【語るな会の記録】鎖女の話をするな

鳥谷綾斗(とやあやと)

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第2部/鎖女の話をした少女の話

奪われたあたしの居場所

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 #鎖女 ――検索


【弘前夏生*M大学オカルト部 @natsuo_hiro
 #鎖女 ヤバない?
 最初に鎖女の話を投稿した(多分)ツイ主、最後のつぶやきから音沙汰ないんだけど】


【ましろ @perfect_white
 #鎖女 ツイ主のリア友なんだけど、DMもラインも返ってこない】


【通りすがり @jaws3mitai
 #鎖女 にマジでやられちゃったとか?】


【弘前夏生*M大学オカルト部 @natsuo_hiro
 #鎖女
 死んだってこと?】


【通りすがり @jaws3mitai
 #鎖女
 いや分からないよ
 だって話の中では、『恐ろしい目に遭う』だけだったし】


【ましろ @perfect_white
 #鎖女 
 その恐ろしい目って、具体的になんなの?】

【通りすがり @jaws3mitai
 #鎖女
 さあ……?】


 深夜一時半。
 真っ暗な部屋で布団にくるまって、あたしはスマホで鎖女のことをタグ検索していた。

「どーでもいいよ……」

 ひとりごちる。

「鎖女がもたらす『恐ろしい目』なんて、どーでもいい……」


 だって、もっとずっと恐ろしい予感がしているから。
 買ったばかりのルームウェアのサラサラとした手触りを感じながら、あたしは昼間の出来事を回想する。


 あの後、柏木先輩は英美香と一緒に帰った。
 一応「一人で帰れるか?」って聞いてくれたけど、先輩は明らかに困っていた。

 あんな顔されたら、「一人じゃ帰れません」なんて言えないよ。

 トークアプリを開く。
 柏木先輩とのトークルームに、文章を打ち込んだ。


【先輩、明日の朝は】
【あたしを迎えにきてくれますか?】


「……こんなの送れないよ……」

 全部消して、スマホを閉じる。
 眠れない。
 ベッドから起き上がって、部屋を出た。

 深夜二時になった。
 パパもママももう寝ている。
 スマホ片手に階段を下りて、一階に向かった。


 ……
 …………
 ………………


 ジリリリ、とあたしの部屋の目覚まし時計が鳴った。

「きゃあ! 莉々子!?」

 二階から下りてきたママが、あたしを見るなり素っ頓狂な声をあげた。
 玄関マットの上で体育座りしているあたしを。

「びっくりした、なんで玄関で座り込んでるのよ? 何時からここにいるの?」
「……二時」
「はあ?」

 ママの呆れ声を無視して、あたしは朝日が差し込む玄関ドアをじっと見つめる。

(先輩、迎えに来ない……)

 せっかく可愛い部屋着、買ったのにな。


 胸が潰れそうになりながら、支度して登校した。
 学校に近づく頃、バイクの音が聞こえて。

 あたしは、「ああ、やっぱりなぁ」って項垂れた。


「おっ、柏木ー! 新しい彼女か? 美人じゃん!」
 数日前と同様に、柏木先輩の友達がからかう。
 英美香をバイクの後部席に乗せた先輩を。

「だからそういうのやめろって」

 先輩が友達を咎める。英美香は恥ずかしそうにうつむいていた。

 昨日まではあたしがあそこにいたのに。
 バイクが走り去る。先輩は、あたしに気づかなかった。


 教室に入ると、祐奈が駆けつけてきた。

「莉々子! さっき見ちゃったんだけど、どうなってんの? なんで柏木先輩が英美香といるの?」

 オロオロしながら事情を聞き出す祐奈に、泣きそうになった。

「昨日報告なかったけど、あのあと何があったのよー!」

 口を開く前に、英美香が教室に入ってきた。
 あっちもすぐに友達に囲まれた。

「英美香。顔、真っ青だよ。大丈夫?」
「うん……」

 英美香は萎れた切り花みたいだった。いつもの自信満々な態度は見る影もない。

「元気出しなよ、英美香。怖いだろうけど、おかげで柏木先輩とお近づきになれたんだからさ」
「そうだよ。もしまた鎖女が現れても、先輩が守ってくれるって」
「――ダメ!」

 友達二人の励ましを、英美香は鋭く遮った。


「……鎖女の、話を、しないで……」


 両目をガッと見開いて、英美香は本気で頼んだ。
 その剣幕に、英美香の友達は「ごめん」と謝る。

 その様子を見ていた祐奈が、口をへの字に曲げた。

「えぇ……そんなことある?」

 理解早いな、祐奈は……。

「うん、まあ、そういうことなの」
「いいの? 莉々子?」
「……いいも悪いもないよ。柏木先輩は、ただ鎖女に狙われている人を守ってるだけだもん」

 そう。『あたしだから』守っていたわけじゃない。

 それが彼の、『使命』だったから。
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