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第3章 成長期
第45話 ちょっとした事
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地球上が、そんな騒ぎを起こしている頃。
ある変化が、遠く離れた小惑星帯で発生する。
遡ること10数年前。ある探査船が、太陽系を離脱した。
ニュースにもならない。些細なこと。
その微少な人工物は、微妙なバランスを持った空間を横切り、太陽系外に出ていった。その時、ほんのわずかな揺らぎを周辺に与える。
太陽から発せられる、太陽風。
太陽風は、太陽系の外縁部に達し、高速の星間物質との衝突や星間磁場により、減速されて末端衝撃波面を形成している。
末端衝撃波面は、恒星間物質などの影響によって太陽風の速度が低下し、亜音速になる地点。ここでは絶えず、圧縮、加熱、磁場の変化が生じている。そんな場所。
さらに、末端衝撃波面の外側は、低速度の太陽風と星間物質とが混ざり合うヘリオシースという領域を経て、ヘリオポーズで完全に星間物質に溶け込んでいる。とされている。そこを、宇宙の流れとしては予想外に、通り過ぎていった人工物。
そのわずかな揺らぎが、末端衝撃波面とヘリオポーズに発生し。その影響が、内側に存在する、カイパーベルトに及ぶ。そこに存在する、握りこぶし程度の隕石。その軌道をずらした。
そんな10数年前のわずかな出来事は、今。地球と火星の間にある、小惑星帯に影響を与えていた。
それが、一人のアマチュア天文マニアに発見されたのは、もう少し先になる。
「うん? どうしたの父さん」
久しぶりに家に帰ってくると、父さんがパンフレットを見ている。
「いやまあ。息子に言うことでもないが、ぼちぼち定年だったのだが、伸びてね。ちょっと考えているのさ」
「ああ。65歳になるのだったっけ?」
「そうなんだがなぁ。役職もなくなって、給料も減る分。気楽になるのは良いが、結構みんな辛いらしくてね。表だってはないが、ヤメハラという奴だな。下の者は、いるのならやってくれても良いじゃないと、仕事を持って来たがるが、役職がなくなり、守秘の観点からも関わるのは良くないんだよ。するとだな、今度はじゃまになる。まあわかりやすい話だな」
「それで、駆除従事者講習会のパンフレット?」
「ああ。体力的には厳しいが、浅い、上の方の階なら高校生でも大丈夫らしいからな。健康のためにも良いのかと。ふと思ってね。おまえは先輩としてどう思う?」
「10階までの浅い階なら、油断しなければ安全だけど、稼ぎとしては厳しいし。その点を考えると中級。11階以上が活動の場としては良いと思う」
「この年でも、行けるかな?」
「モンスターを倒すと、恩恵で体は強化されるから。最初はちょっと大変かもしれないけれど。何とかなるかも。本気でするならフォローするよ」
「その時は頼む」
確かに、そんな話はした。
だがなぜ、父さんがダンジョン側の僕の部屋に、初心者装備で立っている? そもそもどうやって、ああ、まあそうだよな。シンが許可を出したんだろう。
だが、奥の寝室には、彼女たちがいる。
来られてはまずい。
「父さん。ここへどうやってきたんだ」
必要以上に大きな声で。だが自然な感じで話しかける。
「ここは一体?」
「ここは、ダンジョンにある僕の部屋。攻略の都合で便利だから創った」
一瞬躊躇したが、ここは正直に話す。
当然石板に表示された『将の部屋』は見たはずだ。コントロールルームは、僕以外には表示されないようだった。
やがて、意図が分かったのだろう。寝室から、服を着た美樹が出てきて父さんに頭を下げ、ダイニングの方へ向かう。
「ここはあれか? チームで持っている部屋なのか?」
「そっそうだよ。うん」
「しかし、転移の石板に登録をしたら、いきなり『将の部屋』があったからびっくりして選択してしまった」
「そうだね。入り口だと他の階は表示されないから、ここしか出ないよね」
「だがそんな話は、協会の説明された中にもなかったし、どういう事だ?」
どうごまかそうと、困っていると、そう。来るよね。
「やあやあ、将のお父さん。初めまして。私はシンと呼ばれています」
そう言って、握手を求めてくる。
「ああこれは、初めまして将の父親で鬼司掌(しょう)です。ぐっ」
そう言って、握手をしたまま倒れ込む。
「シンおまえ。父さんに何を?」
「眠っただけ。父親と言うことは、君の能力に必要な何かの因子を持っている可能性がある。それに、ダンジョンに入るなら、多少メンテナンスをしないと、いけないだろう?」
そう言って、ヘラヘラと笑う。
シンが笑っている?
