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第三章 リギュウムディ修復

第16話 うつろう、季節と心

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「長。静かだった、おら達の地に、小さき者達が住み着いたぞ」
 そう言い出したのは、若い竜。まだ生後五〇年ほどの若造だ。

「確かにこの数百年誰も居なかったが、我らがこの地に住めるのはあそこにおられる方々のおかげじゃ。留守を預かっていただけのこと。良いか、山の内側には絶対手を出すな。分かったな。もし、王が許しても、あの四人は絶対に許してくれない。きっと笑いながら、羽をおられ、魔力を封じられて、しっぽから順に毎日喰われるぞ」
 それを聞いていた、若い竜はしっぽを隠す。

「分かったよ」
 遠くで聞こえる、小さき者達の声を聞きながら。巣へと帰っていく。


「わしが子どもだった時に、それを話してくれたじいさんは、本当にしっぽがなかった。懇願して、許しを得たが、あの時エンシェントドラゴン様の口添えがあったと聞く。今は、不在の時。何事も起こすなよ」

 飛び去っていく、若い竜を見つめる。


 ぷるぷると、震えながら頭を下げる辺境伯。
「突然どうしたのです? 頭を上げてください」
「あっいえ。つい。お父様にはご内密に」
「えっ? 内密も何も、いま、こっちにはいませんから、大丈夫です」
「そうですか。お忙しいのでしょうなぁ」

 そう言って、うんうんと辺境伯は納得をしている。

「もうこちらを、修復して半年。随分賑やかになったでしょう?」
 そう言って、城下を見せる。
「賑やかですが、詳細を聞いては素直に喜べませんな」
「まあそうですね、一方的に民を奪ったようなものですから」
 町中では、子ども達が走っているが、救済してきた子ども達。

「ああいえ、逆です。救済を求める民がこれほどいるという事。ふがいなきは、こちらの方でございます」
 そう言って、表情が暗くなる。

 あと少ししないと、ここで生まれた子供達は生まれない。
「子ども達が生まれる前に、保育施設を造らないとね」

「売りたい物は、魔道具と、あの走り回っているからくり機械でしょうか?」
「あれは自転車と言います。結構スピードは出ますが、道路を先に整備しないと駄目ですし、先にまあ、馬車とかもう少し乗り心地を良くしようと思いまして。後はランプですね」
「このお城にある、白熱灯と呼ばれるものでしょうか?」
「いえ。あちらはまだ実験的な物で、改善が必要ですし、外には出せません。出しても魔導コンロと魔導ランプまでかなぁ」
 そう言うと、おずおずと辺境伯が聞いてくる。

「あの攻撃用魔道具は、やはり駄目ですか?」
「駄目です。あれは、将来的に狩猟以外には許可しないように、しようとまで思っています」
 そう。ここへ来た人たちは、最初魔物におびえ。武器が欲しいと望んできた。それを叶えたが、この王国内にはモンスターは入ってこられない。それに周りを飛んでいる竜達が見張ってくれている。
 基本的には、王都内での武器所持は禁止していくつもりだ。
 だが、ここへやって来て、たまにはっちゃける人も居るので、何かしら警備する必要はある。

 基本は、選定時にはじかれるはずだけど、人の心は難しい。
 ここへ来て、自分より弱者を見ると、やられて辛かったことを他人にする奴が、少しは出てくる。
 その場合は、精霊達から出禁を喰らって、適当に外へと放り出される。
 むろんそうなると、二度と教会へは入れない。

 そう言えば、好実とセルビリ=ムスクルスさんは、新しく来た人のカウンセリングと希望を聞いている。
 この国に来た者は、国をよくするための努力と献身をしなさいと約束させられている。文言だけだと、まるで奴隷のようだが強制ではない。自分がしたいことで、人の役に立てることがあれば、しなさいと言うレベル。だと俺は思っている。

 実際、町中での人々は、笑顔が多い。
 人が集まれば、多少争いも起こるが、周りが仲裁して、すくに騒動は収まる。
 その時に、ちらっと彩様が来るぞとか、碧様が来るぞとか聞こえたことがあるが、まあすぐに、収まるし。うん。

 基本平和だよな。

 そして、好実から、衝撃的事実を聞く。
 別に、子どもが出来たとかじゃないよ。
 俺達が、召喚された原因が、セルビリ=ムスクルスさんだった。
 元魔王。ちょっと調子に乗って、人間達の土地と獣人達の土地に侵攻をしちゃって、ご迷惑をおかけしましたと、謝っていたと。

「じゃあ、あー名字忘れた。英雄君だっけ? 帰ったのかな?」
「さあ? どうでしょ? 基本的に召喚など、適当に引き寄せるのみの出来損ない魔法って、言っていたわよ」
「身も蓋もない」
 そう言って、好実を抱き寄せる。

 俺達は、定期的に神水を飲んでいるので、あまり変化がないし、避妊魔法の影響かどっちかは分からないが、月のものが来なくて快適と、好実は言っている。
 まあそのおかげで、毎晩いちゃついている。
 快感の閾値は随分下がったらしく、彼女は、するのが好きなようだ。
 それだけではなく、心の安定のためにも俺を求めてくるようだ。

 ここへは教会の救済だけではなく、争いの被害者を定期的に彩が拾ってくる。
 助けを求める声が聞こえるらしい。

 その場合は、切られたり色々で、かなりむごい状況、そんな所で、精霊の手伝いをしているうちに、多少、人殺しの禁忌というか、人が亡くなることになれた感じがする。
 その反動か、彼女は、自分が生きていることを確認するように快楽を求める。
 何らか依存? か、とも思うが、お互い様なので、傷や色々なものをなめ合う。

 ********

「ねえあんた、多田野くんと別れたんだって?」
「あーうん。彼は何か違う。そう感じて」
「まあそうだよね。美葉の趣味って、あれ? どんなだっけ?」
「さあ?」
「でも、少なくとも、多田野くんみたいに、普通でふつう…… まあそれ以外、取り柄のないタイプではないでしょ」
 そう言われても、すでに多田野くんて、どんな人だったのか、わたしは忘れてしまった。

「そうね。心がね寂しいのよ。だから、おごってね」
 両手で胸を抱えて、下から見上げる。

「ぐうかわぁ。仕方が無い。その顔で、おごってくれる男を引っかけて、おごらせよう」
「さすがゆすり、だけど親友のためになら、自腹で払えよ」
「あたしの名前は、柚里(ゆずり)だよ。そんなこと言う奴にはおごってヤンねぇ」
「ごめんね。謝ったから、おごって」
 
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