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3. 星に願いをっ!
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中山一家は、何百年に一度の大流星群を眺めていた。
お父さんはウィスキーをちびちびやりながら、ベランダの外を指さした。
「ものすごい数の流れ星だな。願い事が叶いそうだ」
星よりもテレビ画面に映る韓ドラに注目するお母さんは、笑った。
「何バカなこと言ってんの。あ、ミカ。にゃーすけにゴハンあげて」
一人娘のミカが、ペットの猫、にゃーすけにゴハンを用意する。
「ママ、かつおぶしどーする?」
いつもはカリカリにかつおぶしを載せる。にゃーすけが喜ぶからだ。
「こないだ獣医さんに当分控えるよう言われたし、ナシでお願い」
「はぁい」
カリカリだけ盛ったお皿をあげると、
「ニャー!」
にゃーすけが不満げに鳴いた。だが、ミカもお母さんも無視した。本猫的には怒りの咆哮だろうが、相手は人間なので特に伝わらない。
「ねぇねぇパパ、ママ。もしも願い事が叶うなら、何がいい?」
にゃーすけから目を離し、ミカが両親に尋ねた。
二人はあははっと笑って、本気にしなかった。
その時だ。
突然、窓の向こうがピカっと光った。雷よりも鮮烈な閃光に、中山一家は全員が目を閉じる。
するとーー頭の中で、『声』が響いた。
“……ますか……聞こえますか……”
“中山一家よ……私の声が、……聞こえますか……”
さやさやとした見知らぬ、いや耳知らぬささやき声に、中山一家は騒然となった。
“今……あなたたちの魂に直接話しかけています……”
「何だ、この声!」
「パパ、ママ、知らないひとの声がするよ!」
「にゃー!」
「みんな聞こえてるの⁉︎ じゃあ幻聴じゃないのね⁉︎」
“そうです……幻聴ではないです……”
“私の存在を理解しようとせず受け入れなさい”
“私は『願い星』。その名のとおり、願いを叶える星です”
「ネーミングがまんま過ぎる……」
“うるせぇです……今の時代は……分かりやすくてキャッチーなものを求められるんです……”
「た、確かに」
“まぁ雑談はこれくらいにして、本題に入りましょう……”
“私は願い星。あなたたちの願いを叶えるために地上に降りました……今、おうちのベランダにいます……”
“目は開けない方がよろしいですよ……光が強すぎて目ぇつぶれます……”
「物騒‼︎」
中山一家は声をそろえて叫び、顔を手で覆った。
“全宇宙願い星協会の厳正なる抽選の結果、今年はあなたがた家族の願いを叶えることになりました……おめ”
「そこは『おめでとうございます』ってちゃんと言ってくださいよ!」
“細かいこと言わんでください……こちとらギリギリなんです…… ここに来るまで大変だったんです……大気圏まじヤバい……重力キツすぎ……無理寄りの無理……”
「それは……大変ですね……?」
“で、願い事するんですかしないんですか”
「いや、それはもちろんしたいです!」
お父さんが言うと、一家は口々に願い事を叫び出した。
“待ってください……あくまで願い事は、一家につきひとつだけです”
“全員で話し合って決めるのではなく、この家でいちばん立場が上のお方の願いを叶えることになります”
“私の声が消え、私の姿が消えたら、ベランダに出て夜空に願い事をなさい。さすればどんな無理難題でも叶えられるでしょう……”
そうして、ささやき声と、圧倒的な光輝は呆気なく消えた。
目を開けた中山一家は、お互いの顔を見合わせると、ベランダの外に出た。
星たちがちらほら瞬く藍色の夜空を見上げ、それぞれ無言で願い事を胸に浮かべた。
(この家でいちばん立場が上のもの。それは俺だ。なんてったって一家の大黒柱なんだからな)
自信満々に、お父さんは出世と昇給と年々砂漠化が進む頭髪がフサフサになるよう願った。
(この家でいちばん偉いのは私よ。縁の下の力持ち。私がいなければこの家は崩壊するわ)
確信しながら、お母さんは美容と物価下落と、道端で偶然イケメン韓ドラ俳優に出会えるよう願った。
(この家の主役は、何といってもミカだよね! パパもママも、ミカの言うことは何でも聞いてくれるんだから!)