「頼むから、無茶はしないでくれ」
「当然だよ。君を悲しませるようなことは、しないよ」
そう言って、父さんを担いで、部屋を出て行く。
出て行ってすぐ、美樹がお盆にお茶とお茶請けを持ってくる。
寝室の方から、凪が何も着ず出てきて、バスルームへ向かう。
「あれ。お父様は?」
「シンが連れて行った。しかし、なんだか。色んな点で危なかったな。美樹はよく気がついたね」
そう言って、頭をなでる。
「さすがにあれだけ大声で、台詞棒読みなら、何かがあると気がつくわよ」
それを聞き、僕の膝から、なぜか力が抜けた。
ある変化が、遠く離れた小惑星帯で発生する。
遡ること10数年前。ある探査船が、太陽系を離脱した。
ニュースにもならない。些細なこと。
その微少な人工物は、微妙なバランスを持った空間を横切り、太陽系外に出ていった。その時、ほんのわずかな揺らぎを周辺に与える。
太陽から発せられる、太陽風。
太陽風は、太陽系の外縁部に達し、高速の星間物質との衝突や星間磁場により、減速されて末端衝撃波面を形成している。
末端衝撃波面は、恒星間物質などの影響によって太陽風の速度が低下し、亜音速になる地点。ここでは絶えず、圧縮、加熱、磁場の変化が生じている。そんな場所。
さらに、末端衝撃波面の外側は、低速度の太陽風と星間物質とが混ざり合うヘリオシースという領域を経て、ヘリオポーズで完全に星間物質に溶け込んでいる。とされている。そこを、宇宙の流れとしては予想外に、通り過ぎていった人工物。
そのわずかな揺らぎが、末端衝撃波面とヘリオポーズに発生し。その影響が、内側に存在する、カイパーベルトに及ぶ。そこに存在する、握りこぶし程度の隕石。その軌道をずらした。
そんな10数年前のわずかな出来事は、今。地球と火星の間にある、小惑星帯に影響を与えていた。
それが、一人のアマチュア天文マニアに発見されたのは、もう少し先になる。
「うん? どうしたの父さん」
久しぶりに家に帰ってくると、父さんがパンフレットを見ている。
「いやまあ。息子に言うことでもないが、ぼちぼち定年だったのだが、伸びてね。ちょっと考えているのさ」
「ああ。65歳になるのだったっけ?」
「そうなんだがなぁ。役職もなくなって、給料も減る分。気楽になるのは良いが、結構みんな辛いらしくてね。表だってはないが、ヤメハラという奴だな。下の者は、いるのならやってくれても良いじゃないと、仕事を持って来たがるが、役職がなくなり、守秘の観点からも関わるのは良くないんだよ。するとだな、今度はじゃまになる。まあわかりやすい話だな」
「それで、駆除従事者講習会のパンフレット?」
「ああ。体力的には厳しいが、浅い、上の方の階なら高校生でも大丈夫らしいからな。健康のためにも良いのかと。ふと思ってね。おまえは先輩としてどう思う?」
「10階までの浅い階なら、油断しなければ安全だけど、稼ぎとしては厳しいし。その点を考えると中級。11階以上が活動の場としては良いと思う」
「この年でも、行けるかな?」
「モンスターを倒すと、恩恵で体は強化されるから。最初はちょっと大変かもしれないけれど。何とかなるかも。本気でするならフォローするよ」
「その時は頼む」
確かに、そんな話はした。
だがなぜ、父さんがダンジョン側の僕の部屋に、初心者装備で立っている? そもそもどうやって、ああ、まあそうだよな。シンが許可を出したんだろう。
だが、奥の寝室には、彼女たちがいる。
来られてはまずい。
「父さん。ここへどうやってきたんだ」
必要以上に大きな声で。だが自然な感じで話しかける。
「ここは一体?」
「ここは、ダンジョンにある僕の部屋。攻略の都合で便利だから創った」
一瞬躊躇したが、ここは正直に話す。
当然石板に表示された『将の部屋』は見たはずだ。コントロールルームは、僕以外には表示されないようだった。
やがて、意図が分かったのだろう。寝室から、服を着た美樹が出てきて父さんに頭を下げ、ダイニングの方へ向かう。
「ここはあれか? チームで持っている部屋なのか?」
「そっそうだよ。うん」
「しかし、転移の石板に登録をしたら、いきなり『将の部屋』があったからびっくりして選択してしまった」
「そうだね。入り口だと他の階は表示されないから、ここしか出ないよね」
「だがそんな話は、協会の説明された中にもなかったし、どういう事だ?」
どうごまかそうと、困っていると、そう。来るよね。
「やあやあ、将のお父さん。初めまして。私はシンと呼ばれています」
そう言って、握手を求めてくる。
「ああこれは、初めまして将の父親で鬼司掌(しょう)です。ぐっ」
そう言って、握手をしたまま倒れ込む。
「シンおまえ。父さんに何を?」
「眠っただけ。父親と言うことは、君の能力に必要な何かの因子を持っている可能性がある。それに、ダンジョンに入るなら、多少メンテナンスをしないと、いけないだろう?」
そう言って、ヘラヘラと笑う。
シンが笑っている?
「頼むから、無茶はしないでくれ」
「当然だよ。君を悲しませるようなことは、しないよ」
そう言って、父さんを担いで、部屋を出て行く。
出て行ってすぐ、美樹がお盆にお茶とお茶請けを持ってくる。
寝室の方から、凪が何も着ず出てきて、バスルームへ向かう。
「あれ。お父様は?」
「シンが連れて行った。しかし、なんだか。色んな点で危なかったな。美樹はよく気がついたね」
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