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第三章 リギュウムディ修復

第10話 王都修復

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 風に乗り帰ってきた。

「さて、たちまち、今夜から寝るところもないな」
 今居るのは、中央の石柱があるところ。

「家を作るなら、水の確保と、汚水のコントロール。それから、地盤の強化と基礎の作製だな」
 一応知識に沿って、段取りを説明する。

「水は私の役目」
 碧が手を振ると、最初にたどり着いた遺跡方面から、碧い光が空へ立ちのぼる。
「次は私」
 茜が手を振る。
「次は……」

 という感じで、伽羅や彩が手を振ると、爽やかな風が吹き始めた。

 それぞれの石柱が立っている方向に向いて、手を上げている。
 碧が北西、茜は南東、彩が南西。伽羅は北東があの遺跡なのだろう。
 基礎的な遺跡の活性化? が終了すると次が始まる。

「先ずは、城かしらね」
 伽羅がそう言って、手を振る。

 すると、地面から城が生えてきた。

 何かのアニメのように。

 そして、住宅地ができあがる。
 太い道が四方向に有り、町中の通路には、幾箇所かクランクが作られている。
 俺の記憶が、反映されている?
 防御のためには、直線路は駄目だという鉄則。


 しかし、みるみるうちに城が建ち、家が建っていく。
 中央の石柱には、周囲に五〇センチメートルほどの壁ができて、囲むように水が吹き上がってきた。
 この水は、きっと上水なんだろうな。
 さっき、伽羅が水道を忘れたと言っていたので、そういう事だろう。

 トイレも水洗の洋式がついているそうで、洗浄はできないが暖房便座は魔道具で造れたそうだ。
 ここを中心に、道が四方へ伸びていく。
 石畳の舗装。八メートル道路で歩道部分も二メートルほどある。
 道路は、中心が高く両サイドが低くなっている。
 歩道に食い込んだところに、排水路が存在していて水はけも考えている。

 聞くと基本的な天気もコントロールできるので必要は無いが、俺の知識にあったから造ってみたと、伽羅が教えてくれる。

 そして、わずか数時間で、大きな街ができあがった。だが、誰も居ないためゴーストタウンのようだ。
 四人は精霊だからノーカウント。
 生きているものは、おれと好実二人だけ。

 耳を澄ませば、喧噪が聞こえてきそうな風景なのに、ただ綺麗で静かな死んだ街。

 伽羅が町の周囲に整備した畑から、食べる分だけ収穫して城へ帰る。
 途中の小川には、まだ生き物の姿はなかった。
 小川は、碧の司る街から流れ始めて、街の北側を西から東へ向けて流れている。

 この国、リギュウムディは、ぐるっと高い山々に囲まれているという、驚異的な地形。此処の岩盤に向けて周囲のプレートが集まって山を造っているらしい。
 ちなみに、周囲の高山にはそれぞれ、火や水。土や風を司るドラゴンが守護しているそうだ。

 ひ弱な人間は入ってこられない、陸の孤島となっている。

 最もひ弱じゃないモンスターは、山を越え住み着いていたようだが。

 城の厨房へ行き、料理をしてみる。
 俺は、基本の料理はできるし、好実も料理はお母さんの手伝いをしていたから大丈夫と言ってくれたのだが、お皿の用意とか、吹き出さないようにお鍋を見ていて火を弱めるとかそういう事だな。最も日本で普通にできても、調味料も存在しない異世界ではキツいだろう。
 それに家のお母さんだって、日々の、忙しい時に、なかなか教えながらはできないよな。

 八〇畳はありそうな巨大な厨房。その一角でちまちまと料理を行う。
 だが、本当に調味料が一切無い。
「最低でも、塩が欲しい」
 そうぼやくと、また手を突っ込まれる。

