辞表を出したら笑われた。退職届を出してダンジョンへ引きこもる。

久遠 れんり

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第2章 黎明期

第27話 孤影悄然

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 翌日、彼女たちと組んだ僕は、11階で座り込み、これからのことについてディスカッションを行う。

 はっきり言って、11階から20階までは単なる通過点だが、たまに素材収集の依頼が来るため、どの階にどんなモンスターがいて、どんな素材をドロップするかを説明する。
 まだ、彼女たちだけでは、シンの管理室へ行くことができない。

 それと、駆除従事者から不満があれば、意見をくみ上げてもらえるように頼んだ。
 あからさまな対応はできないが、それなりに改善は行える。


 その頃、9階で5人の駆除従事者が集まり、相談をしていた。
「ふかすなよ。昨日のひ弱そうな奴が、『無への導師』?」
「ああそうだよ。似たような格好をしている奴は多いが、昨日来た女。あいつは協会の受付だ」
「導師って言えば、ソロなのに上級でさらに中の上位…… 30階を越えて活動中だろ」

「それで、彼女たちがお願いに来た…… 理由は分かる。彼女たち、今年4回生で就職がうまくいっていないとぼやいていたのを、盗み聴きしたんだ。ダンジョンだけに絞るなら、初級はだめとなる。力があり、ソロの導師へお願いにか」
「畜生。経済力があれば、お嬢さん専業主婦として就職しませんかと、結婚を申し込むのに」
 その瞬間、周りの連中もその手があったかと思うが、同じく経済力は無い。
 彼らはまだ初級なのだ。

「でだ、俺たちは、結果的にけんかを売ってしまったということが重要だ」
「あ゛あっ。そうだった。どうしよう?」
「向こうが気にしていないことを、祈るしかない」
「あれちょっと待て、来たのは受付さんだったと言ったな。外での武力行使は、一般人より重罪だった気がする。呼び出しがあったら終わりだぞ」
「…………」
「どうしよう?」

 その後彼らは、すっかりおとなしくなり、必要最小限しか協会へ顔を出さなくなる。それも、5人ではなく、一人でしか姿を現さない様になる。


「あらまあ、あの5人。すっかり姿を見せなくなったわね」
 あの翌日は悲惨だった。
 眠れなくていつもはしない深酒。
 それでも、目はさえて眠れず、よくない妄想ばかりが頭の中で繰り返される。
 結局、朝まで眠れず休暇を取る羽目になった。

 翌日、同僚に鬼司が来たかを聞いたが、来ていないことが分かり、また落ち込む。

 あれから、4日後。
 彼は来た。チームメイトとなった2人を連れて、20階のボス、オーガの魔石を持って。
 出現するボスは、時により、オークの上位種の時もあるが、今回は、オーガだったようだ。
「確認をお願いします」
 そう言って、登録窓口藤本さんに向けて、魔石が差し出される。
「鬼司さんは、サポートだけですか?」
「そうです。この二人の力です」
「承知しました。登録証と、タグの提出をお願いします」

 そうして、更新がされる。


 将と組んで、あっという間に20階。
 途中で退治したモンスターの魔石も、初級者の階層とは段違い。
 ずいぶんと簡単に倒せるのに、1つで数千円で引き取ってもらえる。
 あーいや、違うわね、簡単に倒せるようになっただけ。
 ちょっと前の私たちなら、倒すことなどできなかった。
 1日潜れば、一人2~3万円になる。
 それも、楽しく。
 そうそう、15階の鉱山では道化師がいなくなったおかげで、ずいぶん賑わっていた。

 噂に聞いていた、中級者用ボーナスエリア。
 佳代は完全に目がキラキラだった。
 将に何がほしいとお願いすると、そこへ連れて行ってくれる。
 ダイヤと、プラチナそれに金。
 
「ねえ。将。あたしルビーがほしい」
 佳代が将の腕をとり、お願いする。
「ルビーが好きなの?」
「あー。あたし7月生まれだから」
「なるほどね。確か石言葉が情熱とか勝利だよね。佳代にぴったりだ」
「えっそうなんだ。気にしたことがなかった」
 そんな嘘をつく。『情熱とか勝利だよね。佳代にぴったりだ』そう言われたことで、膝の力が抜け、将に抱きつく力が増す。

「わっ私もそれなら、サファイアが欲しい」
「美樹は、9月生まれなんだ」
「石言葉は慈愛とか誠実なの」
 そう言って、僕を見つめる。

「そうだね。しかし、そうか二人は兄弟みたいなものなんだ」
「そう。含まれる元素の違いで、元はコランダム。酸化アルミニウムだって聞いて、中学生の時がっくりしたのよね」
「そうそう。アルミってジュースの缶とかだし、誰かが酸化アルミニウムだから、さびたら宝石になるって言い出して実験したよね」
「白い粉を吹いて、腐っただけだったけど」
 そう言って、二人が笑い出す。

「ずっと仲良しだったんだ」
「そう。小さな頃から、ずっと横にいてくれたの」
 それを聞いて、すごく胸が。
 なぜだろう。
 小学校や、中学校の時。
 ずっと無くなったものを、探したりしていた記憶しか無いぞ。

 友達と言っていた奴らは、川へ僕の持ち物を投げる奴らだったし、僕たち友達で~す。大人に見つかったときの奴らの言葉(せりふ)。
 思わず、二人を抱きしめる。

「ちょっ。将。うれしいけど。みんなの目が」
 そうだった。ここは15階。人は多い。
「いやごめん。つい」
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