泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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夏の残照と初秋の人恋しさが……

第1話 夏の別れ

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「別れようぜ」
「えっ?」
 夏の初めに海に行った後、忙しいと言われて久々に会ったらいきなりの言葉……

「本気なの?」
「マジだよ」
「どうして?」
 そう聞くと、彼はウザッという感情が表情に出る。

「おれさあ、そろそろ真面目に結婚でもしようと思うんだよ」
「はっ?」
「丁度海行ったときに良い子と知りあってな」
 そこからは、信じられないようなことをペラペラと聞かされた……

「私は遊びだったわけ?」
「うん? 俺達ダチだろ。なんとなく、けじめとして言っとかないとなと思って。まあ体が空いているときは相手を頼むよ」
 そう言うと、彼は去って行った。
 伝票を残して……
 その日、私の恋は終わった……


 私は彼が初めてだった。
 まさか、セフレ扱いだったなんて……

 腰が抜けて、立ち上がれない。
 一体何が起こったのか理解できない。
 ただ悔しくて、涙が止まらない……

 呆然として、何も考えられない日々が続く。
 それなのに、カレンダーは進み、季節は秋へと変わっていく。

「あつうー」
「そうね」
 この子は同僚の飯野 凪紗いいの なぎさ結構さっぱりした性格というかすべてが大雑把。
 だけど気を使わなくて良いから、一緒にいて楽。

 居酒屋でビール片手にうだうだと、職場の悪口だったり、やって来る営業さんのことについて文句を言っている。
 それに対して、私は適当に相づちを返す。


「ちょっとトイレ」
 凪紗にそんな宣言をして、私は席を立つ。
 店はそんなに大きくないが、男女の個室は別れていて、廊下の突き当たりでT字型に別れて、突き当たりには手洗いがある。

「ちっ」
 思わず舌打ち。
 先客有りのようだ。
 待っていると背後で音がする。

 男子トイレから誰かが出てきた様だ。
 それでも私は、警戒感もなく、壁にもたれたまま女子側個室のドアをぼーっと眺めていた。

 ふいに、視界が下がる。

 完全に気が抜けているときに、膝カックンをされた。
「もう。凪紗。何をするのよ」
 そう言って、振り向きながら見上げると、知らない男…… ? いや知っている。

 大学時代に好きだった人。
 仁科 修平にしな しゅうへいその人だった。
「お久しぶりい沙知さち
 そう言って、右手を軽く顔の辺りまであげる。

「お久しぶりじゃないわよ。漏らしたらどうしてくれるのよ。女の子はそれでなくとも漏れやすいんだから」
「悪い。久々に見たから、テンションが上がってな」
 そう言って嬉しそうな顔。

 丁度ドアが開いて、出てきた女の子に睨まれた。
 まあ女子トイレのドアの前。立っているだけでもじゃまなのに、片方は男だもの。嫌でしょうね。

 私は松戸 沙知まつと さち
 大学時代、修平には立野 玲華たちの れいかという彼女がいてラブラブだった。女の子同士だと、お高くとまった感じのツンケン女、何かを言えばマウントを取りに来る女だったけれど、猫をかぶっていたみたいね。

 なんとなく別れそうだと思いながらも、修平の献身によって関係は続いていた。

 でまあ、就職をしてから、疎遠になって……
 いいえ。事あるごとにいちゃつく二人を見たくなくなって、会わなくなった。
 誘われても、理由を付けて、断ったの。

「ほい、漏らす前に行け」
「分かっているわよ」
 そう言って、私はトイレに駆け込む。

 私は久しぶりにドキドキしていた。
 この所の無気力からの復帰。

 そして、修平め。聞き耳をなんか立てていないわよね。
 そんな性癖があるとは聞いていないのだが……
 勝手に想像をして、ドキドキしてしまった。

 でもまあ流石にいなかった。
 少し残念に思いながら手を洗う。
 幾度か、振り返ったがいなかった。
「もうっ」
 なぜだか腹が立つ。

 少し不機嫌になりながら席に戻っていると、すぐ近くに奴らは居た。
 手を振ってくる。
 それだけで、また気持ちが上向く。

 男がもう一人。そして女の子が一人。
 楽しそう。
 何を喋っているんだろう。

「それで…… 聞いてる?」
「うん。よかったわね」
「よくないわよ。家にいるなら生活費を入れろって言う話しに、どこがよかった成分があるのよ」
「今まで入れてなくて、生活ができたんでしょ」
「それはそうだけれど……」
「良かったじゃない」
「もうっ」

 そんな馬鹿な話をしながら、飲食も終わり立ち上がると、会計に向かう。
 すると、彼らも帰るようだ。
 いや、強引に終わらせたのか、女の子が文句を言っている。

「だから久々に、大学の時の友達に会ったんだって」
「じゃあ一緒に行きましょ。どうせカラオケか、いつものバーでしょ」
「そりゃそうだけど、今日は平日だぞ」
「良いんです。休暇は沢山ありますから」
 その答えに、修平ももう一人の男の人も苦笑い。


「おう。沙知。この後飲みに行こうぜ」
「あーうん。まあいいけど。友人も一緒で良い?」
「いいよ」
 そう言って会計。

 道すがら軽く自己紹介。

「へー。修平の友人にしてはまともそうな人」
「そうだろう。名前が少し足りない、かわいそうな人だがよろしく」
 かれは、大谷 淳おおたに しゅん。二十五歳。身長百八十二センチくらいで顔もそこそこ。有名な野球選手と同じ苗字だが、名前がちょっと足りないと言うけれど、彼は確か翔平だったから、そもそも違う気がする。

 もう一人の女の子は、加藤 有希かとう ゆうきちゃん。二十四歳。ショートヘアでボーイッシュ。百六十センチくらい。修平と同じ会社で後輩だそうだ。

 先輩後輩だけど、妙に距離感が近い。

「二人は付き合っているの?」
「いいえ? そう見えます?」
「いや、距離感が近いから」
 そう言うと、彼女は納得したようだ。

「幾度か、寝たから?」
「ばか。言うなよ」
 修平がわたわたする。

「それがですねぇ……」
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