ツキも実力も無い僕は、その日何かを引いたらしい。- 人類を救うのは、学園最強の清掃員 -

久遠 れんり

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第五章 人は生き残れるのか?

第89話 反撃? いや逮捕

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「これを見てください」
 目の前には、水晶の板があり、それを見つめる王や第二王妃オルネラと王子達。

「セキュリティの関係上、近親者だと魔導パターンが似るため、困ると思い、第一王女セリア様、第一王子アルベル様、第二王女リリー様のパターンを採取したのですが。この通りです」

 そう、この屋敷を含めて、町の到る所に主要人物のパターンを読む、セキュリティ装置を配置してある。
 登録してあるユーザー以外だと、反応をして警告ランプが付く。

 王都のクーデター後、何かの加減でこちらに来られたとき、王子達がセキュリティをパスすると困るので、魔導パターンを採取して、要注意者で登録をする予定だった。
 必要ないが、王妃も一応取ってある。

「これが王妃マティルデ。この赤い部分が、すべての子供にあります」
「ああ、あるな」
 王がふむふむと納得をする。

 次に水晶板上に、王の名前が出る。
 その下にパターン。
 パターンは基本、王冠状の波形として表示される。

「これが王様のパターン。見てください。第一王女セリア様には、王様のパターンが入っています」
「ああ、この青の部分か?」
 その瞬間、わずかだがオルネラさんの眉間に皺が入る。
 
「ええ、そうです。色分けを行いました」
 第一王女セリアにあった、青い部分が、第一王子アルベルと第二王女リリーには存在しない。

「二人には無いな……」
「ええ、無いんですよ。ちなみに、これを」
 第二王子デリックと第三王女アドリアーノの名前が出る。
 すると、赤が消え、青の部分が出る。

「当然、オルネラ様の御子ですから、赤の部分は無く、青のみです」
 注目をしていた全員が、石板から視線を離し、ため息を付く。

「と言う事はあれだな」
 もう説明をしなくとも、皆理解ができている。
「そうですね。彼らは、単なる簒奪者。王妃マティルデは王様を裏切り、密通みっつうを行っていたようですね」
 シンが説明をすると、オルネラ様からぼやきが出る。

「セリア様も違っていれば良かったのに……」
「まあ、そう言うな」
 王が頭をなでる。

 女の嫉妬が漏れ出たようだ。

「さあてと、どうします? もう大抵狼藉者達のリストはできました」
 どさっと、綴られた紙がテーブルに置かれる。
 多少今の事実が、王に衝撃を与えたようだ。
 頭を抱えている。

「宰相を。ミシェルを呼んでくれ」

 センシティブな話のため、宰相は入ってきていなかったが、王は決断する。
「王子達は私の子では無い事が分かった。王妃も不義密通の罪。逆賊共を滅せよ」
「はっ。御意に…… と申しましても、シン殿にお願いせねば何ともできません。王都から抜け出した近衛達すら、今は、シン殿の私兵兵団所属となっております」
 王は思い出す。

「そうだった、シン殿。力を貸していただきたい」
 王がガバッと頭を下げる。

「良いですよ。兵達をお返しします。新型の装備も試してみたいし、王都は殲滅でよろしいのですか?」
「もう腹を決めた、旧王都だな。遷都の触れを周辺国に出して、それと同時に攻撃をしよう。中の奴らは罪人のみだな?」
 宰相が胸に手を当て、うやうやしくお辞儀をする。
「はい、選別をして、善良者はこの町に引っ越しております」

 王が計画を立て、わずか半年で殲滅が決定。
 移住をさせるのに多少時間がかかったが、移住者から評判は上々だという事だ。


「では、出発をしよう」

 王都周囲に設置された、転移用の魔道具。
 そこに、兵達が飛んでくる。

 いきなり数千の軍勢に囲まれた王都だが、気が付く者はいない。
 大門の所ですら兵が立っていない。

 店が引き上げ、流通が滞り、訪れる人すら、ほとんどいなくなっていた。
 そう町自体が死んでいた。

 中に居る者は、それすら気が付かない……
 いや気が付かない振りをして、やり過ごしている愚か者達。

「酒だ、酒を持ってこい」
 それを聞いて、走っていくのは、間者として残った者達、眉をひそめながらも仕事をする。
 真面目に働く者が居なくなり、間者達がいなくなれば、とっくに王城の機能は終わっていた。

「今日だな?」
「ええ仕事としても、もううんざり。ほっとするわ」
 そう過酷な潜入などを行っている、間者達でもうんざりする状態。
 王城の上部階では、酒と体液の匂いが充満。
 嬌声と、笑い声が響き渡る。

 王妃は隠す気が無くなり、媚びへつらう若い男に体を任せていた。
「そうねぇ、近衛でもする? 隊長を任せるわ」
「王妃様、ありがとうございます。頑張ります。こうでしょうか?」
「んっああっ。そうそこよぉ」

 とまあ、サバトと言えば分かりやすいだろうか?
 王妃という魔女が場をしきる、妖艶な現場。

 もう近衛の隊長は、十人を超えて存在するのではないだろうか?

 その頃すでに、王都の外縁から制圧が始まっていた。

「この魔導通信装置良いですね」
「離れている所の兵が、今どう動いているのか分かる」
 いくつかの魔導具を利用し、戦術情報システムが構築されていた。
 各隊長の魔導パターンを登録し、それが石板に表示される。
 魔導通信機を用いた直接命令。

 各人の特訓により、自身がバッテリーとなっている。
 体内魔力を、各魔道具が使う。
 シンが創り、試したとき。
「魔石は枯渇すると困るし、体内魔素で十分だろう」
「そりゃシンは平気だろうけど……」

 訓練をしていない人なら、五分で魔力枯渇が起こり、頭痛と吐き気コースだろう。
 彼らは訓練初期に、ひたすら繰り返しそれをされて、今は大分体内魔力が増えている。
 モニカとヘルミーナ達は、兵から最も恐れられる存在となっていた。

 彼女達は笑いながら言う。
「あなたたちの本気はそんな物なの? 男だし若いんだからもっと出しなさい」
 魔力枯渇、そして復活。また……
 
 上から下から色々な物を垂れ流しても、浄化一発。
 もうだめだと思うと、王が見学に来る……
「頑張っているかね」
「「「「「はい」」」」」
 兵達は、泣きながら頑張った。
 三ヶ月の速成強化。

「あの苦しみは今日のため。恨みも受け取って貰おう」
 兵達からとばっちりの恨みまで買って、王妃達は追い込まれていく……
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