5分読書

鳥谷綾斗(とやあやと)

文字の大きさ
9 / 9

10. SNS奇談 ~#FF外から失礼します・5分後~

しおりを挟む
(え、あれ松尾まつおじゃね?)

 部活を終えた杉下すぎしたの足が止まる。通学路の黒山の人だかりの向こうで見つけたのは、クラスメイトの松尾だった。
 松尾の傍には自転車が倒れ、彼自身は大人の男に羽交い締めにされている。泣き叫ぶ女の悲鳴が聞こえてきた。
 何があったのか疑問に思っていると、野次馬の中に友達の菊山きくやまの姿を見つけた。

「なぁ、松尾どうしたの?」
 そう尋ねる。
「松尾が近所の幼稚園児を跳ねたんだよ。しかもチャリスマホで」
「うーわー、サイアク」

(アイツ、中毒入ってたからなぁ)
 呆れ返り、松尾を見やる。彼は顔面蒼白で、今にも泡を吹いて倒れそうな様相だった。それを見ているうちに、杉下はほとんど無意識にスマホを取り出していた。

 カシャカシャ!

 松尾の哀れな姿をカメラに収めると、杉下はこっそりと離れた。菊山が見とがめる。

「おい。その写真、どうするんだよ」
「ん? ネットにバラまくケド?」
 さも当然と言った口ぶりで、杉下は答えた。
「は!? 何考えてんだよ!」
「だってさぁ、俺ら中学生じゃん? チャリスマホでコドモ轢いたのにさ、たぶんニュースとかで顔写真出ないじゃん? そういうの、許せなくね?」
「許すとかそんな問題じゃねーだろ!」
「いいじゃん。どうせたいした罪にならねーんだし、いっぺんイタい目見るべきなんだよ」

 杉下はツイッター画面を開き、さっき撮った松尾の写真、彼の名前、中学校名とクラス、出席番号を入力していく。
「やめとけって!」
 菊山が止めた。しつこい。
「うるせーな。悪いのは松尾なんだから、当然の報いだろ? 一度やらかしたことはさ、取り消せねーんだよ」
 一生かけて償え、と続けた。
「……オレは忠告したからな」
 菊山が苦々しく吐き捨てる。杉下は、どうでもいいやつからのLINEのようにスルーした。

 すると、通知ボタンに数字が現れた。杉下にリプライが届いたのだ。


【FF外から失礼します。
 やめた方がいいですよ。】


「は……?」
 なんだこれは、と思ったが、すぐに思い当たった。
 きっと菊山が送ってきたのだろう。杉下を止めるために。わざわざ別アカまで作ってご苦労なことだ。
 誰がやめるか。リプライを削除する。

「おい、杉下! おい!」

 菊山の呼び声。杉下は舌打ちした。
(うるせーな。もうほっとけよ――)

 その刹那、杉下の目が強い光に射貫かれた。思わずスマホを落としそうになるが、堪えた。

「杉下ぁ!!」

 菊山の声が届く時には、既に杉下は減速を忘れたかのようなスピードで突っ込んできたトラックに肉薄していた。
 高らかなクラクションは遅すぎた。
 轢かれる瞬間、杉下はトラックの運転手と目が合った。
 運転手の手には、ソーシャルゲームの画面が映し出されたスマホがあった。

 ブレーキ音、衝突音、人々の悲鳴、奇妙な静寂。
 菊山は地面に膝をつき、手足がねじれ曲がった杉下は真っ赤な血だまりに横たわる。

 トラックの割れたフロントガラスの向こうで、ハンドルに突っ伏した運転手の手から、スマホが落ちた。

 割れた液晶画面。ゲームからメッセージ通知の画面に切り替わる。


【FF外から失礼します。
 何度も何度も言ってるのに。】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

声劇・シチュボ台本たち

ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。 声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。 使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります) 自作発言・過度な改変は許可していません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...