はい。ちゅうもーく。これから異世界に向かいます。 - 私立徳井天世高校の修学旅行 -

久遠 れんり

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第二章 冒険者時代

第30話 救いの光

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「冒険者だ、討伐に来た」
 忙しいので適当。

「周りを囲む奴ら、じゃまだな」
 一匹のオークに対して、数人がたかってる。

「よし無視だ」
 そう言って、彼らは奥へと走っていく。

 奥は、モンスターの数も多く、修羅場状態。
 前に突っ込んだ、冒険者達の亡骸も転がりまくっている。

「うげっ、これはキツいな」
 ぼやく奴らに言い放つ。
「お前、自分が行きたいって言ったじゃないか、ゾンビだから、何だっけ? なんかゲームみたいだって」
 そう、行きたいと手を上げた田中や長谷川達。

「ああそうか、没入型の3Dだとこんな感じだよな、すっげー」
「切られたら死ぬし、臭いし最悪だけどな」
「それが良いんだよ。クソゲーだけど」

 そんな軽口がでるほど、ひどい現場。
 人間はそうやって心を安定させるようだ。

「気持ちだけだが、成仏をしてください」
 願いながら、皆が浄化を行う。

 いやほんと、匂いを消そうという試みだった。
 その光は、惨劇の元となったモンスター、つまりオークに当たると、そいつらを燃やした。

 そして、人々の怪我を治して、心を癒やした。
 らしい……
 これは後で聞いたことだから、その時には判らなかった。
 誰とも無しに、始めた浄化。
 それを見た皆が浄化を使い、連鎖的に広がった。

 まあ、血でドロドロの山の中、死体と匂い、皆が浄化を使ったのは理解できる。
 だがそれが、あそこまで強力な魔法になるとは思わなかった。

 ええそうです、神野が持っている『義』の玉、そいつが何かをした様だ。
 仲間の願いを力に変えて、敵を滅する。

 多分力を与えた先生は、ニヤニヤしてみているだろう。
「あらあら、かわいい生徒達、頑張りなさい」
 そう言って。

 その光景は奇蹟として、サンドウ皇国の兵の中で広がっていく。
 インセプトラ―王国からやって来た、奇妙な格好をした冒険者達、彼らは奇蹟を見せたと。

 無論、町で待機をしていたヘイド=ハンター準男爵達も、その噂を聞いたが、それが神野達のことだとは、思わなかった。

 救い出した人達に感謝をされながら、町への帰還。
 本当なら、もっとこう言うときにはお通夜のような雰囲気なのが普通。

 モンスターに飼われて、繁殖用の道具とされていた者達、食われる順番待ちをしていた者達、大抵、恐怖などで壊れているか、ひどいトラウマを背負って救出をされる。

 だが今回は、助かったと言う事に対して素直に喜びがでていた。

 救われたと……

 その反応は、町の人にも変化が現れる。
 今までなら、教会へ直行、そのまま隔離をされ、人知れず亡くなっていた。
 だが今回は、素直に家族が居るなら家族の元へ、独り者なら教会へ行き、他の町のものなら、支援金を受け取り、帰って行った。

 そう元の生活へ早く帰す。
 その事により、絶望へと沈ませない。

 以後、日々忙しく生活をする。
 教会に籠もり、絶望の生活をひたすら思い出し、沈んでいく生活とは違う。


 謎の冒険者達は、それにより感謝されながら送り出されていく。
 調査隊の面々は、自分たちが送り出されるようなイメージを受ける。
 そう調査にでるときも、静かに送り出された。

 普通、敵地へと向かうときなどは壮行会が行われる。

 だがそんな役目でもなく、騒げばゾンビを引き寄せてしまう。
 それはそれは、静かな送り出し……
 そして、サンドウ皇国へ入るときからずっと病原菌扱いの辛い日々。

 だが、彼らとの旅は全く違う。
 出立時には、町の人達が見送りに来て、声援が投げかけられる。
「道中に食え」
 そう言って手土産まで持たされる。
 無論対象は、彼らではないが、それで十分だった。

 彼らは、知らず知らずに曲がっていた背中が、ピンと伸びて歩き始める。
 
 その行列の近くで、お仲間が死にかかっていたのだが、残念ながら気がつかなかった。
 その両者、まるで光と影であり、差は悲しいほどだった。


 その途中でも、いくつかの問題を片付けながら、彼らは国境へとたどり着く。
「おおい、そこの者達どこへ行く、そちらはダイモーン王国。今は病気が蔓延して向こうに行くと戻ってこられなくなるぞ」
「あー」
 なんと答えようかと考え始めると、颯爽とヘイド=ハンター準男爵が割り込んでくる。

「彼らは、インセプトラ―王国の冒険者達。我らが依頼をしてご足労を願ったのだ。つまらないことを言って、止めないでいただきたい」

 そう言った瞬間、彼らの顔が曇った。
 かわいそうな奴らだ、どう頼まれたのか判らないが、もう帰ってくることはないだろう。若そうなのに、残念だ。
 そんな意識が、彼らの表情からダダ漏れ。

「そうか…… 気を付けていけ」
「達者でな」
 口々に、兵から言葉がかけられる。

 そして鉄板を張った、重そうな扉が開かれる。

 その時、ドアの影にいたのだろう、ゾンビが一匹飛びかかってきた。
 まだ若そうな男の子。
 俺たちの前に出てきて、つい反射的に張った浄化の光に触れる。

 一瞬だけ苦しみ、表情が和らぐ。
 その後笑顔に変わり、嬉しそうな顔のまま、まるで灰のようにもろもろと崩れて行った。

 骨すら残らないのはあれだが、エグい感じがなくって良かった。

 そう俺達は、そんな感想で済んだのだが、驚いたのは門番達。

「見たかあれ、奴らが、笑顔になって消えていった」
「教会の奴らでも無理だ」
「馬鹿野郎教会の奴らなど役に立つか、彼らはきっと神だよ、教会のようなまがい物じゃなく」
 教会の評価は、こうしてそっと落ちていく。
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