「ああ、なるほど」
 伽羅が手をかざすと塩が山積みになる。

「入れ物。壺が良い。それも蓋付きで欲しい」
「はい」
 塩が入りそうな壺出現。

「他には?」
 ちょっと調子が上がってきた好実が聞いてくる。
「胡椒、ターメリック、コリアンダーやら色々欲しいが、今は、醤油とか味噌とか、鰹節や昆布。菜種油。米。小麦。酒、みりんだな。基本酒醤油みりん一対一対一の割合が家庭で作る和食の黄金比だからな」
 好実に向かい説明をしているが、伽羅達に後ろから手を突っ込まれているシュールな光景。

 その時、碧は虚空を見上げて、ぼーっとしていたが、突然消えた。

「あれ? 碧はどこへ行ったんだ?」
「ああ、私たちが、復活をしたからおつとめね。わたしも行ってくる」
 そう言うと、彩も消えた。

 伽羅は一瞬姿を消したが、戻ってきた時には、立派な昆布を抱えてきた。
「乾燥は、この中に含まれている水を、制御して抜けばできます」
「分かったありがとう」
 魔法で、水を制御して乾燥させる。

 一瞬で、乾燥昆布ができた。

 気がつけば、厨房の一角に魚が積み上げっていた。
 鰹がいる。
 すぐに、腹を始末して、半身をたたき用にして半身を鰹節用に煮始める。

 そして、作業をしていて、ふと見ると、俺の記憶にあったのだろうか? 
「これは、やばいものがいる」
 思わず、手が出そうになって、自身の手を押さえて下がる。
 その名は、バラムツ。こいつは美味いらしいが、食べてはいけない。
 この魚の脂肪は、人間には消化できない。
 食べると翌日、お尻からにゅるにゅると油が出る。そのため消化吸収ができなくなり症状がひどいと、脱水症状を起こし死んでしまうことがあると言われている。

 見なかったことにして、伽羅に不必要なものは収納して貰う。
 ふっと、お願いした魚たちが消える。
 やはり、亜空間収納的なものを持っているな。
 モンスターを倒した後、消えていたのは、この世界がそういう仕様ではなく収納していたようだ。

 亜空間収納を持っていない俺は、ちまちまと魚を捌き、魔道具の冷蔵庫へしまっていく。
 コンロは、魔道具。
 見た目はIHなのに火が出る。
 水道は、碧い魔石に触れると水。横に付いてる赤い魔石に触れるとお湯になる。
 触る回数で温度が変わる。設定は、四十度、八十度、百度のステップ。

 お風呂、滅菌、お湯だな。

 レタスっぽい野菜と、キャベツでサラダを作り、オリーブオイルと塩胡椒でドレッシング。レモンが欲しい。伽羅に探してきて貰うと、ゆずが来た。
 今回は、ゆずを使い、レモンは継続で探して貰う。

 鰹のたたきと、鯛の刺身。
 鳥の代わりに、ワイバーンの胸肉でピリ辛の小悪魔風。イタリアンのディアボラを辛さ控えめで作った。

 さて、土鍋の蓋を開けて、しゃもじでかき混ぜる。

「完成だな」
 作っている途中から、好実の目がやばい。
 城郭都市コーガネーで、ウーベル=ナーレ辺境伯から、からと言うより無理にお願いしてご飯を貰ったけれど、何かの肉。それも血抜きのされてないものを、何か香草でごまかしたものを食べさせて貰った。後は、安定のジャガイモを煮たもの。塩薄め。腹は減っていたが、好実と二人眉間にしわを寄せ頂いた。
 お土産に、ほとんど発酵していない新作ワインも貰った。葡萄ジュースだが、この種類の特徴なのか結構渋かった。一年後を待とう。

 そして、厨房の片隅で食べるか、巨大なテーブルのあるダイニングで食べるか悩む。悩んだ末、ご飯は厨房で食べて、その後つまみを持ってベッドルームへ行こうと話が付いた。

 地獄のような日々から、いきなり身に余りすぎる生活。
 でっかいお風呂もあり、シルクっぽい部屋着まで用意されている。
 それもあって、好実も少し元気になった。
 でもね。
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