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第六章 魔王と獣人族

第105話 獣人族の失敗

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 空から火球が降ってきた。

 大部分の兵達は、まともに進軍をしていた。
 だが、一部の馬鹿達が、村を襲った。
 その結果、魔人族の怒りを買い。理不尽ともいえる一蓮托生で罰を受ける。

 兵達の上へ、突然現れた炎の竜達。
 逃げ惑い、気がつけば周りを囲まれていた。

 そして頭上から、太陽が降ってきたような、それが表れた。
 逃げ場はない。

「どうして?」
「何が起こった?」
 訳も分からず、焼かれていく。
 圧倒的な暴力。


「ふむ。あれで全滅だな」
 セルビリが、そう言った瞬間に、景色が変わる。

「ガッローニ行け。住人を助けろ」
 ここは、今まさに襲われている村。
 ガッローニを行かせて、望達は他の村へと飛ぶ。

「ひゃっはー。恐れられた魔人族もたいした事はねーな」
 ボロドゥリン兵長は、自身の兵を連れ、村を荒らしていた。

「気持ち悪い姿だが、こいつら雌だぜ」
 獣人は元になる生物がいて、その特徴が有る。

 獣人族の多くは哺乳類系だが、魔人族はそうとは限らない。

 その場に連れてこられたのは、サハギン系だが、進化をして卵産から体内で子を育てる形へ変化をしている。
 カモノハシとハリモグラが、哺乳類としては珍しく卵を産むが、その逆タイプであるといえる。

 ただ姿は、魚類の特徴が残っている。
 特に拳や、背中にある、たてがみ状のものは毒針だ。

 調子に乗っていた兵達は、武器を持っていない姿に安心をしたようだが、パタパタと倒れ始める。
「なんだ畜生」

 あわて始めたところに、大男。
 ガッローニが参戦。

 全身に魔力を纏い、拳の一振りで獣人達は吹っ飛んでいく。
「うおおっ。こいつどこから現れたぁ?」

「てめら、人の縄張りで好き勝手しやがって。覚悟しやがれ。四天王。武の将軍。
ルッジェーロ=ガッローニ。いざ参る」

「げっ。四天王」
「にげ。がわあぁ」
 踵を返した瞬間、背中から衝撃を受ける。
 その一発で背骨が粉砕される。
 
「逃げるんじゃねえ」
 そう言われても、所詮は雑魚達。

 蜘蛛の子を散らすように、バラバラに散らばっていく。

 中には、人質を取ろうと、住人の背中側から刀を首へと回し、住人を盾にする。

「おいおい。そんな事をして大丈夫か?」
 ルッジェーロはこの種族、シーレン達のことは知っている。

「やかま、ぐわっ。何が?」
 見ると、人質の背中から、粗末な服を突き破り、棘が生えていた。

「おう、大丈夫か?」
「なにが、大丈夫じゃねえ」
 口角から泡を吹きながら、獣人の兵は叫ぶ。

「お前じゃない。住人の方だ。お前はもうすでに死んだ。用はない」
「なに? あがっ。あばっ」
 少し痙攣をして、ぱったりと倒れる。

 そのまま少し痙攣をするが、やがて動きが止まる。

「お前達の毒は、強力だなぁ」
「四天王様、ありがとうございます」
「遅くなって悪かった。手助けをして、奴らを殺すぞ」
「はい」

 その頃、他の村では。
「ここの住人、なんだかおかしいぞ」
 兵達は、一つの村を見つけて喜び突進をした。

 確かにその時には、住人達は和気藹々と生活をしていた。
 だが、一歩村へ足を踏み入れると、雰囲気が変わる。

 綺麗だった家々が急にみすぼらしくなり、村全体が廃墟となる。
「なんだあ?」
 一班十人程度の兵が、彼らに捕らえられた瞬間である。

 現実には、村の入り口で彼らは立ち止まり、ぼーっと虚空を眺める状態。

「あら、あなたたちの村でしたか?」
 そこに現れたのは、望達だが、エリサベトが住人に声をかける。
 
「これは、お姉様」
 そう言って、片膝をつき礼を取る。
 彼女達は、種族的にはバンパイアにちかい。

 だがあまり吸血はせず、日の光も問題は無い。
 ただ、口から特殊な波長の音を出して、幻術で相手を夢の世界へ落とす。
 見た目は、角なしの魔人族。ヒト族に近く、犬歯が少し長いだけ。

 どうやら、エリサベトの管理していた者達であったようだ。
「ではこの場は、大丈夫ですね」
「はっ。問題ありません」
「では、次へ参りましょう」
 望へしなだれかかるエリサベトを見て、一人の気に触ったようだ。
 お姉様とどういう関係?

 能力が、望に向けて放たれる。
 だが届かず。
 いや、確かにあたった。
 だがそれは、大海に放り込まれた小石。

 逆に威圧を受ける。

「ぴいっ」
 常人に望の威圧はキツい。
 情けない声を出すと、お姉様と慕うエリサベトの前で、粗相をする羽目になった。

「何かありました?」
 心配をする感じで、エリサベトは望を見る。
「いや、なんでも無い」
 そう言うと、その場から姿が消えた。

 その頃、エドガーは国境へと残され、入ってこようとしている獣人に、ひたすら火球を撃ち出していた。時給○○円、簡単なお仕事です状態。
 来たら、ぽいっと火球を投げる。
 後は、ぼーっと待つ。
 こだわりは、焼けたところが、見事に一直線になっていた。

 そこへ、望達が帰って来る。
 傍らには、土の精霊である伽羅が立っていた。
 そう、例のあれである。

 国境には、境を建てましょう。
 まるで何かを撒くように、手を軽く振るだけで、低かった山々は、一気に高山へと育つ。
 元々、プレートが重なり、ストレスを抱えていた土地、一気に隆起をする。

 こうして、国境を閉ざされた獣人国。

 気がつけば、獣人の住むウアベスティーエ=ビーバレは、精霊国との境も閉ざされ、完全に陸の孤島となる。

 そして、国境の高山には、ドラゴン達がやって来て住み着く。

 結果的に、他三種類の民族がこれから受ける、恩恵と発展から取り残される事になる。欲をかいたばかりに。

「これで良いな。良し、残りは試合だな」
 やれやれという感じで、望が伸びをする。

「試合は、後二つでございますが、あの火球。私でも作ることが出来ません。試合、本当に必要でしょうか?」
 望が軽く言った、試合の言葉。
 決勝では、あたることが確実となっている相手。

 獄炎のエドガーとしては、最初に見た火球で腰を抜かした。
 そもそも、元魔王であるセルビリが創った炎の竜。あれすら出来ない。
 セルビリは簡単にやっていたが、無駄なこだわり。
 炎で竜の造形をして、その形を変えながら、複数をコントロールする。

 さらに、セルビリは他の系統も使える。

 エドガーと仲の悪いのは、有り余る才能を持ち、自身よりも圧倒的な魔術の力を持つセルビリ。
 それを理解せず、魔王の職責すらまともに果たさずに、ふらふらしている。
 エドガーには、それが許せなかった。

 だが、そのセルビリが従う相手。
 リギュウムディの王。
 もうね。
 試合? それって美味しいの状態で、理解ができない話である。
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