俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。

久遠 れんり

文字の大きさ
16 / 55
第二章 異物混入

第16話 朱莉の変化

しおりを挟む
 一応、朱莉を守りつつ、青坊主を探る。
 その風に反応がある。

 背中を向けたままで、雫が来たことを確認し、次の瞬間音もなく颯司が消えた。

 途中にいた、野良の鎌鼬も狩り、ついでに青坊主を狩る。
 その直後に、陸斗が現れる。
 そう来ていたのは知っていた。
 だからあわてて狩った。

 スマホへと通知が行く。

 力を何とか制御出来始めた颯司、あの時にできた精霊化ができないのは不思議だが、前の五割増しなら楽勝で制御ができる。


「狩っちゃったみたいよ。帰ろう」
「うん」
 そう答える、朱莉の様子が少しおかしいことに、雫は気が付かなかった。

 朱莉は朱莉で、暴走を始めた颯司への思いが、胸の中でどんどん大きくなっていく。
 ただの幼馴染み。
 もう力使いの家系で、兄妹のように仲良くあそんだし、修行もした。
 そのおかげで、滝行のときなど、みんな裸で修行をした。
 体が変化をはじめ、陸斗にみられるのは嫌になり、颯司にみられると少し恥ずかしくなった。

 でも今日。私の心が奇妙な反応をした。
 恥ずかしい気持ちと、もっとみてほしい。
 そんな、相反する気持ちがわき上がり、それは甘酸っぱく……

 心臓が、激しく鼓動をする。

 帰る途中……
「あれっ。炎が、制御出来ない」
 手足から、炎が不意に噴き出す。
 あわてて雫が、周りを囲む。

 家の方へと帰ってきて、もう住宅地が近い。

 いつもの訓練場は、住宅地から五キロは離れているが、公園からなのでもう随分帰ってきている。
 やばい。

 雫は火祭家へと急ぐ。

「おじさん、おばさん」
 任務で出ていないことを祈りながら飛び込む。
 門を入った所にあるかがり火が、侵入者を家人に知らせる。

「うん? 誰かと思えば思えば、水祭の雫ちゃん。元気?」
「元気です。だけど朱莉が大変なんです」
 出てきたのは、火祭 極武ひまつり きわむ朱莉の兄であり三個上。
 高校生。

「ああ、あれか」
 気配を探ったのか、状況が判ったようだ。
「雫ちゃん。もういいよ。こっちで何とかする。ひょっとすると明日は休むからよろしくね」
 怪訝そうな顔をする雫に教えてくれる。

「体ができあがったら、封印が外れるのさ。俺より一年も早い。妹ながら朱莉はエッチなようだ」
 そう言って笑う。

「封印……」
 そう言って佇む雫。

「聞かされていないのか、その内分かるよ」
 そう言って手を振られる。
「警察に捕まらないようにね」
「はい」

 少し考えながら、雫は家へと帰る。
 無論、水による迷彩は発動中。
 普通の人なら、姿が見えない。

「封印って、なんだろ」
 その晩、それが気になり、雫は寝られなかった。


 極武は、水に囲まれている朱莉を連れ、家へと帰る。
 家の裏手にある、修行場へと連れて行く。
 浮島のような四角い石板の上。

 そう、みんなが通った特訓場。
 他の能力とは違い、炎は周囲に与える影響が大きい。
 ここなら、幾ら燃えても安全。

 水を払うと、すでに服は焼けてすっぽんぽん。
「制御出来るまで、母屋へは入るなよ」
 そう言い残して、極武は帰って行く。

 ひんやりとした特訓場。
 能力が発現をしたとき、ここで暮らした。
 でもあの時は、お母さんが付いていてくれた。
 今は一人。
 暗く、水の音だけがする。
 冷たい石は、体温を奪うが今はそれが気持ちいい。

 ぺたんと座り込み、こうなったときを考える。
 トイレで気を抜いていたら、青坊主が出てきた。
 それで驚いて、ズボンを汚した。
 片付けを雫に任せて、洗っていたら、颯司が来て……
 みられたよね。

 私、色々怪我とかしたけれど、体、おかしくないよね。
 恥ずかしいよりも、どう見られたかのか、その方が気になり始める。
 雫より、少しお尻がおっきいし。
 足だって太いし……

 あそこの毛だって、薄いし。
 見た瞬間の驚いた顔。
 あれはどういう顔だろう。

 そんなことを考えると、心臓はドキドキして、また炎が制御ができなくなる。
 中途半端に壊れた封印が一番危険。
 制御ができないからだ。

 うー。気になり自分の体を確認し始める。
 成長途中の未熟な体。
 変化は途中。
 まだウエストなどは、幼児体型。
 颯司のことばかりが気になる。

 身近で気になる男性。
「どうしてだろう、触れて貰いたい?」
 ドキドキが加速をする。

「颯司…… そうか、私颯司のことが好きなんだ」
 答えを思いつき、それを認めた事で、心が変化をする。
 割れかけた封印はその時はじける。

 秘めた力が、炎となり、特訓場を埋め尽くす。

 その炎は、赤から白へ、青みを増しその温度は上昇をする。

 御影の石板が赤熱し表面が溶け始める。

 タイル状の石の端は水に触れているが、沸騰し蒸発を始める。
 その蒸気は湿気となり、熱を奪うだが、それよりも供給が多い。

 その時、朱莉は颯司に触れられたら、どんな感じなんだろうと、それに夢中になっていた。

 朱莉の発する超高温は、周囲の流れから液体を奪ってしまった。

 翌朝は、特訓場の石板が溶けて蒸発し、流れ込んだ水の風呂に浸かっていた。
 丁度、発する高熱が冷やされて、気持ちがいいくらいだった。
 だが、体は動かず、学校は休んだ。

 今、颯司に会えば、私はきっと周りを燃やしちゃう。
 無論炎は制御ができる状態だが、制御する心が制御できなくなっていた。
 早熟な恋心。
 アマンダの出現により早まってしまった、心の連鎖。
 それが、思いもよらない危機を、解決をする事になる。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...