使ってるカフェ。
とにかく気持ちを落ち着けたかった。

だが、外も異常だった。
周囲の人間たちが……なぜか、みんな同じスマホ画面を見ている。

近づいて、チラッと覗いたその画面には——

オレの動画。

いやいやいや、嘘だろ？ 再生回数、47万回。
急上昇1位。
トレンドにも「#開けてはいけない財布」が乗っていた。

やばい。これは、完全にバズってる。
でもオレは何もしてない。動画は勝手に編集され、勝手にアップされた。
これは奇跡なんかじゃない。明らかに“誰か”が動いている。

そのとき、LINEに通知が入った。

送り主は「非通知ユーザー」
メッセージの内容は——ただ一言。

「次の場所へ行け。地図は財布に入れた。」

慌てて家に帰り、机の引き出しを開ける。鍵は壊れていた。
財布は、やはり中にあった。そして中には、新しい紙が一枚。

——地図だった。

手書き風のスケッチ。場所は……どうやら、埼玉県の秩父。
山奥にある廃神社の名前と、「三度、己の死を見ることになる」と赤文字で書かれていた。

……もう、怖いを通り越してる。
でも、オレは行く。なぜなら、すでに人生が狂い始めているからだ。
無視して元に戻るなんて、もう不可能なんだよ。

夜、リュックにカメラ、スマホ、乾電池、そして財布を詰めて出発した。

電車とバスを乗り継ぎ、山道を2時間ほど歩いたところで、件の神社は見えてきた。

朽ちた鳥居。崩れかけた社殿。風の音に混じって、誰かのすすり泣く声が聞こえる。

まるで、昨日見た“夢”の中の神社とそっくりだ。
あの、死んだオレがいた場所——まさか、ここなのか？

動画を回しながら、鳥居をくぐった。

カメラの液晶に、ノイズが走る。
耳の奥で「ゴオオオ……」という重低音。
まるで空気がよじれていくような、不気味な音。

そして、目の前に……またオレがいた。
今度は、火に包まれている。

自分自身が、社の中で炎に焼かれている。悲鳴は出ない。ただ、見てるだけ。
目が合う。死にゆくオレと、生きているオレが。

そして焼かれるオレが、唇だけを動かす。

「……これが、二度目だ。」

カメラがそこでシャットダウンした。
電源は落ち、映像も録画できていない。

オレは、気を失った。

目を覚ますと、自宅の布団の上。
ポケットには、財布。そして新たな紙切れ。

「これが三度目になる。」

オレはまだ、死にきってないらしい。

でもわかってる。
この財布が、“埋蔵金の鍵”だということ。
ただの金じゃない。これは、情報の、時空の、呪いの、そして……人間の欲そのものの化身だ。

そして——

まだ、目覚めていない“何か”がある。