ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第四章 中等部

第50話 様子見と出会い

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 そいつは半透明で、気のせいか、こちらを覗き込んでいた。
 じわじわと、逃げようとするが、カミラの背中は傷口が妙に突っ張り、足は動かすことで激痛が頭の芯を焼く。
 その姿を見て、スライムのようにそいつが体を包む。

 自分の血が、そいつの体を染めて行く。
 そして、何か影響を与えるのか、うにょうにょと蠢く。
 そして、妹の顔が、目の前に出現をする。

「ローラ…… いえ、まさか」
 そう、妹は…… 三年前の流行病で死んでしまった。

 そして、気が付けば足の痛みが消え、立ち上がることができた。
 目の前で、無表情のまま立ち尽くす少女。
 首をひねり、不思議そうな顔をするが、何とか予備の服を着せる。当然だが、サイズが大きく布が余る部分を紐でたくし上げる。

 そうしてみれば、絶対に妹にしか見えない。
 カミラは、こいつは人では無いと理解をしながらも、此処においていくという選択を取れなかった。
 モンスターであることは判っている。
 でも……
 彼女には、無理だった。

 記憶に残るかわいい妹。
 探索に出る前、家の戸口に来て、心配そうに見送っていてくれたローラ。
 いまでも、時に幻視をする。

 病気になり、埋めてしまっても、仕事に出るときにはつい、家を振り向いてしまう彼女。
 それは、三年経った今でも同じ。
 まだ、いない事実に慣れない。

「連れて帰ろう」
 仲間はきっと、上階への通路口に集まっているはずだ。
 でも何とかして連れて帰る。

「行こう、ローラ」
 そう言って、妹のローラに手を伸ばす。
 彼女は、その手を取ってくれた。
「ローラ?」
「そう。あなたは、ローラ。私はお姉ちゃんのカミラよ」
「カミラ? ……」
「行こう」

 そうして彼女は、彼女を連れて上階へと向かう。

「おお。カミラ無事だったのか…… その子は?」
「迷子。私が連れて行くから大丈夫」
 余った布を頭からかぶせて、顔を見えないようにした。

「小さいから、荷運びの子供か。こんな深いところまで。おれは、チームリーダのロイスだ。無事に連れて帰るから大丈夫だ」
 そう言って、二十三歳の強面のオッサンがにっこりと笑う。
 子どもを、その笑顔で泣かせるのが得意技のロイスだ。

 顔を見て泣かなかったことに、彼は気を良くする。

「他の連中は?」
「どうかな…… メリルは確実に奴。ガルーダに持ち上げられた」
 奴が連れて行った者を、どうするのかを知るものはいない。

 それから、一時間ほど経ったが、現れたのは斥候のベルナルトのみ。
 他、ルードルフとマリルーも帰ってこない。

「どうする? 周囲を見るか?」
 ベルナルトが、ロイスに聞く。

「近場だけ、ぐるっと見てくれ」
「わかった」
 そう言って、あっという間に姿を消す。

「みんな、逝っちまったか」
 そう言って、顔を被いながらしゃがみ込むロイス。

 顔は怖いが、以外と彼は涙もろく、情に厚い。
「周囲は見とくわ」
 気を使って、カミラが口をきく。

 大体そう言うときには、厄災がやって来る。
 ワイバーンが、調子に乗って突っ込んでくる。

 人間などひ弱な存在。
 倒せる人間などはあまりおらず、岩場に隠れ、やり過ごすのが普通。

 だが、そのワイバーンは、胴体が上下に分かれた。
 それをやったのは、小さな少女の格好をした何者か。
 カミラは、それが落ちてきて気が付いた。
 見たことの無い物体。

 首から続く所には、背中の上部がくっ付いているが、翼などは、胴体側。

「うきゃあ。なになになに……」
 カミラはそっと近付くと、物が何なのか確認をする。
 
 見たことのない物。
 無論飛んでいるのは何度も見た。
 だが、こんな姿は当然見たことがない。

 当然、目を真っ赤にしていたロイスも、目を見開き固まって居た。
「なっ、なんじゃこりゃあ」

 周りをぐるぐると回り、さすがチームリーダー気が付いたようだ。
「わっ。わいばーんじゃないきゃぁ」
 あわてて、これをやった犯人を捜すため、空を見つめ始める。
 口を開け、強面のオッサンがクルクルと回る。

 十回ほど回り、気が済んだようだ。

「採れる物は取ろう」
 放っておいても、消えてしまうだけ。
 何とか、皮や使えそうな所を切り始める。

 当然、全部は無理だ。
 人数がいれば持てるが、三人しか居ない。
 いや、あの子どもを入れれば四人。

 狂ったように、はしゃいでいるロイス。
 戻って来たベルナルトも、あっけにとられる。
 悲しい出来事と、思ってもいない幸運。

 ワイバーンの皮などは、かなり良い値段で買い取りがあるはずだ。

 ベルナルトは、解体に加わる。
 肉は、食えないことはないと言うが、かなり臭みがあり、目の前で幾度も人間を食うのも見ている。
 だが、美味ければ食うだろうが、少し匂いを嗅いでやめた。

「他の奴らは?」
「谷も見たが、いなかった」
「そうか……」

 ロイスは、喜びで悲しみを封じるようだ。
 当然、それで忘れることなどは、出来ないだろうが。
 最悪のみよりは、ずっとましだ。

 そしてメンバーが減り、しばらくはまともな仕事が出来ない。
 その事を考えても、このワイバーンは恵みといえる。

 そんな騒動があった頃、マッテイスが嫌そうな顔をして書状を眺めている。
「どうした?」
「フィリップ商国へ行けってさ。道中アルノシュト王国の動向も見るようにと」
 先日から耳に入っていた、ダンジョンでの毒騒ぎ。

 なんとなく、理由は分かる。
「行くか…… 王命だろ」
「ああ……」
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