僕は仲間とともに、覇王の道を進む。

久遠 れんり

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第四章 大陸平定

第62話 ミヒャルの苦悩

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「あああああっ……」
 レオンは良い奴だ。
 多少バカだが、多彩で気も良い。

 ミヒャルは城を出ると、いきなり着替えて、下町の飯屋で昼から酒を飲んで苦悶をしていた。貴族街だと噂になるが、ここなら人目も気にならないと、本人は思っていた。

 お嬢様のことを考えると、奴が王になり、おっ…… お嬢様を娶る?
 先王とはいえ、純潔は散らされているはず。

 私が娶れば…… きっと、そこが気になって、奴の墓を曝き、焼き尽くすだろう。

 それでも…… それでも、他人の…… 手つき。

 ああっ、耐えられないかもしれない。
 行為のたびに、あの嫌みな顔を思い出すだろう。

 私の度量が、小さいのか。
 父上に言われた言葉。
 軍師たるもの、些細なことにも注意を払え。
 それが大事に繋がることもある。

 そう教えられた。
 軍師たるもの…… かぁ。

「あら? お兄さん。一人でやけ酒?」
 そこにいたのは、商売女だろうか?

「なんだ女。私は、商売女など用はない?」
「なっ。失礼ね。ハンターだけど、小銭が入ったから、その…… 似合わないかもと思いながら買ってみたのよ。――似合わないかなあ?」
 悲しそうな顔でそう言われて、謝ろうかと思ったミヒャルだが、まじまじと見る。

 身長はまあ、百五十三程度。ハンターだけあって、亜麻色の肩までの髪を、普段はまとめているのだろう。妙なところで癖がついている。
 切れ長で、少したれた目。ブラウン系の瞳。日焼けした肌で、鼻筋は通り、唇は薄め。
 そうか、この顔のせいで。一見派手に見える顔。美しいともいえるし、多少愛嬌がある顔ともいえる。
 ドレスは、余計な装飾はなく。シンプルな方が良いのでは?
 センスと言うより予算の関係か?

 運動が足りているから、体は締まり。出るところは出て、肉付きは良い。
「ふむ。貴様、名は何という?」
「えっ? リュールだけど」
「ついてこい」
 ミヒャルは、席を立つとリュールを連れ出す。

「エッ。私、食事がまだ」
「後で食わせてやる。先ほどの詫びだ」

 貴族街に向かうと、髪結いに連れ込み、切りそろえることを頼む。
 むろん、リュールに反論はさせない。
 
 それが終わると、ドレスを見に行く。
 当然仕立てでは月単位の日数がかかるため、貴族からのお下がりだが、一回目だから質が良い。リュールが着ていたものなど、幾度目のお下がりか分からない。

 妙なゴテゴテとした飾り。
 最初に作った人間は、自身の体に自信が無かったのか、胸や尻の所が大きく飾りで誇張されていた。


 ミヒャルが、夫と判断されたのか、目の前で脱がされ着替えさせられる。

 五回か六回目。
 ミヒャルの、次のドレスを指し示す、手が止まる。
「ふむ。これが良いだろう」
 先ほどまで着ていたものは、草木染料のデルクス辺りだろうが、染め斑をなくすためだろうか、かなり色が濃かった。
 だが今回のは全体が淡く、胸元の一部に、少しだけ濃く花のような染めがある。
 あまり見ない意匠のドレスだ。

 だが、髪色と日焼けした肌がなんとなく、花のような染めで引き立つ。
 履き物までそろえ、外に出る。
 出るときに、金ではなくサインで済ませたことに、リュールは首をひねる。

 多分現金で払えば、腰が抜けただろう。
 それに、掛け買いが出来るだけの、信用を持っていることに気が回らない。

 リュールからすると、昼の飯屋で酒を飲み。くだを巻いていた若い奴。
 当然ミヒャルは町中に出るので、軍服などは着ず、それらしいものを着ている。
 髪の毛は、無造作に革紐で束ねているし。
 ハンターだと思っていた。
 まあ、まだ登録はされているが。

 そして、飯を食う暇無く連れ回され、騒がしい腹を抱え、引っ張り込まれた店は貴族街の高級店。
 町人の格好をしていても、ミヒャルの顔は知っている。
 同伴はドレスだし、まあ良いと言う所だが、他の客からの目がある。個室へと通される。
 まだ時間は早く、客は少ないが当然チラ見され、逆に見た方は驚く。

「目を合わすな。鬼の一人。ミヒャル=コンフューシャス殿だ」
 そんな声が、こそこそと聞こえる。

 だが、リュールは入った店に驚き、又、入れたことに驚く。
 囁き声など聞こえやしない。いや聞こえたが、頭には入らない。

 テキパキと料理が決められ、最近話題の発泡ワインを頂く。

 並んだ料理は、最近の流行で、皿の上で絵のように飾り付けられている。
 町中のように、煮た。焼いた。さあ食えという感じではない。

 空腹ではあったが、なぜか酒ばかりをパカパカと飲んでしまう。
 そして酔ったところで、勢いを付け名前を聞くが、相手は、一言ミヒャルとだけ答える。
 その見つめてきたグレーの瞳が、すべてを見透かすような気がして、ついまた飲んでしまう。

 するとまあ、当然だが潰れることになる。

 こまったミヒャルは、考える。
 家にいると、レオンが来るかもしれない。

 見回し、店員に近くのホテルを聞く。

 リュールを背負い、ホテルへと向かう。

 時間が遅く、客がいないのが幸いだ。
 部屋を頼み、階段を担いで上がる。
 身体強化は無敵だ。

 最上階の貴族用スイート。
 当然、ミヒャルに躊躇など無い。
 一気にドレスを脱がし、ハードタイプではないが、コルセットを緩めると、そのままベッドに放り込む。

 布団を掛けて、もう一つのベッドへ行こうとしたが、コルセットを緩めたために、放り出された胸が目にとまる。
 何かを思いながら、じっと見つめる。

 それは、リュールの目が開くまで続く。
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