得意満面で、ミカは新しいオモチャとゲームとお菓子を願った。
三者三様が尊大に願い事を唱える中、足元ではにゃーすけがにゃーと鳴いていた。
夜が明ける頃、願い星の言うとおり、願い事は叶った。
中山家のリビングに、大量のかつおぶしが置かれていたのである。
お父さんはウィスキーをちびちびやりながら、ベランダの外を指さした。
「ものすごい数の流れ星だな。願い事が叶いそうだ」
星よりもテレビ画面に映る韓ドラに注目するお母さんは、笑った。
「何バカなこと言ってんの。あ、ミカ。にゃーすけにゴハンあげて」
一人娘のミカが、ペットの猫、にゃーすけにゴハンを用意する。
「ママ、かつおぶしどーする?」
いつもはカリカリにかつおぶしを載せる。にゃーすけが喜ぶからだ。
「こないだ獣医さんに当分控えるよう言われたし、ナシでお願い」
「はぁい」
カリカリだけ盛ったお皿をあげると、
「ニャー!」
にゃーすけが不満げに鳴いた。だが、ミカもお母さんも無視した。本猫的には怒りの咆哮だろうが、相手は人間なので特に伝わらない。
「ねぇねぇパパ、ママ。もしも願い事が叶うなら、何がいい?」
にゃーすけから目を離し、ミカが両親に尋ねた。
二人はあははっと笑って、本気にしなかった。
その時だ。
突然、窓の向こうがピカっと光った。雷よりも鮮烈な閃光に、中山一家は全員が目を閉じる。
するとーー頭の中で、『声』が響いた。
“……ますか……聞こえますか……”
“中山一家よ……私の声が、……聞こえますか……”
さやさやとした見知らぬ、いや耳知らぬささやき声に、中山一家は騒然となった。
“今……あなたたちの魂に直接話しかけています……”
「何だ、この声!」
「パパ、ママ、知らないひとの声がするよ!」
「にゃー!」
「みんな聞こえてるの⁉︎ じゃあ幻聴じゃないのね⁉︎」
“そうです……幻聴ではないです……”
“私の存在を理解しようとせず受け入れなさい”
“私は『願い星』。その名のとおり、願いを叶える星です”
「ネーミングがまんま過ぎる……」
“うるせぇです……今の時代は……分かりやすくてキャッチーなものを求められるんです……”
「た、確かに」
“まぁ雑談はこれくらいにして、本題に入りましょう……”
“私は願い星。あなたたちの願いを叶えるために地上に降りました……今、おうちのベランダにいます……”
“目は開けない方がよろしいですよ……光が強すぎて目ぇつぶれます……”
「物騒‼︎」
中山一家は声をそろえて叫び、顔を手で覆った。
“全宇宙願い星協会の厳正なる抽選の結果、今年はあなたがた家族の願いを叶えることになりました……おめ”
「そこは『おめでとうございます』ってちゃんと言ってくださいよ!」
“細かいこと言わんでください……こちとらギリギリなんです…… ここに来るまで大変だったんです……大気圏まじヤバい……重力キツすぎ……無理寄りの無理……”
「それは……大変ですね……?」
“で、願い事するんですかしないんですか”
「いや、それはもちろんしたいです!」
お父さんが言うと、一家は口々に願い事を叫び出した。
“待ってください……あくまで願い事は、一家につきひとつだけです”
“全員で話し合って決めるのではなく、この家でいちばん立場が上のお方の願いを叶えることになります”
“私の声が消え、私の姿が消えたら、ベランダに出て夜空に願い事をなさい。さすればどんな無理難題でも叶えられるでしょう……”
そうして、ささやき声と、圧倒的な光輝は呆気なく消えた。
目を開けた中山一家は、お互いの顔を見合わせると、ベランダの外に出た。
星たちがちらほら瞬く藍色の夜空を見上げ、それぞれ無言で願い事を胸に浮かべた。
(この家でいちばん立場が上のもの。それは俺だ。なんてったって一家の大黒柱なんだからな)
自信満々に、お父さんは出世と昇給と年々砂漠化が進む頭髪がフサフサになるよう願った。
(この家でいちばん偉いのは私よ。縁の下の力持ち。私がいなければこの家は崩壊するわ)
確信しながら、お母さんは美容と物価下落と、道端で偶然イケメン韓ドラ俳優に出会えるよう願った。
(この家の主役は、何といってもミカだよね! パパもママも、ミカの言うことは何でも聞いてくれるんだから!)
得意満面で、ミカは新しいオモチャとゲームとお菓子を願った。
三者三様が尊大に願い事を唱える中、足元ではにゃーすけがにゃーと鳴いていた。
夜が明ける頃、願い星の言うとおり、願い事は叶った。
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