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第4章 少しずつ変わって行く世界

第42話 灼熱の国

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 その日の日本は、そろそろ梅雨入りしようかと、空が企みだす少し前。
 よくある良い感じの天気だった。
 朝から、家の皆はインドへ行くため、ウキウキしている。


 だが彼らは知らない。6月のインドにおいて、普通の日本人は暮らせない世界だと。

 ただ浮かれていた。
 そう、インドはすでに雨季。日中は40度を超える。

 ガイドブックにも、『観光は、この時期を避けた方がいいでしょう』と明記されている。

 そんなところへ、全員集合して行こうというのだ……。

 なぜか、最近。午前中は寝ている美月も「懐かしいわね」と言って参加となった。
 フェンとフレイヤも、ついて行くとノリノリだ。
〈今回ダンジョン探査は無いぞ〉
〈気にするにゃ〉


 11時50分になり、ゲートをくぐる。
 ゲートをくぐった瞬間に、もわっと感じる湿気。
 9時AMなのに、すでに30度近い気温。
 ここはインドの中央。ナーグプルの外れにある自然公園。
 蚊が怖いので、全員体の周りに薄いシールドを装備中。開発した専用の虫よけ魔道具である。
「まずは、ちょっとお仕事だ」
 一司はそう言って、ぽつんと立つ2人へと向かう。
 立っている二人は、一般的な褐色人種。

「Mr.神崎?」
「ああ」
「大人数なので、驚きました」
 男の一人が言ってくる。
「割り増しにはならないから、安心してくれ」

「私は、通訳のクリシュナ・ラム・クマリです。彼が、協会のエージェントでシヴ・グル・シングです」
〔観光もしたいから、さっさとマップをくれ。国内の野良モンスターの殲滅でいいんだよな?〕
 そう言うと、2人が驚く。
〔はい。私たちも、そう聞いています〕
 言葉が分かるじゃないか。なんで通訳が必要だと連絡が来たんだ? クリシュナは悩む。
〔じゃあ始めようか〕
 意識を広げて、マッピングする。
 この位の湿気なら、大丈夫だろう。

「ガーン」
 という音とともに、インド国内に雷の雨が降る。
〔確認してくれ〕
 なんだ今の? 世界が白くなった。
〔はっはひ。確認します〕

 エージェントが、あたふたしている。シヴってシヴァ神だよな。普通にそんな名前が居るのか。

〔神崎様は、この国へ来るのは初めてですか?〕
 復活したクリシュナが、問いかけてきた。
〔ああ、初めてだ〕
〔この後観光するとのことですが、少し注意を。店の開店は提示された定時より1時間程度遅く開くと言う事と、閉まるのは時間通り。道を聞いても、教えることを優先するため、合っているとは限りません。それに食事は…… 日本人の方だと、おなかを痛くすることが多いようです。ホテル併設の店で、食事する方がいいでしょう〕

〔そうなのか? 店の開店が遅いというのは?〕
〔私たちは、国際的組織に属していますから、9時と言われて少し早めに来ていましたが、一般の人なら、大体…… 今、家を出るくらいか、下手をすると今起きるくらいでしょう〕
〔わかった。基本が、ルーズなんだな〕

〔Mr.神崎。確認が取れました。いやあ素晴らしい〕
 シヴが大興奮だ。
〔それはよかった。この時間に、開いている店を教えてくれ〕
〔〔ちょっと、待ってください〕〕
 おう、二人の声がそろったな。

〔食事? どこがいい?〕
〔この時間なら、朝食時間だが、ホテルは宿泊客優先じゃないのか?〕
〔かといって、普通の店はやばいだろう〕
〔そうだ、グルメガイドサイトの上位の店なら、国際的要人が飛び込みと言っても、対応できるのじゃないか?〕
〔ちょっと、連絡してみよう〕

 シヴがあたふたしながら、サイトで見かけた店に連絡するようだ。
〔世界ダンジョン対策協会。シヴ・グル・シングと言うものだ。アメリカ大統領の友人一行が来ていて、案内をしたいのだが、対応できるか? ちょっと待ってくれ。神崎メニューは何がいい?〕
〔できれば、ランチメニューがいいな。日本は昼だったんだよ〕
〔分かりました。 ああすまない。ランチメニューで12人分だ。……わかった、よろしく頼む〕
 そう言って電話を切ると、
〔対応できるそうだ。1時間ほしいとは言われたが〕
 通訳のクリシュナと、ごちゃごちゃ言っているな。

〔じゃあ、バスを回して来る。ゆっくり来てくれ〕
 そう言い残して、シヴが走っていく。

 その様子を見て、なんとなく察した。
〔なんだか、無理を言ったな。悪かった〕
〔いいえ、対応できるようです。バスを回しますので、こちらへどうぞ〕
 一司は手招きをして、みんなを呼ぶ。
 だが、すでに暑さにやられてきているようだ。

 ぞろぞろと、駐車場へ向かって歩きはじめる。
 バスに乗り、走り始めるとエアコンが効いてきた為。みんな少し復活したようだ。
 日本だと、まだ作っている最中だろうと思えるような道を進むと、住宅地とビルが見え始めた。
〔インドのほかの都市は、もっと近代的ですよ。ここは、中心だと言っても地方なので、こんな感じですが、ムンバイやデリーは高層ビルがどんどん建っています〕
窓の外を眺めていると、クリシュナが教えてくれる。

〔気温を考えると、緑が多いほうがいいのじゃないか? コンクリートで固めると、人間が住めなくなりそうだ〕

〔そうですね、ムンバイとデリーはプラス5度で、この時期40度近いですね〕
〔それで、人間大丈夫なのか?〕

〔インドは13億人を超えて、増えています〕
 そう言って、びしっと親指を立てるクリシュナ。

 インドは気温も、人間もすごいな。

 そして1軒のホテルに、バスは到着した。
 迎えに出てきた関係者は、俺たちを見て思っていたのと違うというのが顔に出ていた。まあアメリカ大統領の友人? には、違いはないぞ。文句があるなら、本人を攫ってくるぞ。
 まあフレイヤとフェンにも、文句は言われず。個室が作られていた。
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