神の都合と俺の都合

久遠 れんり

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第二章 異世界暮らし

第40話 何かの予感

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「帰りたいよね」
 誰かがぼそっと言う。

 その言葉は、多分誰もが思っている言葉。
 櫛の歯が欠けるように、クラスメート達は死んでいった。
 この世界では、生きるのに必死だし、いつしか絶望の中に押しとどめた言葉。

 だけど酔って、本音が出た様だ。

「えー帰るの? まだ魔人国を見ていないよ」
 八重からそんな台詞が聞こえると、ザワザワと言い始める。

「ざわざわ?」
「ざわざわ……」
「ざわ、ざわざわ」
 話しをしていた、武神が立ち上がる。

「魔人国は魔法が得意らしいし、帰れる方法も見つかるかも知れない。行こうぜ皆」
「おー」
 そして、表情が少し明るくなって、またざわざわ。

 焦ったのは、巫女。
 さっきまで、ここには神木があるのみ、他には何もないと散々言っていたのに、俺達が、魔人国に行くと言い出すと途端に焦り始める。

「そう言わずに、もっとゆっくりしていけばいい。泊まるところもあるし。ほらわしら美男美女だろ。昔迷い込んだ商人が言っておった」

 確かにそうだ。
 美形ではあるが、少し作り物のように感じる。

 全員クローンじゃないかと思うくらい顔が一緒だし、精霊種の特性なのか?

 まあ数日は、此処に逗留するらしく話しが落ち着いた。

 そして此処の集落、非常にオープンでドアがないんだよね。
 一応危険防止のために木の上に橋を架けて暮らしている。
 一見すると鶏小屋だな。

 夜中に寝ぼけない限り安全そうだが、寝ているとちょろちょろと男どもが通る。
 まあ俺の部屋は、女の子比率が高いから気になるのだろうが、いい加減鬱陶しい。
 出入り口に、大楯を並べる。

「明日ドアを作るか」
「そうね、落ち着けないわ」
 
 そんな夜。
 皆を寝かしつけ、俺は大枝の上でソーマを飲んでいた。
 そこにやって来たのは委員長。

「こんな時間に…… 眠れないのか?」
「うん。そう思ったら、そのお酒がすごく匂ってきたの」
「いるのか?」
「うーー。うん」
 そういうので杯を渡す。

「皆は、一応帰りたいみたいだけれど、こんなに姿形が変わっちゃって、帰っても驚かれるよね。それに学校どうなるんだろう?」
「学校は通わないといけないだろう」
「もう退学になったんじゃないの?」
「いや、時間は進んでいない」
 ぽろっと言って、あわてて口を押さえる。

 ちらっと、委員長を見る。
 睨んでいた……

「どどどど……」
 一口酒を飲んで、もう一度やり直し。
「どういう事?」
 キスでもされそうな勢いで、顔が目の前。
 胸ぐらを掴んでブンブンされる。

「ああいや、くるときに神様に会っただろ」
 そう言うと、嫌そうな顔になる。
「あのバニー姿のお姉さんたち? 神様だったの?」
「実はそうなんだ。それでちょっと仲良くなって聞いたんだよ」

 そう言うと、もっと顔が近寄る。
 ついちゅっとしてしまう。

 すると、ガバッと離れた。
「なななな、なにゅをしゅりゅ」
「いや、普通顔が寄ってきたらするだろう」
「しないわよ」
 そう言って睨まれた。

 顔が赤いのは、酒の所為だろう。
「その…… 帰る方法とか聞いていないの?」
 なんか杯を、手でもて遊んでいるから注いでやる。

「違うけど…… まあいいわ」
「聞いたよ」
 そう言ってから、おもむろに酒を飲む。

「そう…… …… えっ? えっ? えっ? 聞いた? それならどうして皆に言わないの?」
「うーん。言ってもなあ…… 」
 俺は押し黙る。

 まあ良いか。委員長だし。
 なんとなくそんなノリで、言うことを決める。

「死ねばいい」
 軽くそんな言葉を吐く。

「えっ?」
「この世界で死ねば帰れる。それだけだ。だから言っても言わなくても皆帰れる。体は丈夫そうだけれど、寿命はありそうだしな」
 そう伝えると、ガーンという顔になった。

「じゃあ皆は、死んだ皆は、帰ったんだ……」
「そうだな」

 そう言うと、なんだか嬉しそうな顔で、ソーマをちびちびと飲む委員長。
「そうなんだ…… ねっ、こっちで死んだ人は?」
「そりゃこちらの、輪廻のサイクルに戻るだろう」
「それって、またどこかで生まれているっていう事よね」
「そうだね」
 そう言うとなんか、ほっとした顔をする委員長。

「よし。ごちそうさま」
 そう言って勢いよく立ち上がり、ふらついて落ちそうになる。
「助けて」
 そう言うので手を伸ばす。

 そのまま、俺の手をつたい、抱きついてくる。

「死ぬかと思ったぁ」
「さっき話を聞いたから、死ぬ気かと思ったのに、違ったんだ」
「違うわよ。だけど、それならそれで、もう少し頑張る」
 そう言って、今度こそ部屋へと帰っていく。

 武神のいる部屋へ。

 委員長がいなくなると、やってきたのは巫女さんだ。
 ずっと、盗み聞きをしていた。

 そう、上の枝にいたのは知ってる。

 ロープが下がり、降りてくる。
「その…… 奇遇じゃな……」
「そうなのか?」
 そう言って、彼女の顔をじっと見る。

 頬がぽっとなって、口がうにゅっと伸びてくる。
 黙って徳利の口を突っ込み、底を回転させる。

 徳利の中では、酒が回転して、彼女の腹の中へと落ちていっただろう。
「ひどい。私の何が気に入らないの?」
 キラキラしながら、見つめてくる。
 なんだろう? そうまじまじと聞かれても分からない。
 ただ、こいつが鬱陶しいということだけは分かる。

 巫女として崇められていた特別な存在。
 うーん。
「よくわからんが、だめだな」
 そう言うと、彼女はよよよという感じで、悲しそうな顔をするが、何かをする気配は、ビンビンに感じる。

 周囲に、張り詰めた緊張が漂う。
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