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第一章 旅立ちと冒険者時代
第20話 ジャンマルコ=ヤクウィン伯爵は考える
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「よーし良し。準備は出来た。くだらない前哨戦は終わり。今からが本番だ。全軍進め」
勢いよく掛けられた号令。それにより隊が全身を開始する。
盾兵三段。その間に弓兵と槍兵を配置。
その後ろに、移動式の板壁。
その後ろに歩兵達。その中に弓兵と盾が混ざっている。
そして騎士達。
一風変わった布陣。
ヤクウィン伯爵は考えた。
味方を減らさず、敵を殺す。
そうすれば勝てる。
昔のような、兵同士の肉弾戦の時代は終わったと。
それを実践して、勝って来た。
だが甲冑に身を包んだ騎兵だけは、騎兵が相手をする。
そればかりは仕方が無い。
だが、他の軍と違い、弓兵は圧倒的に多い。
敵に、五百メートルとなったとき、行進が止まる。
自軍の弓は届かない距離。
イルバラ伯爵の報告によると、敵の弓は届くという。
もう最初の儀礼はすんでいる。
相対するのは敵。
「さて、どうするか」
手は、考えた。
中央を少しだけ、盾を構えながら前に出す。
それと同時に、両翼を延ばし三方攻め。
さらに、その隙間に遊撃の隊で外のさらに外から、攻撃を加える。
こちらの隊は五千。
向こうは三千。
一気に潰す。
「中央。まえ……」
そう言いかけたとき、敵から矢が放たれる。
それは、一気に空を被い。降り注いでくる。
「盾。防御」
魔法や弓でもこの距離では届かないはず。
だが実際は、イルバラ伯爵の言った通り、届いてくる。
「これは。一体どんな武器で、矢を放っているんだ」
これでは自軍は動けない。
だが動かないと削られるのみ。
そう思った矢先、自分たちの周りにも矢が降り注ぎ始める。
「一時撤退」
賢いからか、撤退も早い。
陣を、さらに八百メートルほど引いて敵軍の櫓を眺める。
櫓は、二十メートル程度。
基本的に高さが飛距離にたいして、同程度プラスされる。
だが、それにしても飛びすぎる。
遠目筒で見ると、弓の上下に丸い何かがくっ付いている。
「おい、上位隊長クラス集まれ」
「はっ」
伝令が散らばる。
「お前達に聞く。敵の弓。上下に丸いものが見える。あれでどうやって飛距離を伸ばせるのか意見を出せ」
ザワザワと、場がザワつく。
「よろしいでしょうか?」
「何か思いついたかね。ダーヴィド=フェルド男爵」
ヤクウィン伯爵は、その表情に喜びを表す。
どんな仕組みなのかと。
「いえ残念ながら。ですが、野戦の許可を頂けますでしょうか? 敵から奪って参ります」
その進言に、一瞬乗り掛かる。
だが、敵のことだ危険が多すぎる。
「敵は、かなりの策士。危険だぞ」
「承知しています。少数で行って参ります。偵察もして参りますので」
「良し危険無きよう気を付けろ」
「御意」
バッと敬礼をする。男爵。
「では、男爵の結果待ちだが、先ほどの考察。思いついた者は報告に来い。解散」
「「「はい」」」
「どう思う?」
「仕組みか?」
「それもあるが、今回の奴らは異常だ」
ドミトリー=ベルィフ男爵の言葉に、茶化すようにベッティル=オングスト男爵が答える。
「先の奴らが、バカだっただけだろ」
「あれは、あれでひどいが、他の戦場でも、伯爵のお言葉に従えば倍する敵にも俺達は勝てた」
彼らは、ここへ来る前に、周辺諸国に対して戦を仕掛け、勝ち続けていた。
「そうだな」
「それは、敵のみを攻撃し、こちらは被害を追わない戦法それを、伯爵が基本としているからだ」
うんうん。と頷く。
「だが今、俺達がそれをやられている」
先ほどの戦闘を考える。自分たちの手が届かない距離からの一方的な攻撃。
今戦場で、敵兵が走り回って矢の回収をしている。
こちらが、大幅に陣を下げ、距離があるため、彼らは悠々と仕事をしている。
二人共が、ついその光景を眺める。
「怖いな」
「だろ」
「まあ。その辺りは伯爵にお任せをしよう。俺達は先ほどの難問を考えよう」
「そうだな」
そして夜半。黒く汚した兵装で、闇の中を走る十人ほどの兵。
気を付けても、ガシャガシャと鎧が鳴る。
「ちっ油を塗ったが。音に気を付けろ」
周りの兵が頷く。
月は、三日月。
結構明るい。
そして、何もしていない訳はなく、木の板に釘が突き通った仕掛けがばら撒かれていた。
「ぐわっ」
その木切れには、紐が結びつけられており、一気に回収が出来るようだ。
ついでに、鈴まで。
紐を引っ張ったため、鈴が鳴る。
「しまった」
音もなく、鈴の鳴ったところへ矢が降り注ぐ。
「ぐわっ」
「引け。撤収」
フェルド男爵は、命からがら逃げるが、六人を失う。
「申し訳ありませんでした。連中矢を拾うときに、荷車の影で罠を仕掛けておりました」
「ごくろう。やはり普通ではないようだ。心を引き締めよう」
それだけ伝え、フェルド男爵を帰す。
