神の都合と俺の都合

久遠 れんり

文字の大きさ
41 / 55
第二章 異世界暮らし

第41話 快楽(けらく)

しおりを挟む
 仏教用語に快楽けらくと言う言葉がある。
 修行の中で、世俗の欲を乗り越え、心が開放されて気分が良くなる状態を示す。

 今まさに、巫女バルブロ=イサベレ=アマンダ=アルヴィドソンは、それを感じていた。

 多少の痛みはあった。
 だがそれは、温かな光に包まれたときに消え失せ、内側から繋がる部分、そこから何かが吹き上がり脳を焼く。

 それは、この世の物とも思えない快楽を、肉体に対して与える。
「あ、あ、あ、あ、あー」
「大丈夫か、これ?」
「大丈夫でしょ」
 白目で、体中が痙攣している。

 その時、巫女は世界樹と繋がり、この星を空から見た。
 暗い空。
 向こうに太陽があり、衛星であるアルベドが輝いている。

 世界樹から放出される星のエネルギーは、白き光となり星を包む。
 その光は、黒き物を浄化し、急速に星は色鮮やかになっていく。

 巫女バルブロは理解する。
 あの者達が来て、神木が元気になった。
 そのおかげで、この星が元気になり、今浄化されて本来の姿を取り戻そうとしている。

 あの黒き煙のような物は、きっと悪しきものだったのだろう。
 
「おおお、ありがたきこと」

 現実では、白目をむいた巫女が涙まで流し、おおおとかあああとか言っている。

 周りは皆ドン引き状態。

「それ、壊れたんじゃない?」
「うんまあ分かる。悠人君の気持ちいいもの」
「そうそう、あの獣人のって、異物感がすごかったよね」
「言わないでよ、思い出すから……」

 周囲で、楓達が騒ぎ始める。
「未希が変なことを言い出すから思い出しちゃった。はやくう」
 皆がすがりついてくる。

 そう、たまにあの記憶がフラッシュバックされ、治療がてら皆と行為をする。
 一度すると、三日くらいはすごく幸せなんだそうだ。


 そんな事を、していたとき。

 委員長は悩んでいた。
 目の前にいる武神は、警戒心もなく寝ている。
 屋外では、どうしたって危険があるため、寝ていてもどこか緊張感があってすぐに目が覚めるが、建物内で周りに仲間がいるそうなると少々揺すられても起きない。


 こっち側で仲良くなり、死んだときには日本で生き返る。
 人生二度美味しい。

「あなた、私幸せだったわ…… ガクッ。とか言って死んだ後、向こうで生き返る。沙織とか言って、生き返った瞬間、向こうで人生を…… いえ、私が死んだ後、誰かといい仲になったら、きっとぞくぞくするような冷たい目を向けられる…… それも嬉しいけれど、不毛ね」
 そんな事を、妄想しながらぶつぶつと言う委員長。

 そう暗い、部屋の中。

 遠見は委員長が来たときに、気配で目が覚めた。
 だが、彼女だったために無視をしたのだが、見れば鬼気迫る表情。
 そして、ひたすらぶつぶつと、お経のようなことをひたすら言っている。

 何か、武神に呪いでもかけているのじゃ無いかと、勘ぐってしまう。
 
 普段、委員長は、武神から犬っころのような扱いを受けている。
 だけど、それを喜んでいる節があり、皆なにも言わないが……
 心に積もる何かがあって……

 ナイフでも出せば、すぐに飛びかかれるように、遠見は緊張がマックス。

 彼女はそっと、座り込む。
 覚悟を決めたようだ。

 おもむろに、武神のズボンを下ろしぱっくりと……
 つい、遠見は声を出してしまう。
「あっ……」
「えっ?」
 横を向いた委員長と目が合う。

 ものすごく、気まずい状態。
「あっ、お気になさらず、どうぞ」
 遠見はそう促すが、当然委員長は、みるみる真っ赤になり……
「いい、いやぁぁぁ……」

 そう叫びながら、出て行った。
「なんだ? うおっ、なんでズボン」
 武神はズボンを下ろされている状態。
 近くで呆然と見ている、遠見。

 武神からハンドサインがやって来る。
「これはお前か?」
「違う違う」
「それなら良いけど、そんな趣味はないから」
「違うと言っているだろうがぁ」

 そんな騒動があった。


 そして、やめればいいのに委員長は、悠人の部屋へ飛び込んでしまう。

「いやああぁ」
 そこで繰り広げられる光景を見てつい叫ぶ。
「やかましいわね」
 次の瞬間には八重に電撃を喰らう。
「ひゃん。あがっ」

 うつらうつらとした記憶の中で、声がしている。
「良いんじゃない? 委員長も恋人を死なせて辛いのよ」
「そうそう。やっちゃえ。夜中に入ってきたなら夜這いよ。男なら受けてあげないと」

 違う……
 そう思うが、体が動かない。

 だけど、そこから始まるものは、恋人だったドニ-=クーベル君の行為が児戯だったと理解させられる。

 そう、人は知ってしまうと戻れなくなる。

 その晩、委員長は新たな世界を知った。
 それだけで、武神のことなど頭から飛んでしまい、周囲を困惑させることになる。

 おそらく、委員長は最悪な類いの人間。
 快楽を与えられると、その人を好きになる。
 強く言われると逆らえない性格と相まって、浮気をしまくる人物となるだろう。
 だが此処で最強の快楽を知り、たとえ他の奴にやられても、なびくことはない。

 それは、きっと彼女の人生において良かったのだろう。

「あれ? おかしいなぁ」
 悠人の取り巻きに混ざっている委員長を見て、遠見は首をひねる。

 その横で、そっと離れる武神。
 やっぱりこいつ、もてないからとうとう俺に?
 やばい誤解が一つ、委員長の行動で誕生したようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...