上 下
12 / 56
第2章 黎明期

第12話 指名依頼 その3

しおりを挟む
 トロールは、手でぬぐって水を飛ばす。
 そこで追撃をするんだ。
 水をもう一度。

 ああ、みんなの意識が、攻撃に向かっていて、気が付かないか?
 ああ。アドバイスがしたい。

 攻撃役は、厚い皮膚と筋肉に阻まれて、攻撃が通らない。

 完全に膠着状態。
 これで幾度も失敗したんだな。

「顔。水が切れてる。追撃しろ」
 そんな声が聞こえる。

「やっべぇ」
 盾役から水が飛ぶが、苦しいのを覚えたのだろう。
 水は簡単に払われ、攻撃目標として目を付けられてしまった。

 こん棒の振り下ろしがやってくる。
 何とか流して受ける。
 だがその角度、腕が逝ったんじゃないか?
 盾に、ゆがみができた。

「ぐわっ」 
 と言って、蹲る。
「危ない」
 そう言われて、顔を上げたときには目の前にこん棒。
 こん棒と言っても、直径で60cmはある。
 完全に、丸太だ。

 ぶつかれば、車にでも、はねられたようなものだ。
「そこまで」
 そう言って、こん棒の持ち手を蹴り上げ、軌道をずらして回避させる。
 そのまま、お手本として、トロールの頭を、内側から燃やす。

「残念だけど、止めさせてもらった」
 皆ががっくりと、肩を落とす。
「すいません。助かりました」
 盾君が、礼を言ってくる。

「途中、水で呼吸を止めたのはよかったけれど、トロールがぬぐってしまったのに気が付かなくて、其処から後手に回っちゃったね。まずは治療しよう。盾がそれだけゆがむなら腕は折れたんじゃない?」
「はい、たぶん」

「これ、ポーション。飲んでみて」
「ポーション? そんなもの、見たことも聞いたこともないんですが?」
「まあ効くから、そうだった、先にちょっと骨はまっすぐにして」
「ちょ待ってください。ぎゃあぁ」
「ああ。痛いよね。我慢して」
 気分は歯医者さん。
 やられるのは勘弁だけど、やるのは癖になりそう。

「こんな感じだね。はい自分で飲んで」
「あっ、薄めのアップルジュース」

「多分すぐに、痛みは引いて来るから」
 そう言って、振り返る。
「さてと、どうする。帰るか、一度出てリポップを待つか?」
「すいません。もう一度、やりたいです」
「分かった、一度扉から出よう」

 部屋から出て、待つ間に変形した盾を修復する。
 そういっても、難しくはなく熱を加えて形に添って軽くたたく。
 一度曲がった所は、塑性変形(そせいへんけい)の為、金属の結合が弱い。
 熱を加えて内部ひずみと転移を解消する。
 その後焼きなましを行い、適当な硬度を取り戻させる。

「ちょっと装飾は消えたけれど、これで使えるはず。縦むきにちょっと補強を入れたから、強度は大丈夫だと思うよ」

「ありがとうございます。今のは一体?」
「一度、力を受けてゆがむと強度が落ちるんだ。塑性変形と言うんだけどね。弱くなった場所の脇に固い所が集まる。それでまあその状態を解除するため、魔法で熱を加えて加工。その後、強度が欲しいから焼きなましと言って、熱して急激に冷ますと言う加工をした」

「やっぱり。魔法で加工してたんですね」
「気になっていたのは、そっちか」
 一緒になって、笑う。

「ここは、30階だから、6時間程度でリポップする。その間に、内緒だが言っておこう。途中まではよかった。魔法の利用方法と、効果的な使い方を練習してみて。さっきトロールを、僕が簡単に倒したのは見たね」

「あれは、内側で燃やしたんですよね」
「そう。熱でも水でも生物だからね。自分がやられて、いやなことをしてあげればいい」
「なるほど」
 そう言って、みんなが走っていった。

 やがて「すげー」とか、「えぐ過ぎ」とかいう声が聞こえる。
 口の中で、氷のとげでも生やしたのか?

 ワイワイ言いながらも、きっちり30分前には戻って来た。

「どう? 行けそうかい?」
「うーん。なんとなくですが。でも、魔法の有効性は把握できました」
「そう。それはよかった」

 
 そして、再びカギを差し込む。
 これは、再び彼らが見つけて来たもの。
 まあカギは、スペアをそこそこばらまいているが、一度開ければ消える。


「ようしいくぞ」
「おう!」
 そう言って飛び込むが、いきなり横なぎのこん棒と言うこともある。

 そこは注意をしてはいる。

「ぐおおお」
 おりょ。このトロール記憶があるのか? 妙に興奮しているな。

 彼らは、切れないから剣の使い方を変えたようだ。
 突き優先に切り替えガンガン攻撃している。

 しかも関節の裏など、柔らかい所を選択的に突いている。

 シールドバッシュも、角を使い関節の横から入れている。
 そして、たまらず顔が下がってきたところに、口や目、喉へ突きが入りそのまま魔法発動。色々な所から氷のとげが顔を出す

 やっぱり。結構えぐいな。

 無事に、倒すことができたようだが、トロールの反応が気になる。
 もしかして、記憶を残すことにしたのか? なら修業を積むと無茶苦茶強くなるんじゃないか? だけど、ストレスになる気もするな。
 トロールが、いつもいつもやられてたまるかとか、とか言っているうちは良いけど。『やるんだろ、早く殺れや。けっ』とか言い出したら、どうしよう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

イラストから作った俳句の供養

現代文学 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:1

どうやら、我慢する必要はなかったみたいです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:81,445pt お気に入り:3,862

俺の愛娘(悪役令嬢)を陥れる者共に制裁を!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:25,344pt お気に入り:4,313

邪神ですか?いいえ、神です!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:171

婚約破棄?私には既に夫がいますが?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:10,327pt お気に入り:844

純度100%の恋 ~たとえこの想いが繋がらなくても~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:689pt お気に入り:1

うちの会社の御曹司が、私の許婚だったみたいです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,965

星を旅するある兄弟の話

SF / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:0

目覚めた公爵令嬢は、悪事を許しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:39,606pt お気に入り:3,319

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:20,630pt お気に入り:1,497

処理中です...