俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。

久遠 れんり

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第三章 暗躍する者達

第34話 恨み溜て

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 そいつは、どのくらいの時を経たのか分からない。
 戦国の世で、沢山のもののふ達が夢破れて散っていった。

 地の農民達が、穴を掘り、転がっている者達を埋めた。
 そこには、碑の代わりに川の石が一つ立てられた。
 そして時が経つと忘れられ、その山里は、森に埋もれた。

 周囲に町が有り、そこで起こった出来事。
 人の生活など、上手くいけば良いが、人の暮らしなど千差万別。
 恨みそねみ、そんなものがたまたま中心となるこの地に流れてきた。
 そしてたまり、やがてドロドロしたものは実体を持ち、周囲にあった骨を利用して妖怪へと変化をした。

 夏の暑い盛り、祭や花火大会で盛り上がる中、闇の中にそいつは現れた。

「最悪……」
 周囲では、異常が起こったため花火大会を中止する旨、アナウンスが流れている。

「やばい、急いで買わなきゃ」
 そんな事を叫びながら、朱莉が走っていく。
 周囲では、朱莉の言葉とは少し違い、やばい逃げなきゃと叫び声が聞こえる。

「アイツ浴衣を着ている自覚がないな。しかしなんだありゃ?」
 小高い山を下りてくる骸骨。

「さあ? 骨っぽいしなんだろ」
 そんな事があっても、雫は颯司の腕を放さない。
 今日は皆、浴衣を着ているから、ふにょん感が強め。

 アマンダが最近颯司と距離が近く、待ち合わせ場所にも腕を組んで現れた。
 彼女は、なんとなく、何かを狙っている気がする。
 速やかに、颯司の左側を雫は確保をした。

 そうして会場へ来たのに、これだ……

 当然だが、皆があの妖怪に気がついたのだろう。
 半狂乱で走っていく。
 山の中腹、住宅地が踏み潰され、まるで怪獣映画のよう。
  

 そんな中で、朱莉は必死でものを買い集める。
 店主も投げ売り状態。
 朱莉と見つめ合い、無言で値段交渉が決まる。
 五個買いな。一個おまけしてやる。
 乗ったわ。
 そんなやり取りがされる。

 大量の焼きそばとお好み焼き。
 イカ焼きと、たこ焼き。
 荷物持ちの陸斗が、そろそろ効率的な持ち方について、考察を始めた。

 そんな時、生暖かい風が吹き抜ける。

 山の方では、風に乗った炎が、花火のように舞い踊る。

 だが通常の炎では燃えず、色が変わる。

 浄化の風。
 浄化の炎。
 それは白く輝き、大きな骨を包み込んでいく。

 だが、奴が吠えた。
 その音圧は、周囲を囲む風と炎をはじき飛ばす。
「ありゃなんだ? あれ? 浄化をはじき飛ばした」

 利用する人の居ないテーブル席の一角を占拠して、俺達は親父達の戦いを眺める。

 たこ焼きと、御茶で。
 周りでは、人達が走り回っていたが、俺達の様子を見て、足が止まる人が出てきてしまった。

「おわっ、なんだあれ」
 若い男が、骨の固まりを指さす。
 その周囲を回る、白い炎たち。
 浄化の風は、白きオーロラのようにゆらゆらと輝く。

 だが足元では、足止めされたために、住宅が踏み潰されていく。

 足元の赤い炎、上空の白い炎、中間の骨。
 それは、幻想的な、巨大な何かのオブジェのように見える。

「綺麗……」
 誰かが言う。

 月は満月に近い。
 潰されている家の人は災難だが、皆は逃げる足が止まり、魅入っていく。

 放送では、立ち止まらないでくださいと騒いでいる。
 まだ片付けが終わっていない屋台では、声がかかり始める。
「今なら一割引だよ」
 多分、仕込んだものが痛むなら、売ってしまえと言うことのようだ。

「見ているだけで、行かなくて良いのですか?」
 アマンダがそっと聞いてくる。

「ああ親父達がいるからな、下手に手を出すとジャマになる」
「そうでございますか」
 そう言うと、たこ焼きを口に放り込み、変な顔をする。

「中の堅いものはなんですか?」
 そう言って、変な顔をしていたアマンダが見せてくる。
「食いかけで口を開くな。タコだよオクトパス。クラーケン」
 そう言うと、やめろというのに口を開けたままあわあわし始めた。

 ティッシュを渡すと、出しやがった。
 イタリアと違い、フランスでは食わなかったっけ?
「美味いのに」
「そうね美味しいよね」
 皆が、見せつけるように食い始めた。

 それを見て、彼女はまた口に放り込む。
 もぎゅもぎゅしていたが、やはり変な顔。
「勿体ないから出すなよ」
 そう言うと、眉間に皺が寄る。

 じっと見ていたが、その顔が、近寄ってくる。
「んんんっ」
 口移しで俺の口の中へ、タコが押し込まれた。

「なんて言うことを……」
 勿体ないし食うけどさ。

 それを見ていた約二人。
 口をもぎゅもぎゅさせながら近寄ってくる。
「こら待て、ナニをする気だ?」
「アマンダだけはずるい。平等にすべき。それが、颯司の責任」
「なんだそれ、んんんっ」
 朱莉を気にしていたら、雫にされた。

 しかも押し込んだ後、違う食感のものが口の中で暴れる。
「あーずるい、雫」
 なぜか朱莉は、雫の後ろに並ぶ。

 そして、気がつけば周囲から注目を浴びていた。
 見れば、クラスの奴らまで幾人か居る。

 非常にやばい。
 夏休み明け、最大のトピックス、トレンドは完全にこちらを向く。
 そう思ったら、朱莉の順番らしい。

「おおおっ」
 なぜかどよめきが起こる。

「畜生っ」
 近くでそんな声が聞こえて、誰かが走っていった。
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