不運だけど、快楽と無双を武器に、異世界を生きていく。

久遠 れんり

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第5章 獣人国平定

第94話 高み

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 周りの若い者達は、そのレベル差を理解できず、闇雲に突っ込みワンパンで破壊されていく。

 見ていれば、立っている三人、その攻撃エリアに足を踏み入れた瞬間に、はじけ飛んでいるように見える。
 何か障壁か?
 そう見えるが違う、輪郭がぼやける一瞬に、パンチや蹴りが放たれている。
 
「この二人、生き物としての限界を超え、はるか高みにいる」
 そう…… 彼は理解をした。
 

 体に纏うオーラ。それが、暗闇の中で、光を増していく。
 それは、聖的な色である白を超えて、金色を纏いだす。

 金色のオーラ。それは、神の領域……
 そこで思い出した。
 スタローン家の小僧が負けたとき、奴は体の半分を失ったと。
 それを治した。

 そんな事が出来るのは神だけ、大げさに噂が広まったのでしょう。神官達はそうほざいていたが、それこそが狭い常識からの答え。
 それを裏付けるように、あのスタローン家の小僧は本戦でも強さを見せている……
 そうあの強さで、負けたと言う事だ……

 情報はすべて揃っていた。
 おのれの常識の中で、その情報の意味を見ようとしなかっただけ。

 実際、今目で見ている現実がそれを証明している。
 この者達の、種族、いや生き物を超えた強さ。
 ドラゴンでさえも、こやつらは殴り殺せるだろう。

 そして、このメス。
 魔法の発動が普通ではない。
 並列に、別々の属性を基礎魔法のように扱う。
 そして、死角がない。

 どこからも、矢が届かない。
 こちらの者が放つ矢には、魔法が乗せてある。
 鉄の扉でも貫く矢だ。

 それが、空中で燃え尽きる。
 だめだ、こいつ達、いやこの方達は神だ……
 認めたくはないが、そこに気がついてしまった。

 迎え撃とうと思ったが、近くにすら寄ることが出来ない。
 今攻撃が出来るのは、修行の足りない未熟者達。
 判る者達は遠巻きに見ておる。

 だがそんな時間もわずかで、彼らは止まらなかった。
 遠巻きにしていた者達も、一瞬でつめられて意識を飛ばす。
 
 そして、その牙は長老へと届く。
「手を出してはいけなかったのじゃあ」
 長老は見た、人知を超えた高みを。

 獣王など、児戯レベルだと言うことを……


 まあ、そんなわけで、スミス家のウインチくんは、気合いは合ったが、ヨシュートを舐めたため、ワンパンの餌食となった。

 そして、二回戦はコールのみ。

 三回戦、事実上の準決勝。
 パッタイ=クルーズとスヴャトスラフ=スタローンの戦い。

「それでは開始」
 コールと共に気迫がみなぎる。

「久しぶりだな、地方で負けたようだが、ここまで上がってくるとはな」
「俺達は、知らなかったんだよ。遙かな高みを」
 ヨシュートに習った洗練された体術を思い出す。

 弱きものが強きものに勝つための技、それこそが体術。
 竜人族は生まれた時から強く、その力を有効に相手へとぶつけるのが技の基本。
 そう、言わば技が、多少フェイントが入っていても素直。
 出るタイミングと方向が判れば、躱せるし止められる。

 そのため竜人族は強き者になるために、それでも止められない剛拳を磨く。
 一撃必殺。

 パッタイはその中での強者。

 実際先ほどから始まった攻撃、旧態依然とした手法。
 そう、全然違うのだよ。
 基本が……

「うらぁ」
「攻撃時に声を出すと、力が逃げるぞ」
 突き出されてきた拳をそっと上から掴む。
 上から下へ。

「おおっ?」
 手が押し下げられた。
 その隙に、スヴャトスラフは突き出された拳を躱しながら、体を向かって右へと流し、そして、そのままさらに近寄ってくる。
 自身のスピードと、奴のスピード。
 倍になった力が、俺の腹に突き刺さった。
「ぐえっ」
 つい口から、呼吸が漏れる。
 パンチをだして緩んだ筋肉の装甲、それがぶち抜かれる。

 そして、少し前屈みとなった自分の口から、ぱくんと音がする。
 膝を打ち込んだ後、足を引きながら、奴の左手が下から俺の下顎へ、そこから掌底が突き上がってきた。
「ごっ」

 そして、またのけぞった俺のボディが、がら空きとなる。
 また奴の右拳が、俺の腹へと打ち込まれた。

 動きが、すべて円運動。

 俺達の技とは、根本的に何かが違う。
 半年前、家同士の交流戦で戦ったときは、圧倒的な力で押し切られた。
 その時にも敵わなかった。
 だが、いくつか返すことが出来た。

 でも今回、奴との距離が圧倒的に開いた。
 こいつは、この短い時間で何を見て、何を経験したんだぁ……

「ぐはっ」
 力が下むきにきた。足が地面に着いている以上、力がすべて、俺の体に……

 立っている棒を横に薙ぎ、へし折るのは難しい。
 蹴っても、横にはね飛ぶだけで力が逃げる。

 斜め上から、地面に押しつけるように蹴れば、力の逃げが少ない。
 それをやられた。

 逆に、剣道のつばぜり合いのように、相手の体勢を崩すときは離れ際に、押し上げるように離れる。
 すると、相手の足は浮き反応が遅れる。

 スヴャトスラフは、体を貫く一本の棒をイメージし、体の動きをすべて円運動で行った。
 戻る動作、それすらも、次の攻撃の力となる。
 脱力を行い、回転による力、それに魔力を乗せて筋肉を活性化。
 そして、相手の体に拳があたった瞬間引き締め、力を相手の体に置いてくる。

 拳があたった所から、衝撃が波となって広がっていく。

 その衝撃波は、パッタイにとって未知のもの。
「ぐはっ」

 それが最後だった、あっという間に彼は膝をつき苦しみ始める。

 だがどう気合いを入れても、足に来て力が入らなかった。

「勝者、スタローン家」
 そのコールで、会場にざわめきが広がる。

 地方予選で負けるほど、弱いんじゃないのか?
 他家により、ばら撒かれた噂が随分広がっていた。
 だが、ここまですべて圧勝。
 何が何だか判らない。

「いやあ勝ったあ、お嬢ちゃんの言うとおりだあ」
「少しは戻って来てよかったですね。ふふっ」
 獲物は、生かさず殺さずデスよね、ベルトーネ様。
 かわいい長い耳が、嬉しそうな感じで揺れる。
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