辞表を出したら笑われた。退職届を出してダンジョンへ引きこもる。

久遠 れんり

文字の大きさ
45 / 56
第3章 成長期

第45話 ちょっとした事

しおりを挟む
 地球上が、そんな騒ぎを起こしている頃。
 ある変化が、遠く離れた小惑星帯で発生する。

 遡ること10数年前。ある探査船が、太陽系を離脱した。
 ニュースにもならない。些細なこと。

 その微少な人工物は、微妙なバランスを持った空間を横切り、太陽系外に出ていった。その時、ほんのわずかな揺らぎを周辺に与える。

 太陽から発せられる、太陽風。
 太陽風は、太陽系の外縁部に達し、高速の星間物質との衝突や星間磁場により、減速されて末端衝撃波面を形成している。
 末端衝撃波面は、恒星間物質などの影響によって太陽風の速度が低下し、亜音速になる地点。ここでは絶えず、圧縮、加熱、磁場の変化が生じている。そんな場所。
 さらに、末端衝撃波面の外側は、低速度の太陽風と星間物質とが混ざり合うヘリオシースという領域を経て、ヘリオポーズで完全に星間物質に溶け込んでいる。とされている。そこを、宇宙の流れとしては予想外に、通り過ぎていった人工物。

 そのわずかな揺らぎが、末端衝撃波面とヘリオポーズに発生し。その影響が、内側に存在する、カイパーベルトに及ぶ。そこに存在する、握りこぶし程度の隕石。その軌道をずらした。

 そんな10数年前のわずかな出来事は、今。地球と火星の間にある、小惑星帯に影響を与えていた。
 
 それが、一人のアマチュア天文マニアに発見されたのは、もう少し先になる。


「うん? どうしたの父さん」
 久しぶりに家に帰ってくると、父さんがパンフレットを見ている。

「いやまあ。息子に言うことでもないが、ぼちぼち定年だったのだが、伸びてね。ちょっと考えているのさ」
「ああ。65歳になるのだったっけ?」
「そうなんだがなぁ。役職もなくなって、給料も減る分。気楽になるのは良いが、結構みんな辛いらしくてね。表だってはないが、ヤメハラという奴だな。下の者は、いるのならやってくれても良いじゃないと、仕事を持って来たがるが、役職がなくなり、守秘の観点からも関わるのは良くないんだよ。するとだな、今度はじゃまになる。まあわかりやすい話だな」

「それで、駆除従事者講習会のパンフレット?」
「ああ。体力的には厳しいが、浅い、上の方の階なら高校生でも大丈夫らしいからな。健康のためにも良いのかと。ふと思ってね。おまえは先輩としてどう思う?」

「10階までの浅い階なら、油断しなければ安全だけど、稼ぎとしては厳しいし。その点を考えると中級。11階以上が活動の場としては良いと思う」

「この年でも、行けるかな?」
「モンスターを倒すと、恩恵で体は強化されるから。最初はちょっと大変かもしれないけれど。何とかなるかも。本気でするならフォローするよ」
「その時は頼む」



 確かに、そんな話はした。
 だがなぜ、父さんがダンジョン側の僕の部屋に、初心者装備で立っている? そもそもどうやって、ああ、まあそうだよな。シンが許可を出したんだろう。

 だが、奥の寝室には、彼女たちがいる。
 来られてはまずい。
「父さん。ここへどうやってきたんだ」
 必要以上に大きな声で。だが自然な感じで話しかける。

「ここは一体?」
「ここは、ダンジョンにある僕の部屋。攻略の都合で便利だから創った」
 一瞬躊躇したが、ここは正直に話す。
 当然石板に表示された『将の部屋』は見たはずだ。コントロールルームは、僕以外には表示されないようだった。

 やがて、意図が分かったのだろう。寝室から、服を着た美樹が出てきて父さんに頭を下げ、ダイニングの方へ向かう。

「ここはあれか? チームで持っている部屋なのか?」
「そっそうだよ。うん」
「しかし、転移の石板に登録をしたら、いきなり『将の部屋』があったからびっくりして選択してしまった」
「そうだね。入り口だと他の階は表示されないから、ここしか出ないよね」
「だがそんな話は、協会の説明された中にもなかったし、どういう事だ?」

 どうごまかそうと、困っていると、そう。来るよね。
「やあやあ、将のお父さん。初めまして。私はシンと呼ばれています」
 そう言って、握手を求めてくる。

「ああこれは、初めまして将の父親で鬼司掌(しょう)です。ぐっ」
 そう言って、握手をしたまま倒れ込む。
「シンおまえ。父さんに何を?」
「眠っただけ。父親と言うことは、君の能力に必要な何かの因子を持っている可能性がある。それに、ダンジョンに入るなら、多少メンテナンスをしないと、いけないだろう?」
 そう言って、ヘラヘラと笑う。
 シンが笑っている?

「頼むから、無茶はしないでくれ」
「当然だよ。君を悲しませるようなことは、しないよ」
 そう言って、父さんを担いで、部屋を出て行く。

 出て行ってすぐ、美樹がお盆にお茶とお茶請けを持ってくる。
 寝室の方から、凪が何も着ず出てきて、バスルームへ向かう。

「あれ。お父様は?」
「シンが連れて行った。しかし、なんだか。色んな点で危なかったな。美樹はよく気がついたね」
 そう言って、頭をなでる。
「さすがにあれだけ大声で、台詞棒読みなら、何かがあると気がつくわよ」
 それを聞き、僕の膝から、なぜか力が抜けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...