俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。

久遠 れんり

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第一章 少年達の日常

第9話 冷酷鬼

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 冷酷鬼は三日経ち、流石におかしいと穴蔵から顔を出した。
「おいてめえら、四鬼を探せ」
「へい」

 それは、命令をするためのわずかな時間。
 だが、目は見ていた。

 祭家の分家筋。
 その中に、他者の目を乗っ取る者が居た。
 操るだけでは無く、そう体を奪う。
 それは暗殺にとっては非常に便利な力。

 対象は生きとし、生けるものすべて。

 何者も彼の目からは逃れられない。
 だが、その弊害がある。
 接続をした何万もの画像を処理するのは、一人の脳では無理だ、桁違いの処理量。

 まるで、某有名ネット通販を処理する、サーバーのような状態。
 ノード数は星の数ほどになる。

「見つけたぞ。住所は闇降り町、十三番地。マンション魔窟。全体がアジトのようだが対象は地下に居る。三階の三一五号室から専用通路がある様だ。エレベーターなら、一階一階十階十階、開閉開閉、緊急ボタン。相手が出たら『おれだ』と言うキーワード」
「そうか判った。みんな住所は判ったな。エレベーターについては、ボタン連打はフェイク。オペレーターの操作が必要らしい。先にそっちを探せ」

 それを聞いて呆然とする、祭 生司まつり せいじ
「ちぇ、なんだよ。うぜえ」
 彼は、通常の訓練を行い始める。
 彼は、屋敷の警備が主な仕事。
 そう、彼こそが本当の自宅警備員。

 そして特訓という名の覗きを始める。
 恐ろしいことに、彼は感覚までも共有できる。
 つまり最も進んだVRでもある。

「今日はいつもより、いまひとつだった」
 そう思ったときは、エッチの感覚が盗まれているかもしれない。

 彼はこの性癖に拘ったからこそ、力を得た。

 さて場所は、彼らのアジト。
「マンション魔窟。此処だな。三階の部屋は?」
「三一五。サイゴです」
「了解。いくぞ」

 あらかじめ打ち合わせはしている。
 彼らは無言で静かに作戦を開始する。
 作戦時の会話や、ハンドサインは敵に読まれる可能性がある。

 それにわずかな動きの停滞は、積み上がると結構な時間となる。

 住宅地を、違和感満載の集団が、道の右端をきっちり並んで移動する。
 法は守らなくてはいけない。

 ザッザッザっと移動をして、建物の正面に付くと、姿がかすむほどのスピードで持ち場につき始める。
 無音なのは、能力では無く、特殊な靴底。
 昔は、クジラを使ったが、最近は使えず多少性能が落ちたとか。
 クジラ革は、特攻隊の半長靴はんちょうかにも使われていたらしい。

 だが、今の物でもほぼ無音。

 彼らは、小刀で玄関扉の枠ごとチェーンとデッドボルトを苦もなく切断する。
 デッドボルトとは鍵を閉めたときに出てくる棒のこと。ドアが閉まるための出っ張りはラッチボルトという。
 無論、二つともスカッと切る。

 そしてドアを開けたとき、落ちる部品を空中で捕まえる。
 中は一見普通のLDK、相手が気が付いたときには、すでに死んでいる。
 壁の裏など、玄関からの死角も、侵入しつつきっちりと殺す。

 寝室の奥、押し入れを開けると、奥の壁をスライドさせる。
 光感知のセンサーを潰し警報切る。

 そして彼らは、地下へと降りていく。
 不思議なことだが、監視カメラに彼らの姿は映っていない。
 そう、水に関わる家の者が働いている。

 冷酷鬼は、能力者特有のプレッシャーが近寄ってくることに気が付く。

「ちっ」
 日本へ来てから、すぐに捕まえた少女を盾にする。
 コイツは、末端が献上品だと言って連れてきた相手。
 日本人では無い。

 彼女を、通路と自分の間に立たせる。
 そう肉壁と呼ばれるもの。
 それを理解したのか、彼女は泣き始める。

 その瞬間、背後に大きな力が発生する。
 すぐに能力を発動させようとするが、発動しない。

 そして無敵を誇った彼は、いとも簡単に拘束をされる。
 無論手枷は、能力を封じる魔封じ付き。

 そして、祭 導示まつり どうじは少女の目を見る。
 それは何処までも深く、ただ彼女の瞳を見る。
 それに気が付いた彼女は、抵抗を始めるが、すでに封じられていた。

 彼女は素人ではなく、彼に潰されかけ、地下へ潜った組織の者。
 それが彼女。
 長老の命令で、コイツを殺す隙を見ていた。
 だが機会が無く、幾度も抱かれてしまった。

 後に、我々に対して、そんな自供を行った。

 
「なんと、あの強力な冷酷鬼がこうもあっさりと…… やはり日本に手を出してはならん」
「千年の昔、我らの先祖は彼の国へと手を出し、逆に滅ぼされかかった」
「愚直に訓練をして、粒の揃った力ある集団」
「そう一人や二人くらい力があるのものが居ても、数にはかなわん。何かあれば奥義だと言って秘匿しては、組織としては強くなれん」
「社会と同じですな。金を払って教えを請う」
「そうじゃな。ケチれば粗悪な偽物ばかり出来上がる」

 二人の男達は笑い合う。
 双璧と呼ばれた組織。
 冷酷鬼が潰したはずだが、そんなに甘くはなかったようだ。

 そんな騒動の頃、アイス争奪戦。水球? のような戦いがプールで繰り広げられていた。
「じゃあ出るとき、鍵をかけとけよ」
「はーい」
 昨今プールでの死亡事故とかが有り、厳しい世の中だが、この町は少し違う。
 水に関わる家が申し出た場合、拒否してはならず、見てもいけない。

 つまりヤリ放題。

 生徒達の帰宅中、プールの方で水柱が上がる。
 この日、雫は水祭家の者として負けてはいけない戦いに負けた。
 
「あんなの…… 私の所為だと思うでしょ。いじめっ子の颯司が…… はじめって言った瞬間…… プールの水がなくなったの。いくら何でも、あんなの勝てるわけないでしょ。単なるハンドボールじゃない。見なさいよ。胸が膨らんじゃったわ」
 雫がそう言って、颯司に見せつける。
 見せてはいけないギリギリまで。
「―― 陸斗、あんたは見るな」
 覗き込んだら、超高圧の水が、陸斗を襲う。
 当たれば失明ではすまず、眼空を洗われる勢いだ。


 そして、屋台風の店先にあるテーブルに座り、みんなでわいわいと言っていた。

「ひでえなあ。俺は気にしないぞ。大きさなんか」
 陸斗が何かを言ったらしく、女子二人に睨まれる。

「あんたは付いてればなんだって良いんでしょう。颯司だって気にしないわよ。ねえ」
 呼ばれた名前に反応して、生返事を返す。

「うん? ああそうだな」
 その様子に、少し反応する雫。

「大きい方が良いの?」
「うん? ああそうだな」
「私のこと好き?」
「うん? ああそうだな」
 心ここにあらずで朱莉の質問に答えたら、雫に殴られた。

 俺が見ていたのは、外人さん。
 それも金髪で、少し遠くて見づらいが青い目?
 なぜか、忍者の装束で歩いていた。
 俺には分かる、彼女は能力者だ。

 あっ、質の悪そうな男二人に絡まれた。
 俺は助けに向かう。
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