神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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依頼者シュザンヌ嬢は微笑む

第7話 お宝と暗躍

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「とりあえず、ここにもワームが居るんだな」
 ムカデの中身は食べやすいのか、あっという間に喰われているようだ。

 いや、死んでいるはずのものが、動き出したから、驚いたんだよ。
 まあ隙間から、中に入り込んで暴れるものだから、殻が動いたのだと判ったけれど、こいつら怖え。

 飯を食って、この中を探検する。
 どう見ても、大きな生き物の体内。
 小さな体育館程度だが、がらんどうになって、何の気まぐれか、地下空洞が出来上がっていた。

 いやなんか、草が生えていると思ったら、死招き草だよ。
 そして、マンドラゴラとか、珍しい薬草の宝庫がそこには在った。

 ここは、適度に日は入るが、あまり強くない。
 水は、岩をつたい落ちてくる。

 そしてこの、巨体が朽ちて肥沃な土。
 五十センチはありそうな、でっかい魔石。
 長い年月で、結構脆くなっていて、崩れているが多分そうだろう。
 薬草にとって、光合成は、あまり重要ではないのか?

「この環境が良いのか?」
 とりあえず、採取できるものは採取して帰ろうとした。

 だが、なんと言うことでしょう。
 薬草を詰め込んだ袋を持ったままだと、出口となる岩の隙間を通れず、一個一個運ぶという事をしていたら、結構時間がかかった。

 都合二晩外泊。
「ユスティにここへ来ることを、言うのを忘れていた、心配させたかな」
 そう思いつつも、まず、薬師のじいさんに袋を渡してから、家に帰る。

 まだ昼過ぎだから、ギルドで待っていた方が正解だったかな? などと思っていたが、家の前で座り込み、彼女が待っていた。

「帰って来たあああぁ…… 」
 俺を見つけて走ってきて、飛びかかり、右拳一閃。
 いきなり殴られたぁ……

 とりあえず、お怒りのようだから、避けずに受ける。
 殴ってきた拳が痛かったのか、手を振りながらも問い詰めてくる。
「どこの女だぁ、言えぇ」
 いきなりこれですわ。

「何の話だ?」
「この二日間のことだ」
 彼女は往来で、オレの上にまたがり、襟を絞めてくる。 

「ああ、言うのを忘れていた。地獄の裂け目へ行っていた」
 それを聞いて、一瞬だけ動きが止まる。

 だが……
「はあっ? 嘘をつくな。あそこは初心者が行ける所じゃない」
 そう言って信じてくれない。

 仕方が無いので、じいさんのところへ戻ることになった。

 ついでに、思いついたことをプレゼンをする事にする。
「じいさんいるか?」
 声をかける。
 だが、俺の後ろからも声が掛かる。
「此処は薬師じゃないか」
 今俺は、後ろ手に縛られて、ロープが結ばれた罪人状態。

 幾人か知り合いに見られて、クスクス笑い。
 いない間に何かあったのだろうか?

 当然、ユスティは一晩目は我慢をした、だが翌日、ギルドで暴れ、カグラを知っている者達を締め上げた。
 その時に、レーナから言われた言葉。
「そんなに心配なら、ロープでも掛けておけば良いのに」
 行動を見て、呆れから放った一言。
 だが彼女は、素直に実戦をした。

 恥ずかしいったら、ありゃしない。
 人通りの多い往来を、ロープを掛けられて引っ張られる俺。
 後ろ手だから、最初は後ろ歩きで引っ張られた。
「どこへ行くんだ?」
「どこへ?? 知るか。何処へ行くんだ?」
 そんなコントがあり、俺が前で歩くことになった。

 そして、やって来た薬局である。
「おう、どうした。忘れ物か?」
「いや、こいつにあれを見せてくれ。地獄の裂け目へ行ったと言っても信じてくれないんだ」
「そりゃまあな、あの会合の後、そのまま行くとは思わなんだ。翌日ルッツが来て青い顔をして探しておったぞ」
「そりゃ悪い事をしたな。謝っておくか」
 翌日、青い顔をして探しに来たのは、当然だがユスティに絞められたから。

 皆が揃って、カグラがまさか一人で、行くと思っていなかった……

 そして、じいさんが袋に入った、希少な薬草を見せるとユスティの目が開き、目ん玉が落ちる…… 落ちはしなかったが。

「おまっ、本当に一人で行ったのかぁ?」
 そしてなぜかまた、首を絞められる。

「行ったと言っただろ」
「怪我は? 死んでないか?」
 そう言って、俺の体をまさぐり始める。

「怪我は、左のほっぺが痛い。それと転けたときに腰を打った」
「よし大丈夫だな」
 そう言って横を向き、口笛。
 この行動は、全異世界共通なのか?

「ほら、ほどいてくれ」
「それとこれとは別だ」
「トイレとか困るじゃないか」
「だっ…… 大丈夫だ。サポートしてやる」
 そう言って、妙に赤い顔をしてサムズアップ。

「大丈夫じゃないよ。あーそうだ。じいさん思い出したんだが、あの育成環境、もしかすると薬草を栽培できるかもしれない」
「なに本当か?」
 結構年っぽいのに、カウンターをひらりと越えてきた。

「じいさん顔が近い…… 」
「おう、こりゃすまん」
「どうせ、それを分けるから、また集まるんだろ」
「おう、るぞ」
 そう言ってニヤニヤ。

「その時に説明をする。あの店か?」
「そうじゃ」
 居酒屋、『ぽっちゃりと秘密の部屋』。

 この世界には珍しい、完全個室のお店。
 照明はろうそくだから怪しさ満点。
 まあ主な使い方は、街角の路地に立っているお姉ちゃんと共に、そう…… 連れ込み宿的な……

 ホテルとか高いんだよ。
 安いところは雑魚寝で、そんな中でいたした日には、お姉ちゃんがむごいことになる。
 かといって、裏路地は危険。
 だから、レンタルルーム的な、こんな店があるらしい。

 だから、本当に秘密の会合にも丁度良い。

「ふっふっふ。上物でっせ」
「おおおおぉ、本当に…… おおっ、間違いない。ありがたい。これで救える命が幾つもある。あの、『暗黒堂』がバカみたいに値をつり上げなければ、もっと小さな子が助かったのに」
「そうだな。魔力中毒症を克服したものは、魔道士として大成する。亡くした者達が不憫じゃ」
「ああ……」
 皆が涙をこぼして喜んでいる。

「ほかにも色々とあるのと、もう一つ良いことがある」
「これのほかに、まだ良いことなのか?」
「ひょっとすると、栽培が出来るかもしれない」
「「「「「なにいぃ」」」」」

「しー。静に。試してみないと駄目だけれど、多分いける。試してみるか?」
「無論じゃ。でっ、どうすればいい?」
「先ずは人目につかない土地。そして周囲は岩の方が良い」
「岩場の土地? 良いところがあるぜ」
 当然だが、くっ付いて来ているユスティ。
 どこか良い場所を知っているらしい。
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