「なかなか、狡猾だね。大技も小技も出来る相手か。それとも優秀な者が多いのか? どっちだろうね」
かがり火が焚かれ、巨人のように見える櫓が、戦場に重苦しさを増していく。
むろんそれを感じるのは、帝国軍のみで、王国側は、少し浮かれていた。
勢いよく掛けられた号令。それにより隊が全身を開始する。
盾兵三段。その間に弓兵と槍兵を配置。
その後ろに、移動式の板壁。
その後ろに歩兵達。その中に弓兵と盾が混ざっている。
そして騎士達。
一風変わった布陣。
ヤクウィン伯爵は考えた。
味方を減らさず、敵を殺す。
そうすれば勝てる。
昔のような、兵同士の肉弾戦の時代は終わったと。
それを実践して、勝って来た。
だが甲冑に身を包んだ騎兵だけは、騎兵が相手をする。
そればかりは仕方が無い。
だが、他の軍と違い、弓兵は圧倒的に多い。
敵に、五百メートルとなったとき、行進が止まる。
自軍の弓は届かない距離。
イルバラ伯爵の報告によると、敵の弓は届くという。
もう最初の儀礼はすんでいる。
相対するのは敵。
「さて、どうするか」
手は、考えた。
中央を少しだけ、盾を構えながら前に出す。
それと同時に、両翼を延ばし三方攻め。
さらに、その隙間に遊撃の隊で外のさらに外から、攻撃を加える。
こちらの隊は五千。
向こうは三千。
一気に潰す。
「中央。まえ……」
そう言いかけたとき、敵から矢が放たれる。
それは、一気に空を被い。降り注いでくる。
「盾。防御」
魔法や弓でもこの距離では届かないはず。
だが実際は、イルバラ伯爵の言った通り、届いてくる。
「これは。一体どんな武器で、矢を放っているんだ」
これでは自軍は動けない。
だが動かないと削られるのみ。
そう思った矢先、自分たちの周りにも矢が降り注ぎ始める。
「一時撤退」
賢いからか、撤退も早い。
陣を、さらに八百メートルほど引いて敵軍の櫓を眺める。
櫓は、二十メートル程度。
基本的に高さが飛距離にたいして、同程度プラスされる。
だが、それにしても飛びすぎる。
遠目筒で見ると、弓の上下に丸い何かがくっ付いている。
「おい、上位隊長クラス集まれ」
「はっ」
伝令が散らばる。
「お前達に聞く。敵の弓。上下に丸いものが見える。あれでどうやって飛距離を伸ばせるのか意見を出せ」
ザワザワと、場がザワつく。
「よろしいでしょうか?」
「何か思いついたかね。ダーヴィド=フェルド男爵」
ヤクウィン伯爵は、その表情に喜びを表す。
どんな仕組みなのかと。
「いえ残念ながら。ですが、野戦の許可を頂けますでしょうか? 敵から奪って参ります」
その進言に、一瞬乗り掛かる。
だが、敵のことだ危険が多すぎる。
「敵は、かなりの策士。危険だぞ」
「承知しています。少数で行って参ります。偵察もして参りますので」
「良し危険無きよう気を付けろ」
「御意」
バッと敬礼をする。男爵。
「では、男爵の結果待ちだが、先ほどの考察。思いついた者は報告に来い。解散」
「「「はい」」」
「どう思う?」
「仕組みか?」
「それもあるが、今回の奴らは異常だ」
ドミトリー=ベルィフ男爵の言葉に、茶化すようにベッティル=オングスト男爵が答える。
「先の奴らが、バカだっただけだろ」
「あれは、あれでひどいが、他の戦場でも、伯爵のお言葉に従えば倍する敵にも俺達は勝てた」
彼らは、ここへ来る前に、周辺諸国に対して戦を仕掛け、勝ち続けていた。
「そうだな」
「それは、敵のみを攻撃し、こちらは被害を追わない戦法それを、伯爵が基本としているからだ」
うんうん。と頷く。
「だが今、俺達がそれをやられている」
先ほどの戦闘を考える。自分たちの手が届かない距離からの一方的な攻撃。
今戦場で、敵兵が走り回って矢の回収をしている。
こちらが、大幅に陣を下げ、距離があるため、彼らは悠々と仕事をしている。
二人共が、ついその光景を眺める。
「怖いな」
「だろ」
「まあ。その辺りは伯爵にお任せをしよう。俺達は先ほどの難問を考えよう」
「そうだな」
そして夜半。黒く汚した兵装で、闇の中を走る十人ほどの兵。
気を付けても、ガシャガシャと鎧が鳴る。
「ちっ油を塗ったが。音に気を付けろ」
周りの兵が頷く。
月は、三日月。
結構明るい。
そして、何もしていない訳はなく、木の板に釘が突き通った仕掛けがばら撒かれていた。
「ぐわっ」
その木切れには、紐が結びつけられており、一気に回収が出来るようだ。
ついでに、鈴まで。
紐を引っ張ったため、鈴が鳴る。
「しまった」
音もなく、鈴の鳴ったところへ矢が降り注ぐ。
「ぐわっ」
「引け。撤収」
フェルド男爵は、命からがら逃げるが、六人を失う。
「申し訳ありませんでした。連中矢を拾うときに、荷車の影で罠を仕掛けておりました」
「ごくろう。やはり普通ではないようだ。心を引き締めよう」
それだけ伝え、フェルド男爵を帰す。
「なかなか、狡猾だね。大技も小技も出来る相手か。それとも優秀な者が多いのか? どっちだろうね」
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