俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。

久遠 れんり

文字の大きさ
23 / 55
第三章 暗躍する者達

第23話 世の中は夏

しおりを挟む
「くそ暑いこの気温の中で、私は一人この道を歩む。それは絶望とも、希望ともいえる。師曰く、加点をしてやるから補習中は起きていろと……」

 道行く人が私を見て笑っているように見える。
 アイツ、夏休みなのに学校へ行ってる。
 間違えたんだぜきっと……

 私には分かる、きっと言っている。
 睨めば、蜘蛛の子を散らすように消えていく。
 そう部活の奴らは、ユニフォームを着ている。
 学校に向かう道、制服は我一人。
 その足取りは重く、自分の体じゃないみたい。

「おう来たか、お前のおかげで出勤だ…… 何か思わんか?」
「気にせずに、休んでください」
「良いのか? 中学校で赤点。一生残るぞ」
「ええっ? 先生の御心でちょろっと加点してくれても、私は心が広いから何も言いませんよ」
 そう言ったら、盛大にため息を付かれた。

「どこかのバカ、おおっと、ハラスメントになるから言っちゃいけない言葉だな。このバカ…… 名前すら書かず白紙、この数年見ていないぞそんなバカ、誰とは言わん、そう馬鹿がいるのだよこの学校には……」
 そう言って先生は、窓の外を見つめる。

 その背には、秋風のような冷たさが感じられる。
「先生、エアコンをつけていいですか?」
「何か言ったか?」
「いいえ……」
「ではこれをやっておけ、先生は職員室にいる。終われば持って来い。終わらなければ十七時までは居て良い」

 そう言って先生は、各教科、一学期分の問題を残していく。

「これってテストの方が簡単……」
 そう言うと、じっと見つめられる。
「当然だ、テストは他の所も覚えている前提、覚えていないなら当然全部だ」

 そうして、先生は教室を出て行く。
 職員室はきっと、エアコンが効いているのだろう。
 せめて、颯司が居れば涼やかな風が確保できるのに。
 私の術は暑くなるだけ……

 朱莉は教室に空が無いといふ、
 ほんとの空が見たいといふ。
 私は俯いて問題を見る。

 点々と落ちる滴は、汗か涙か。
 彼らとの間に在るのは、切つても切れないむかしなじみの絆。
 だけど彼らは現れぬ。
「だれか助けてぇ」

 その頃彼らは、親に連れられて怪異の現場に来ていた。
「夏のご遺体はキツいなぁ」
「ああ、だが見ておけ。仏さんはどれも皮のみ、目撃情報も無い」
「さっきも女性。今度も女性。相手は変態ね」

 雫がいやそうな顔で文句を言う。
 俺達の活動中に、変なことに行き当たらないよう、やばいときには忠告がてら現場を見せられる。

 力が足りないときには、なんとか逃げて、親に連絡入れる。
 やばいときには、死あるのみだからな。

 おかしな事が起こっている、それだけで心構えが随分違う。

 中から食われるのは、ヌケガワとか、オオカミ?
 俺達で退治できる者達だ。

 そうその時は、鬼が車を汚さないように配慮をしたとか、思いも寄らなかった。

「どう思う?」
「わからん。周囲に異様な臭気もないから少し前だな」
「そう、二人ともせっかく頑張って大きくなったのに、食われるなんて……」
「だけど、何かで書いていたぞ、人間は食料にはむいていないって。育つまでおおよそ二十年、その割に食べられるところが少ないって」
 そう言うと雫は、げーっと言う感じの顔をする。
 想像をしたのだろう。


「そういえば、そうね。美味しそうには…… どう? 美味しそう?」
「へっ?」
「ほら、多少は育ったし、颯司から見てどう?」
「うーん。食べるなら、お尻とか太もも辺り?」
 そう言うと、もみもみしながら、多少複雑そうな顔になる。

「嬉しいような嬉しくないような……」


 その日家に帰ると、久しぶりにアマンダが出てきていた。
 雫に比べて、随分美味しそうに見えたのは内緒だ。

 そして、訳が分からないが、体が反応をする……
 よく分からない。
 母さんがぶらついている彼女を見つけて、尻を叩きながら部屋へと押し込まれていった。

「もう、外国人て羞恥心がどっか欠けているのかしら?」
 そういえば、フランスだったか、砂浜ではトップレスが当たり前とか読んだな。

 とりあえず、時間があるときに宿題をしよう。


「うー。終わらない、お腹が空いた、肉う、肉が食べたい」
 教室で、朱莉がぼやいている頃。

「腹が減ったな」
「待ってくださいよ、あんたらが適当に食うから、警察が大騒ぎをしているんですから」
「警察?」

 古い言い回しだとなんだ? あっそうそう。
検非違使けびいしですね」
「それでもいいぞ」
「良くないです。大体数人単位なんですから」
「便利じゃないか、ひとまとめで狩れば」
 そう言われればそうだな。

「あーまあ、そうですかね」
 その日から、警戒中の警官が行方不明になり始めた。

「オスなら煮込めば出汁が出る」
「はいはい」
 若い衆達が、げろげろと戻しながら料理をしている姿が、見られた。

 そうして彼らは、復活をしては餌を食らい。その数を増やしていく。
 活動を開始するのは、もう少しだけ後のことだった。

 そう、お盆を過ぎ、祭の最中。どこかで百鬼夜行が復活をしたとネットにアップされる。

 それが、騒ぎの始まりとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

処理中です...