辞表を出したら笑われた。退職届を出してダンジョンへ引きこもる。

久遠 れんり

文字の大きさ
11 / 56
第2章 黎明期

第11話 指名依頼 その2

しおりを挟む
 紅の殲滅隊としては、ここ25階で泊まり、明日の朝早くから、26階からを攻略する予定だったようだ。
「それで、ゆっくりしていたのか」
「ここは、モンスターが出ませんから。大体こんな時間に、この場所に居るのがおかしいんです」
「そう言われてもね」

 困ったな、感覚がずれているのか?

「大体この階だけでも、もっと時間が掛かります。奴らスナイパー系は岩から岩へ飛んだ瞬間を、よく狙って来るんですよ。それが、無への、いや鬼司さんの雷の球だけで沈黙しちゃったんです」
「いいにくそうだね。無でも良いよ」
「それなら案内もお願いしているし、導師と呼ばせてください」
 彼がそう言うと、周りの皆も目がキラキラでこっちを見ている。
「分かった。呼びやすいならそれで、とっさの時にはわずかな逡巡が命取りだからね」

「おおっ。導師が認めてくださった」
 この日から、会う人皆に、導師と呼ばれることになった。

 皆のペースに合わせて、一泊し、翌日26階への階段を下りる。
 またこの階から、筋肉系巨人との戦い。

 皆の戦いを見ながら、周りを警戒する。
 この辺りから、わんこいや狼たちとの遭遇も増える。

「おおい、ウルフが来たぞ」
 そう声をかける。

 すると盾役が、周りに何か袋を投げた。
「キャン」
 そんな鳴き声を残して、ウルフたちが引き返していく。

「なんだい。今の袋は?」
「はい。唐辛子の小袋です」
「ああ。なるほど、よく考えている」
 種族により、特徴が決まっている。
 嗅覚が鋭い奴には、そう言うのも効くんだな。

 ダンジョン内では、ダンジョン内での生活の知恵みたいなものが広がっているのか。たまには、こういう交流をして、常識を教えてもらうのも良いな。
 シンじゃないが、考え方が偏るのを防げそうだ。

 基本的に僕は、学校と家。その二つの環境がすべてで育って来た。
 僕は、人との関わりが苦手。そのため、多聞に一般常識という物が不足している。
 辞表の件でもそうだが……。

 これを機に、こういう依頼を受けて、要望。こういうのが欲しいとか、そう言う意見をくみ取る必要があるな。

 ダンジョンです。皆様からのご要望を募集しています。なんていう看板を作って設置しているシンの姿を想像して、一人で受けてしまった。


「おい見ろよ。導師様この状況で笑っているぞ」
 現在、オークとオーガ2体。合わせて3体の為、盾役が足りない。
 そう、結構ヤバい状況だ。

 攻撃役が、一生懸命攻撃しているが、筋肉の鎧に阻まれ、いまいち有効な攻撃に繋がっていない。
「手伝うか? それか魔法を使ってみたら?」
 そう言って、声をかける。

 盾役が何かを思いついたのか、相手をしていたオーガの顔に水の球をぶつける。
 すると、顔の周りに水の球がまとわりつき、オーガは苦しみながら離れていく。
「よし効くぞ。魔法を使え」
 周りのメンバーも、気が付く。その様子を見て、次々に魔法を使い始める。
 すると一気に、状態が改善されていく。

「おお凄い。一気にヌルゲーになった」
 そう言っていた彼が、火球を躱したオークに殴られる。
 まあ、かすめただけだがダメージを受ける。

「やばええ。死ぬかと思った」
「戦闘中に気を抜くんじゃねえよ。良いのを一発貰ったら死ぬんだぞ」
「了解」
 良い雰囲気。

 チームか。
 僕にはそれは出来ないな。ずっと、秘密を持つことになる。

 やがて、すべてを倒しきる。

「ありがとうございました。これからは、積極的に魔法を使ってみます」
「疲れが出るから、適度にね」
 そう言って、くぎを刺す。

 そこからは、攻略のスピードも上がって行った。

 階層が進むにつれて、ウルフとかが邪魔をしてくる頻度が上がるが、匂い袋が良い仕事をする。

 ボス前の、落とし穴は指摘をして回避した。
「鍵は持っているのか?」
「ええ拾って来ています。多分これが使えます」
 そう言って、突き刺しひねる。

 重い音を響かせ、意味ありげに扉が開いて行く。
 中に居るのはトロール君。
 筋肉系の集大成。
 身長5m棍棒装備。ボス特典として魔法もたまに使う。

 入ったとたんに、棍棒が目の前を通り過ぎる。
「やべー。当たるなよ。囲め」
 そう言って、周りを囲む。

 全体的な動きは遅いが、体がでかく、振り回される棍棒も、非常にスピードは速い。
 チームメンバーは基本通り、足元への攻撃を集中する。

 それを嫌がるトロールは、横なぎに棍棒をふるう。
 振り回される棍棒は、さすがの盾役でも止めることが出来ないため、逃げ回る。

「盾役。役目が失われているぞ。防御もシールドバッシュもできないなら、魔法攻撃に集中しろ」
 リーダー君が、檄を飛ばす。

「「おう」」
 そう言った瞬間、不可視の刃が飛ばされたが、効き目がなく霧散する。
「風は駄目だ」
「りょ」

「水で顔。行くぞ」
 そう言った時すぐに、水の塊がトロールの顔面を襲う。
 その水は、破裂せず張り付いた状態を維持する。
 そうそう、意識を外さず。魔法維持するんだ。
 状態を見ながら、思わず力が入る。
 
 今までは手も出したが、ここは彼らの仕事。
 僕の役割上、ここでは、よほどのことが無いと手を出してはいけない。
 アドバイスもだめだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...