『埋蔵金、まだ眠っています』

ガツキー

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第3話 金守衆(きんしゅしゅう)の来訪

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第3話 金守衆(きんしゅしゅう)の来訪

朝、玄関のインターホンが鳴った。
時刻は午前5時32分。空はまだ青みがかっていた。

オレは昨夜の悪夢の名残を引きずりながら、寝ぼけた足取りでドアに向かう。
モニターを確認する。そこには、スーツ姿の男が一人。
背後には、黒塗りのワゴン車。まるでテレビで見る特殊部隊のような風貌。

まさか警察か? いや、税金……?いやいや、あの動画か?動画が原因か……?

「三田村バクさんですね?」
スーツ男は、穏やかな口調で言った。「われわれは“金守衆”と申します」

聞き覚えのない名前。宗教か?詐欺か?それとも……都市伝説そのものか?

「突然の訪問、申し訳ありませんが……少し、お時間をいただけますか?」

オレは、何かに導かれるように、頷いた。

ワゴン車の中は静かだった。
男は二人組。話したのは初老のスーツ男、もう一人は無口な若者。
彼はずっと窓の外を見ている。銃のような物を背負っていた。どう見てもただのYouTuberには不要な装備だ。

「金守衆(きんしゅしゅう)ってのは何なんですか?」

「あれを手にした時点で、あなたも“守る側”か“狙う側”に振り分けられたのです」

「あれって……あの財布のことですか」

「ええ。正式には“金ノ器(かねのうつわ)”と呼ばれています。江戸幕府が最後に残した“記録媒体”です」

「記録……媒体……? これ、財布ですよ?」

男は苦笑した。「見た目に騙されてはいけません。あの中には、江戸幕府が集めた機密情報、財政台帳、流通記録、幕閣の密命、さらには江戸城地下に隠された“国家通貨の原型”までが、古文書の形で収められていたはずでした」

「はずって?」

「一度、“開いた”んですよ。……ある者によって」

言葉のトーンが急に沈む。

「三田村さん。あなたが動画でアップロードした“開けた”シーン。それを見て、各地の“探知者”たちが動き出しました。我々もその一つ。ですが……」

「ですが?」

「あなたの編集技術ではないですよね?」

「ええ、あれは勝手にアップされて……」

「では、あなたのパスワードを知っていた“何か”が、あの映像を世界に放ったということになります。つまり、“金ノ器”の意志が働いた可能性が高い」

……財布に“意志”?

「これは単なる呪物ではないのです。貨幣、情報、信頼、死。それらすべてを束ねる、いわば“日本の記憶”なのです。江戸の終焉とともに封じられたこの器を、あなたは目覚めさせた。そしてそれは……国家規模のリセットトリガーになりかねません」

言葉が追いつかない。情報量が多すぎて、脳が処理を拒否している。

「このまま放置すれば、あなたは“未来の国家犯罪者”になるでしょう。あるいは、神になるか、亡霊になるか。三田村さん、あなたに選ばせたいのです。“守る”か“潰す”か」

そのとき、車が急停止した。

若者が無言で外を指差す。そこにあったのは、炎上する家——オレの家だった。

「……なにこれ……」

煙が上がり、黒焦げの窓から火の粉が噴き出している。
サイレンの音が遠ざかる。すでに誰かが消防を呼んでいたようだ。

「なぜ……」

「金ノ器は持ち出されました」
若者がポツリと口を開いた。「“泥棒”です。昨日からずっと尾行していた影があります。あなたが気を失っていた隙に、財布は入れ替えられました」

「じゃあ、オレが持ってるこれ……」

「レプリカでしょう。見るだけで命を削る“本物”の波動とは違う」

——じゃあ、オレはただの中継役かよ。
全部仕組まれてたのか? 財布を拾ったのも、動画がバズったのも。

「三田村さん、我々はこれから“金ノ器”を奪還しに向かいます。同行しますか?」

「なんでオレが?」

「あなたしか“本物の器”に近づけないんですよ。すでに“一度死んだ”あなたには、器の情報が刻まれている。“生きた鍵”なのです」

「そんな……都合のいい……」

だが、脳裏に焼き付いているのだ。
火に包まれた自分。木に吊るされた自分。あれは演出でも夢でもない。

オレは、選ばれてしまった。

「行くよ。今度は、ちゃんと目を開けて死ぬよ」

初老の男は、薄く笑った。「その意気です」

その日の夜。オレたちは、東京・文京区のある廃ビルに潜入していた。
情報によると、“泥棒”がここで財布を“加工”しているという。

加工——つまり、金ノ器を“貨幣”として使えるようにする何らかの技術があるらしい。

だが、その情報は罠だった。

ビルの地下。暗闇の中で、オレたちは待ち伏せを受けた。

銃声。悲鳴。閃光。
若者が撃たれ、初老の男がオレをかばって倒れる。

暗闇の奥から、黒マスクの男が現れた。

「よう、バズってるね。動画見たよ。あれ、お前の“死体”映ってたな」

声に聞き覚えがあった。
中野バズヒロ——1年前に消えた、あの都市伝説YouTuber。

「なぜお前が……?」

「オレは財布の中に入ったんだよ。そして出てきた。生きたままな。何が入ってたと思う? 人の履歴書だよ。江戸時代からの全部な。殺人者、裏切り者、権力者、そして……庶民の金の流れ。全部記録されてんだ」

「なぜそんなものを……」

「それを売るんだよ、三田村。金ノ器の中身を“情報通貨”にして、欲しい奴に売る。政治家も、警察も、ヤクザも、学者も、誰もが金で動く。でも……金より情報の方が価値があるだろ?」

「お前、狂ってる……!」

「違う、正気だ。むしろこの国のほうが狂ってる。もう限界だよ。格差、少子化、自殺、炎上、炎上、炎上……オレたちの生は“誰かの再生数”でしか測れない。なら、いっそ全部暴いてやるよ」

そのとき、バズヒロが懐から財布を出した。
本物の、“金ノ器”だ。あの波動がある。見ただけで頭が痛くなる。魂が削れる。

「選べよ、バク。お前も開くか? それとも、見るだけか?」

「見るだけじゃダメなんだよな?」

「おう。開けて、そして死ね。三度目の死で、お前はようやく“目覚める”」

オレは、震える手で、財布を手に取った。

「死んでも知らねーぞ」
バズヒロが笑った。

オレは、財布を開いた。

——そして、世界が反転した。
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